身体障害領域における作業療法の新しい働き方『自費リハビリテーション施設』の可能性について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患, 保険医療福祉, 経営・マネジメント, その他
リハデミー編集部
2023.01.06
リハデミー編集部
2023.01.06

<抄録>

 近年,日本の財政のバランスシートの悪化に伴い,医療・福祉分野において,リハビリテーションを取り巻く公的保険制度における点数減少が続いている。過去には疾患発症後,医師の処方があれば,延々と継続できたリハビリテーションも現在では,医療保険においては疾患発症から180日を目処に減算等の処置がとられている.また,それに伴い必要なリハビリテーションを受けることができないいわゆる『リハビリ難民』と呼ばれる対象者の方も増えている.そんな中,近年注目を浴びている領域として『自費リハビリテーション』がある。自費リハビリテーションとは,対象者がリハビリテーションにかかる費用を全面的に負担し,サービスを受ける枠組みを指している.ただし,日本においては,皆保険下で医療や介護を自費(プライベートサービス)にて利用する文化は薄いようにも感じる.本コラムは,自費リハビリテーションをはじめとしたプライベートサービスが,今後どのようなトレンドを辿るのかについて,背景とあわせて解説を行う.

1.高齢者を取り巻いてきた社会の環境と介護福祉

 日本において,戦後の混乱期の後に,医療・福祉分野における緊急援護と基盤整備が急速に進み,生活困窮者の救援が行われてきた.1960年代には老人福祉政策が始まり,老人福祉法制定,訪問介護(ホームヘルプサービス)事業や特別養護老人ホームの創設等が実施された.1970年代にはいると,それに伴い老人医療費の無料化,短期入所生活介護(ショートステイ事業)の創設,日帰り介護(デイサービス)事業の創設などが行われ,高齢者の医療費の加速度的な増大が観測されはじめた.1980年代に入ると,これら高騰する社会福祉費用の財源を確保するために,消費税が創設され,それらと同時にゴールドプラン(高齢者保険福祉推進十か年戦略)の策定が進められ,施設の緊急整備と在宅福祉の推進がさらに進められた.1990年代にはいると従来のゴールドプランから刷新された新ゴールドプランが策定され,施設や在宅福祉に対してより一層高い目標が設定され,整備が押し進められた.それと同時に,膨れ上がる社会福祉費用の財源確保のため1989年に創設された消費税の税率3%を1997年には5%まで引き上げた.その後, 2000年代に入り,介護保険制度が実施され,新ゴールドプラン21等が打ち出された.2009年には地域包括ケア構想が打ち出され,2014年にはさらに膨れ上がる社会福祉費用の財源として消費税率の引き上げ(5%→8%)が実施された.その後,2015年に地域医療構想が打ち出され,現在に至る1.

2.自費領域(プライベート市場)は今後どのような変環となるのか?

 現在,多くの介護予防サービスが介護保険等の公的保険制度下で実施されている.しかしながら,介護保険によるサービスを受ける世代は年々その割合を増やしており,高齢化の割合も2010年には全国民の20%,2015年には25%を超えて,加速度的に伸びてきている.基本的に全国民に対して高齢者の割合が7%を超えると高齢化社会,14%超で高齢化社会,21%超で超高齢化社会と言われている.日本は,イタリア,ポルトガル,ドイツ,フィンランド等と並び,世界においても有数の高齢化率を誇っており,介護保険で対応するサービスの市場も飛躍的に拡大している.

 さて,野村総研では,介護保険制度が今後縮小及び廃止といった仮想の未来に対して,プライベート市場でどの程度の需要が市場にあるのかを推計している.この推計では,要支援・要介護高齢者数については,要支援・要介護の高齢者数を人口動態,要支援・要介護認定率,国別富裕率(可処分所得額10000USD以上),介護度による対象者絞り込みをおこなっている.さらに,サービス利用額については,一人当たりのサービス利用額,要支援者・介護者数,国別物価指数,民間価格補正(民間にてサービスを提供した場合,公的保険下よりも1.3倍ほど単価が高騰するという仮説から補正)より導き出している.また,国別富裕率は,介護保険が縮小および廃止された前提を考えているため,ある程度の可処分所得を有する対象者を前提としている.

 この推計の中では介護サービスと介護予防サービスが想定されている.介護サービスは要介護3以上の重度障害を有する対象者,介護予防サービスは要介護・支援といった予防を含むケースを想定している.脳卒中後の上肢麻痺を有する対象者は,後者に振り分けられることが多いため,介護予防サービスの額について,検討を行う.この中で,訪問リハビリ,通所リハビリなどのサービスが割り付けられているセクションは,介護予防居宅サービスにおける訪問通所となり,その市場規模は467億円程度と考えられている.これらが20年後の2040年には626億円程度まで拡大されると予測されている.この中で,脳卒中後の対象者でかつ上肢麻痺単体に対するリハビリテーションプログラムを所望する対象者を乱雑に算定すると,介護認定が要介護1・2,要支援1・2の割合が400万人おり,そのうちの脳卒中患者を前脳卒中患者の4割程度の70〜80万人程度と推定される.その内,上肢麻痺を有する対象者を8割と鑑みると,全体の3割程度が対象となる.従って,介護保険サービスが全く機能していなかった場合の市場規模としては,少なく見積もって,現在で140億円程度,20年後には190億円程度に膨れ上がる可能性がある.

 最も,介護保険制度が縮小及び廃止になった場合の算定だが,潜在的にこの程度の市場が考えられることから,これらの市場に対するサービス構築の可能性も今後頭の片隅に置いておきたいと思われた.


参照文献

1.平成28年版厚生労働白書

2.平成30年度国際ヘルスケア拠点構築推進事業(国際展開体制整備支援事業)アウトバウンド編(介護分野)報告書:日本における介護分野の実態調査

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