ネットワークメタアナリシスに見る脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムのエビデンスについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.03.03
リハデミー編集部
2023.03.03

<抄録>

 臨床において利用可能な正確なエビデンスを集約・作成するための手法としてメタアナリシスが存在する.しかしながら,従来のメタアナリシスで解析の対象にできるのは,あくまで2種類の治療方法であり,興味の対象となる治療法が3種類以上となると,これらに関わる効果を同時に比較することは困難である.そこで,近年,ネットワークメタアナリシスといった手法が注目を集めている.ネットワークメタアナリシスは文献内で直接比較されていない治療法間の相対的な有効性を推定することができる手法である.これらの手法を用いた医行為や薬剤に関するメタアナリシスは最近多く実施されている.近年,これらの手法を用いた研究は,リハビリテーション分野にも広がりつつある.本コラムでは,ネットワークメタアナリシスの解説およびその手法から見た脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムの効果のエビデンスについて,簡単に解説を行う.

1.ネットワークメタアナリシスについて

 近年,リハビリテーション領域においてもエビデンスを基盤としたアプローチ(Evidence based practice[EBP])の概念が徐々に浸透しており,以前よりも各リハビリテーションプログラム自体の効果に関するエビデンスに関心が高まっている.臨床において利用可能な各手法に関するエビデンスを収集するための手法として,システマティックレビュー後のメタアナリシスがある.メタアナリシスとは,2種の治療法の効果を直接的に比較することを目的としたメタアナリシスである.メタアナリシスは,エビデンスレベルを示すピラミッド等では頂点にある手法であるものの,対比較メタアナリシスで解析対象とできるのは,あくまでも2種類の手法であり,効果に関するエビデンスの比較対象が3種類以上ある際は,これらを同時に評価することは困難である.

 そう言ったメタアナリシスの難点を克服するために開発された手法の一つに,ネットワークメタアナリシスという手法がある.ネットワークメタアナリシスは,対比較のメタアナリシスを一般化したもので,リハビリテーションプログラムの有効性や安全性に関わるアウトカムについて,複数のランダム化比較試験の結果を元に,対照群を同一の振る舞いを実施した同一のものと仮定した上で,結果を統合することで,直接的なリハビリテーションプログラムの比較(直接比較)のみならず,たとえランダム化比較試験の中で,直接的な比較の結果が存在しなくとも間接的なリハビリテーションプログラムの比較(間接比較)を行うための方法論である.こう言った有効性から,近年では,主要ガイドラインの策定や医療政策の決定などでも,重要な情報源として扱われることが多い.

2.ネットワークメタアナリシスに見る脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションプログラムのエビデンスについて

 脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムは,効果のエビデンスといったものが非常に多く産出されている.その量は,リハビリテーション領域においても豊富な部類に入る.したがって,脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションにおいては,EBPも徐々に浸透しており,より正確かつ新たな効果に関するエビデンスの構築も必要とされている.Saikaleyら1は,脳卒中後に生じる上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムにおいて,世界で初めてネットワークメタアナリシスを用いた分析を行った.この研究では6781名の対象者を含む176件の脳卒中後上肢運動障害に対するリハビリテーションプログラムに関する研究を対象にしている.その中で,20種類の非従来型のリハビリテーションプログラムを調査し,特定の8つのプログラム(modified constraint-induced movement therapy,高頻度反復経頭蓋磁気刺激,メンタルプラクティス,両手動作練習,断続的シーターバースト刺激,経頭蓋直流電気刺激(カソーダル刺激),動作観察,低頻度数反復経頭蓋磁気刺激,ミラーセラピー,神経筋電気刺激,カスタムVirtual Reality)が挙げられた.累積順位分析プロットを用いた検討でも,推奨度が高い順に,modified constraint-induced movement therapy,高頻度反復経頭蓋磁気刺激,メンタルプラクティス,両手動作練習,断続的シーターバースト刺激,が上位5手法を示した.

まとめ

 ネットワークメタアナリシスを利用することで,ランダム化比較試験や従来のメタアナリシスで話し得なかった,3種以上のリハビリテーションプログラムの効果を間接比較し,それらの推奨度が示されている.これらの包括的なエビデンスを利用し,臨床における眼前の対象者にとって有意義なアプローチを構築することが重要であると思われた.


参照文献

1. Saikaley M, et al. Network Meta-analysis of non-conventional therapies for improving upper limb motor impairment poststroke. Stroke 2022; 53: 3717-3727

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