脳卒中後に生じる痙縮を軽減させるために非侵襲脳刺激法の一つである経頭蓋反復磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation: rTMS)は有効か?

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.03.10
リハデミー編集部
2023.03.10

<抄録>

 上位運動ニューロン損傷後の後遺症には様々な症候が含まれている.その中でも痙縮は多くの対象者に見られ,上肢をはじめとした運動障害の予後を阻害する因子の一つとして挙げられている.脳血管障害後に生じる痙縮については,様々なアプローチ方法が開発されているものの,一定の効果を示す標準的な治療法は,ボツリヌス毒素A型施注等以外では見当たらない.本コラムにおいては,脳血管障害後に生じる痙縮について,経頭蓋反復磁気刺激(repetitive transcranial magnetic stimulation: rTMS)が与える効果について,論述を行う.

1.痙縮の疫学

 痙縮は脳卒中や頸髄損傷,脳性麻痺,多発性硬化症等の上位運動ニューロンの損傷を伴う疾患において生じ,筋緊張の異常上昇・亢進を生じる症候を指す.上位運動ニューロン損傷後,脊髄抑制の喪失に起因し,延髄脊髄路は過剰興奮をきたし,筋紡錘における求心性神経のシナプス前抑制が減少した結果,筋緊張が増加すると考えられている1.

  痙縮は腱のジャーク(躍度,加加速度:単位時間内の加速度の変化率)の低下を伴う緊張性伸張反射(筋緊張)の速度依存性の増加が特徴と定義されている.脳卒中を罹患した対象者全体の約42.6%2,脊髄損傷を有する対象者の73.5%3が痙縮を伴うと考えられている.さらに,多発性硬化症患者の80%4,脳性麻痺を有する子供の69.8%5にも痙縮は存在するとされている.

 痙縮は,疾患を罹患した後に生じる後遺症の予後を左右する因子の一つである.例えば,関節の動きを制限し,手指の器用さ,動き自体の正確さを低下させる.さらに,歩行,食事,入浴等の日常生活活動に関する対象者の能力を低下させる6.また,痙縮が長期に渡り残存している対象者は,うつ病,不安,双極性障害,および他の気分障害を伴う確率が高くなると報告されている7.

 さて,痙縮に対する治療法は様々なものが示されている.多くの治療法があるものの,ボツリヌス毒素A型施注のように,効果がある程度証明されているものは少ない.さらに,多くのアプローチが筋肉に対する薬剤の注入などが必要であり,侵襲の程度も高く,気軽に実施できるものではない.

 近年,脳卒中,脊髄損傷,脳性麻痺,多発性硬化症といった上位運動ニューロンの障害に起因する痙縮に対して,広く経頭蓋反復磁気刺激が利用されている.これまでに多くのシステマティックレビューやメタアナリシスが実施されている.例えば,Gaoら8は,脊髄損傷由来の痙縮に対する経頭蓋反復磁気刺激の効果について,システマティックレビューとメタアナリシスを実施した結果,5つのランダム化比較試験,103名の対象者を対象に,高頻度経頭蓋反復磁気刺激を実施した結果,ASIA運動スコア,下肢筋力,10m歩行検査において対照群よりも有意な改善を示した.さらに,大脳皮質の下肢の領域に経頭蓋反復磁気刺激を実施した場合,対照群に比べ,Modified Ashworth Scaleで確認した痙縮の低下を認めたと報告している.さらに,Wangら9も脳卒中後の痙縮に対する経頭蓋磁気刺激の効果を検証するために,14のランダム化比較試験,18のデータセットを含む対象者において,この研究の結果,経頭蓋反復磁気刺激には痙縮改善効果があり,その中でも特に低周波経頭蓋反復磁気刺激が有意な痙縮の改善効果があることが示された.これらの結果から,Modified Ashworth scaleを用いて測定された痙縮において,経頭蓋磁気刺激による治療は効果的であることが示唆された.

まとめ

 上位運動ニューロン損傷後に生じる痙縮に対して,経頭蓋反復磁気刺激は有意な軽減効果を示すことが明らかとなった.しかしながら,メタアナリシスの結果を確認しても,対照群よりも安定的に有意な改善を示しているものの,劇的な痙縮の改善効果とは言い難い.この結果から,経頭蓋反復磁気刺激は従来のリハビリテーションに加え,有意な痙縮の軽減効果は認めるものの,その効果は限定的であると考えられる.


参照文献

1.Li S., Francisco G. E., Rymer W. Z. (2021). A new definition of poststroke spasticity and the interference of spasticity with motor recovery from acute to chronic stages. Neurorehabil. Neural Repair. 35 601–610. 

2.Harb A., Kishner S. (2022). Modified ashworth scale. Treasure Island, FL: StatPearls Publishing

3.Strom V., Manum G., Arora M., Joseph C., Kyriakides A., Le Fort M., et al. (2022). Physical health conditions in persons with spinal cord injury across 21 countries worldwide. J. Rehabil. Med. 54:jrm00302.

4. Arroyo González R. (2018). A review of the effects of baclofen and of THC:CBD oromucosal spray on spasticity-related walking impairment in multiple sclerosis. Expert Rev. Neurother. 18785–791.

5.Pulgar S., Bains S., Gooch J., Chambers H., Noritz G. H., Wright E., et al. (2019). Prevalence, patterns, and cost of care for children with cerebral palsy enrolled in medicaid managed care.J. Manag. Care Spec. Pharm. 25 817–822. 

6.Ward A. B. (2012). A literature review of the pathophysiology and onset of post-stroke spasticity. Eur. J. Neurol. 19 21–27.

7.Kes V. B., Cengic L., Cesarik M., Tomas A. J., Zavoreo I., Matovina L. Z., et al. (2013). Quality of life in patients with multiple sclerosis. Acta Clin. Croat. 52 107–111

8.Gao Z., Niu B., Gu M., Li Y., Liu J., Wang Y., et al. (2018). Clinical effects of high frequency repeated transcranial magnetic stimulation therapy on dyskinesia in patients with incomplete spinal cord injury:a Meta-analysis. Zhongguo Gu Shang 31 47–55.

9.Wang X., Ge L., Hu H., Yan L., Li L. (2022). Effects of non-invasive brain stimulation on post-stroke spasticity: A systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Brain Sci. 12:836.


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