脳卒中患者に対する新しいアプローチとしてのBrain machine (computer) interfaceの現在の立ち位置について(1)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.10.31
リハデミー編集部
2022.10.31

<抄録>

 脳卒中後の患者にブレイン・マシーン(コンピュータ)・インターフェイス(BMI, BCI)技術を用いることで機能回復がもたらされることは、多くの臨床研究によって実証されている。このコラムの目的は、脳卒中後の上肢機能回復におけるBCIの使用を調査した臨床研究の効果量と、運動回復のためのBCIトレーニングに対する経頭蓋直流刺激(tDCS)の増強効果について簡単に解説し,今後来るかもしれない工学機器を用いたリハビリテーション時代における知識補充の一助としたいと考えている.なお(1)では,主にBCIの背景に関して中心に論述する.

1.Brain machine (computer) interfaceとは

 運動障害は,脳卒中後の後遺症の代表的な一つとされており,対象者にとって日常生活活動や社会参加,ひいてはQuality of lifeの低下にまで繋がる.脳卒中患者の運動障害については,脳卒中後3ヶ月以内にその大部分が終了すると考えられている.しかしながら,自然回復の程度は,損傷部位の大きさや障害の種別により,対象者の間でも大きなバラつきを有していると言われている.特に重度の障害を有する対象者は,中等度から軽度の障害を有する対象者に比べて,回復期間が遅延,または延長する傾向があると考えられている.

さて,そういった背景の元,自然回復による改善に加え,少しでも機能改善を図るために,課題指向型アプローチやConstraint-induced movement therapyなどの集中的なアプローチ方法が考案されてきた.しかしながら,これらの上肢機能アプローチは運動機能が中等度から重度に障害された対象者では,適応することができない.したがって,中等度から重度の上肢麻痺を呈した対象者においては,効果のエビデンスが確立されたアプローチが決定的に不足していると考えら得ている.

そういった背景の元,神経科学の理念のもと工学ベースで開発が進んでいるアプローチの概念にBrain machine (computer) interface(BMI, BCI)がある.この技術は,アプローチの中で,麻痺手に関する随意的な運動を実施する必要がなく,中等度から重度の麻痺を有した対象者においては,非常に有用なアプローチ手段であると考えられている.

 BCIとは,脳活動の特徴をなんらかの機器を用いて取得し,それをコンピューターのコマンドに変換した上で,外部機器を制御するシステムのことを総称している.外部機器の制御については,通信機器や機能的電気刺激装置,外骨格ロボットなどが用いられており,対象者は,活動を意図して脳活動を出現することで,それらの外部機器を制御し,活動を起こすことができる.いわば,『念じれば動く機器』と言うわけである.

 脳活動の特徴を取得するために,なんらかのセンサーを通して,その活動を取得するわけだが,その方法には侵襲・非侵襲的な手段に分けられる.侵襲的なBCIは,関連領野の大脳皮質に電極を埋め込むことで,脳活動から発せられる電気的変化を直接取得し,対象者の意図を多次元で識別することが可能と言われている.しかしながら,埋め込んだ電極にグリア細胞が付着し,電極の情報収集能力の低下が認められ,長期間の利用が困難なことや,何より『脳内に電極を埋め込む』といった倫理的な問題から,これらの手法は現実的とは認識されていない.一方,非侵襲な方法としては,脳波,脳磁図,機能的近赤外分光法,機能的磁気共鳴画像法から収集した情報を用いた方法がある.この中でも,特に脳波信号を用いたBCIは値段的にも安価と考えられており,現実的な方法として考えられており,最も頻繁に用いられているシステムと言われている.

 現在では,研究レベルまたは市販レベルに置いて,様々な機器が開発されており,中には複数の生体信号を取得できるセンサーを搭載したハイブリッド型のBCIシステム等も検討されており,今後,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチ方法の一つとして,開発が進んでいる.

まとめ

 今回は,BCIシステムの背景について記述した.次回の脳卒中患者に対する新しいアプローチとしてのBrain machine (computer) interfaceの現在の立ち位置について(2)では,このシステムがどのような効果を有しているかについて論述を進めていく.



参照文献

1.Cramer SC. Repairing the human brain after stroke: I. mechanisms of spontaneous recovery. Ann Neurol. 2008;63:272–287. 

2.Miller KJ, Schalk G, Fetz EE, den Nijs M, Ojemann JG, Rao RP. Cortical activity during motor execution, motor imagery, and imagery-based online feedback. Proc Natl Acad Sci U S A. 2010;107:4430–4435. 

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