エビデンスを基盤としたリハビリテーションプログラムを遂行するために必要な臨床疑問の定式化について

竹林崇先生のコラム
患者教育
リハデミー編集部
2023.03.06
リハデミー編集部
2023.03.06

<抄録>

 近年,エビデンスを基盤とした医療(Evidence based medicine: EBM)が多くの臨床現場において利用されるに伴い,リハビリテーション分野においても,エビデンスを基盤とした実践(Evidence based practice: EBP)の遂行が求められるようになっている.EBPとは,対象者の特徴,背景文化,趣味嗜好や優先傾向に照らし合わせ,利用可能な範囲の最良の 研究結果(エビデンス)を臨床技能に統合した対象者中心の医療実践を提供するためのフレームを指す.EBPを実施していく際には,まず一般臨床の中で生じた解決しなければならない疑問(Clinical Question: CQ)に対して,PICOやPECOを用いて臨床疑問を定式化する必要がある.本コラムにおいては,3回に渡り,EBPを遂行するための臨床疑問のあり方からPICO,PECOを建てる意義,実践にわたり解説を行う.第一回は,臨床疑問の種別について解説を行なっていく.

1.臨床疑問とは?

 PICOやPECOといった臨床疑問(Clinical Question: CQ)の定式化を行う際に重要なこととして,『そもそも臨床疑問とは?』ということを理解しておくことは重要である.臨床疑問というと,実際の臨床現場で解らないこと全般を指すイメージが強い.しかしながら,臨床疑問に種別が存在する.一般的に臨床現場で働いていると,いくつかの疑問に出会う.この疑問こそが,臨床における思考や判断,さらにはスキルにつながることは想像に難しくない.さて,では,リハビリテーション における臨床現場で,どのような臨床疑問を思い浮かべるのであろうか.Strausらは,臨床疑問には大きく分けると2つの区別が存在すると主張している.それらの1つは,Background question(背景疑問),もう1つはforeground question(前景疑問)と言われている.

 まず,Background questionとは,未知の分野について学んでいこうと考えた際,最初に疑問に思うことの多くを指します.例えば,初めての疾患の概要,対象者服用している初見の薬の効能など,疾患や言葉等,既に多くの知見があり,その分野においては一般的に普及している情報を指す.これら,Background questionは,一般的な臨床を遂行するためには,なくてはならない情報であり,基本的な既知の情報と言える.新人医療従事者に代表される書学者は,これらのBackground questionに対する知識が圧倒的に少なく,まずは一般臨床を一通り遂行するために,これらを学ことから始める.継続的に学習していると,当該領域においては,Background questionに対する知識は充足される.しかしながら,これら1つ1つのBackground questionに対する知識だけでは臨床業務をスムーズに遂行する上で十分ではない.

そこで,必要になるのが,Foreground questionである.Foreground questionとは,Background questionに関する知識を2つ以上組み合わせた際に生じる疑問のことを指す.例えば,『ある疾患で生じるある障害の機能予後が,あるリハビリテーションプログラムを実施した結果,どのように変化するのか』といったForeground questionがあったとする.このForeground questionは,『ある疾患で(Background question①)で』,『生じるある障害(Background question②)』の『機能予後が(Background question③)』が,『あるリハビビリテーションプログラム(Background question④)を実施した』といった4つのBackground questionから形成されていることとなる.

Background questionは基礎的な疑問であり,その答えとなる知識は,臨床における思考や判断に直接的な影響を与えることは少ない(もちろん,Background questionに関わる知識がなければ,思考・判断が必要なステージにまでも到達できないのは当然であるが).むしろ,一般的な臨床においては,Foreground questionの答えとなる知識や思考,そして経験が意思決定の源になることが多い.さて,これらのForeground questionは,通常,構造化することができます.上記に示したように,複数のBackground questionの集合体であるForeground questionはその疑問の中にどういった要素が含まれているのかを漏れなく書き出し,構造化することで,より具体的で正確な臨床疑問になる.

さて,実際の臨床における眼前の対象者に由来する臨床疑問を,具体的で理解しやすく,かつシンプルな形に整理する必要がある.この際,PICO(Patient, Intervention, Comparison, Outcome)と呼ばれる方法を利用することが多い(以前は,観察研究に関しては,PECO[Patient, Exposure, Comparison, Outcome]と使い分けられることが多かったが近年はPICOのみが使われていることも多い).

まとめ

 本コラムにおいては,EBPを行う上で必要な臨床疑問の定式化の前段階で持っておくことが求められる臨床疑問について,2種類のBackground questionとForeground questionについて解説を行なった.臨床現場で働くために最低限必要な知識が,Background questionであり,複数のBackground questionが相重なり,より複雑な臨床における思考や意思決定につながる臨床疑問をForeground questionである.これらを理解した上で,臨床疑問の定式化の手続きを踏むことが重要である.第二回では,PICOやPECOの概念や,これらを実施する意味について,解説を行う.


参照文献

1. Straus SE, et al. Evidence-based mecidine: How to practice and teach it. 4th ed. Churchill Livingstone; 2010

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