ADLに影響を与える予後予測因子 −心疾患−

竹林崇先生のコラム
循環器疾患
リハデミー編集部
2022.08.05
リハデミー編集部
2022.08.05

<抄録>

 心疾患に対するリハビリテーションは,総じて『心臓リハビリテーション』と呼ばれ,国内外問わず,多くのエビデンスが存在する分野である.また,それらの知見をまとめたガイドライン等も示されており,患者の意思決定や正確な評価からもたらされる予後予測を実施し,それに基づいてアプローチ方法を選定する『エビデンスを基盤としたリハビリテーション』を体現している数少ない分野の一つと考えられている.本項においては,心疾患患者の日常生活活動の自立度に対する予後予測に関する情報を,先行研究の知見をまとめる.

1.心疾患患者の予後予測

1)運動生理学的検査を用いた予後予測

 一般的に,十分に負荷をかけることができる心疾患患者の死亡や入院等のイベントについては,運動負荷試験におけるPeak VO2は最も正確な予後予測因子となりうる1)-3).また,その他にも,嫌気呼吸代謝閾値や二酸化炭素排出量に対する分時換気量の傾き(VE vs VCO2 slope)もほぼ確立された予後予測指標で,34もしくは35以上で予後不良とされている4)-6).前述したとおり,これらはあくまでも心疾患患者の死亡や入院等のイベントを予測する因子であるが,これらのイベントが起これば,必然的に付随するADLやIADLの低下も認められることが多い.従って,ADLやIADLを直接的に予測する因子ではないものの,これらの指標については,参考にする必要がある.


2)臨床において用いる評価による予後予測

 臨床において用いられる評価において,ADLに関する予後に影響を与える強い因子として,膝関節伸展筋力がある.等速性膝関伸展筋力は,上位で示したVE vs VCO2 slopeと有意に逆相関すると考えられており,検査に労力が比較的かかる運動生理学的検査と同様に心疾患患者の転機を図る指標の一つと報告されている.

 例えば,Husmannらら7)は,心不全患者に対して,等速性筋力測定検査を実施した際,膝関節のpeak torque indexが独立した死亡に関わる独立した変数であることを示している.また,Kamiyaら8)も,冠動脈疾患患者において,膝伸展等尺性筋力の体重あたりの筋力が最も大きい群が5年間の追跡における死亡率が有意に少なかったとしている.また,下肢筋力と同様に,握力も強力な生命予後の規定因子と考えられている(握力が5kg減少するにあたり,ハザード比1.16ずつ変動)9).

 また,包括的下肢機能を評価するShort physical performance battery(SPPB)もADL等の予後を調べるために有用な評価と言われている.この評価は,バランステスト,4m歩行時間,椅子からの5回の立ち上がりの3項目から校正される評価である.この評価を使い,Yuguchiら10)は,心臓外科術前にSPPBを測定し,0-6点,7-9点,10-12点の3群(点数が低いほど下肢機能が低い)にわけて,歩行機能の獲得を調査している.の結果,SPPB0-6点の群が歩行機能の獲得期間が他の群に比べ有意に低かったと報告している.さらに,外科術を控えた心疾患患者における異常値のカットオフ値としてSPPB9点以上(感度0.82,特異度0.71)が示されたと報告している.


3)心疾患患者のADLに対する予後予測

 Dunlayら11)は,1128例の慢性期心疾患を対象に,ADLの予後予測に関するコホート研究を実施している.この研究では,研究開始時に既に59.4%の患者は1つ以上のADLに困難を感じており,24.1%が中等度,12.9%が重度のADLの困難度を抱えていたと報告している.この研究では,3.2年間の追跡期間の間に,54.4%の患者が死亡し,ADLの障害は時間が経つにつれ,重篤化していた.また,ADLの困難が少ない患者に比べ、中等度および重度の対象者における死亡のハザード比はそれぞれ1.49,2.26であった.また,階段昇降や,歩行,掃除等,長距離移動,入浴と言った行為が困難と答える患者が多いとされている.さらに,登録時のADLの困難さのレベル(なし/最小,中等度,重度)に応じて,死亡までの期間を示すKaplan-Meier曲線を示している.この結果から,ADLの低下が死亡率に影響を与えることが理解できる.

 心臓血管術後のADLの入院時から退院時のADLの経過を調査したHondaら12)の研究では,退院時のADLの低下を予測するための因子として,Mini-Mental Examinationで測定した認知機能の低下(オッズ比で0.573),歩行速度の低下(オッズ比で0.032),ベッド周りの歩行開始日が早い(オッズ比で1.277)が挙げられた.また,小岩ら13)の心不全患者における退院時のADLの低下の予測について調査した研究では,単変量解析の結果,入院時の年齢が低い,性別である,入院時BMIが高い,入院時の左室EFが低い,Modified functional testが低い,30cmもしくは20cmの立ち上がりが不可能なことが,ADLの自立度の低下に影響を与えていることが示唆された.次に,多変量解析の結果では,modified functional testが高いこと(オッズ比で0.732),30cmの立ち上がりが可能なこと(オッズ比で0.080)が,ADLにおける自立度向上の因子であることが示唆された.さらにこれらの因子を組み込んだモデル式 = ‒0.233 × M-FRT‒2.530 × 30 cm 立ち上がり(可能:1/ 不可:0)+ 6.491と示され,そのカットオフ値は-1.647(感度91.7%,特異度86.9%)であった.


参照文献

1. Mancini DM, Eisen H, Kussmaul W, et al. Value of peak exercise oxygen consumption for optimal timing of cardiac transplantation in ambulatory patients with heart failure. Circulation 1991; 83: 778- 786. 

2. Keteyian SJ, Patel M, Kraus WE, et al. HF-ACTION Investigators. Variables Measured During Cardiopulmonary Exercise Testing as Predictors of Mortality in Chronic Systolic Heart Failure. J Am Coll Cardiol 2016; 67: 780-78

3. Nakanishi M, Takaki H, Kumasaka R, et al. Targeting of high peak respiratory exchange ratio is safe and enhances the prognostic pow- er of peak oxygen uptake for heart failure patients. Circ J 2014; 78: 2268-2275. 

4. Gitt AK, Wasserman K, Kilkowski C, et al. Exercise anaerobic threshold and ventilatory efficiency identify heart failure patients for high risk of early death. Circulation 2002; 106: 3079-3084 

5.Arena R, Myers J, Aslam SS, et al. Peak V4 O2 and VE/V4 CO2 slope in patients with heart failure: a prognostic comparison. Am Heart J 2004; 147: 354-360. 

6. Tsurugaya H, Adachi H, Kurabayashi M, et al. Prognostic impact of ventilatory efficiency in heart disease patients with preserved exer- cise tolerance. Circ J 2006; 70: 1332-1336

7. Hülsmann M, Quittan M, Berger R, et al. Muscle strength as a pre- dictor of long-term survival in severe congestive heart failure. Eur J Heart Fail 2004; 6: 101-107 

8. Kamiya K, Masuda T, Tanaka S, et al. Quadriceps Strength as a Predictor of Mortality in Coronary Artery Disease. Am J Med 2015; 128: 1212-1219. 

9. Leong DP, Teo KK, Rangarajan S, et al. PURE Study investigators. Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Ur- ban Rural Epidemiology (PURE) study. Lancet 2015; 386: 266-273. 

10. Yuguchi S, Saitoh M, Oura K, et al. Impact of preoperative frailty on regaining walking ability in patients after cardiac surgery: Multi- center cohort study in Japan. Arch Gerontol Geriatr 2019; 83: 204- 210. 

11. Dunlay SM, et al. Activities of daily living and outcomes in heart failure. Circ Heart Fail. 2015; 8: 261-267

12. Honda Y, et al. Predictors of functional decline in activities of daily living at discharge in patients after cardiovascular surgery. Circulation Journal 2021; 85: 1020-1026

13. 小岩雄大,他:心不全患者における退院時日常生活動作の低下の予測.理学療法学49: 180-188, 2021


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