ARAT_3

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2026.01.26
リハデミー編集部
2026.01.26

ARATの研究利用における利点と限界

1. 利点(研究利用のメリット)

1)感度・応答性の高さ

 ARATはリハビリ介入による上肢機能の変化を検出する能力(responsiveness)が高いことが知られています。例えば慢性期の強制使用療法(CI療法)の効果を測定した研究では、ARATはFMAよりも有意に大きな変化を示し、改善を検出できた患者割合もARATで55%、FMAで9%と大きな差が報告されました[1]。急性期リハでもARATとFMAはいずれも中等度の効果量を示し同程度に変化を捉えました[2]。総じてARATは、軽度~中等度の麻痺改善を敏感に反映するため、介入研究のアウトカム評価に適しています。


2)国際的な使用実績

 ARATは英語圏のみならず多くの言語に翻訳・導入されており、研究成果の国際比較やメタ分析が容易です。実際にARATはスウェーデン語版、フランス語版、中国語版、スペイン語版、日本語版、ポーランド語版などが開発・検証されており、各国の研究で信頼性・妥当性が確認されています。このため、エビデンス構築において共通のアウトカム指標として活用しやすい点も利点です。実際、2016年までの調査においては、脳卒中後の上肢運動障害に関する研究において5番目に多く使用された評価されており、ゴールドスタンダードの一つと考えられています[3]。


3)臨床的意義の高い指標

 ARATの評価課題はいずれも日常生活で必要となる基本的操作(物をつかむ・持つ・つまむ・移動させる)で構成されるため、研究で得られた得点変化は直感的に理解しやすく、臨床的意義を説明しやすいメリットがあります[4]。被験者がどの程度「物を扱える」ようになったかという点にフォーカスしているため、機能回復の度合いを現場感覚に沿って捉えることができます。


4)データの量的分析が容易

 19項目・4領域の構成ながら単一合計点(0~57点)で表されるため、統計解析上は単純な量的指標として扱えます。近年ではラッシュ分析によりARAT得点を等間隔尺度に変換したり、得点パターンからキーフォームと呼ばれる能力プロファイルを作成する試みもなされています[4]。これらはより高度な項目応答理論に基づく分析を可能とし、研究面での解釈や新規評価法開発の足がかりとなっています。

2. 限界(研究利用のデメリット)

1)天井効果・底床効果

 ARATは比較的難易度の高い課題も含むため、重度麻痺患者では全項目0点(底床効果)となる可能性があります。また軽度麻痺や回復良好な患者では満点近くに達して変化を検出できない(天井効果)場合があります。実際、ある研究では軽~中等度の回復期患者の約48%がARATで天井効果を示し、特に器用さや速度の改善が得点に反映されにくいことが報告されています[5]。研究デザイン上、対象者の重症度レンジによってはARAT以外の補助的指標(例:重度者にはFMAや簡易評価、軽度者には九穴ペグ検査や動作時間の計測)を併用することが望ましいでしょう。


2)得点解釈の限定性

 ARATの合計点は機能全体の水準を示す単一指標ですが、どの領域にどの程度の障害が残るかの詳細は反映されません[4]。例えばある患者の得点が20点から50点に向上した場合、劇的な改善であることは明らかですが、具体的に何ができるようになったのか(例:粗大運動は改善したが微細つまみは未熟のまま等)については合計点のみでは判断できません[4]。研究報告では合計点の変化量が用いられることが多い一方で、臨床的意義を補足するためにサブスケールごとの変化や、代表課題(例:つまみ動作が可能になった割合等)を記述することが有用です。


3)尺度特性の統計学的扱い

 ARATは各項目0~3点の序数データの和であり、厳密には等間隔尺度ではありません。合計点をそのまま介入効果の量的指標とすることには統計学的な議論があり、本来はノンパラメトリック手法や項目応答理論による補正が推奨されます。しかし、実際の研究ではARAT合計点を連続変数と見なしてt検定等が行われる例も多く見られます。この点は研究結果の解釈において留意すべきで、特に多施設研究では評価手順の統一とともに統計解析計画の整備が求められます。


4)専用キット入手の必要

 研究で多数例に実施する際、評価者が標準化キットを持ち運ぶ必要があります。キットは市販されていますが比較的高価(約数万円~)であり、研究予算やセッティングによっては共有や代替案の検討が必要です。ただし一度揃えれば耐久性は高く、再現性確保には不可欠な投資といえるでしょう。


参照文献

1. Van Der Lee, Johanna H., et al. "The responsiveness of the Action Research Arm test and the Fugl-Meyer Assessment scale in chronic stroke patients." Journal of rehabilitation medicine33.3 (2001): 110-113.

2. Rabadi, Meheroz H., and Freny M. Rabadi. "Comparison of the action research arm test and the Fugl-Meyer assessment as measures of upper-extremity motor weakness after stroke." Archives of physical medicine and rehabilitation 87.7 (2006): 962-966.

3. Santisteban, Leire, et al. "Upper limb outcome measures used in stroke rehabilitation studies: a systematic literature review." PloS one 11.5 (2016): e0154792.

4. Grattan, Emily S., et al. "Interpreting action research arm test assessment scores to plan treatment." OTJR: occupation, participation and health 39.1 (2019): 64-73.

5. Małecka, Joanna, et al. "The translation into Polish, cultural adaptation, and initial validation of the Action Research Arm Test in subacute stroke patients." Advances in clinical and experimental medicine: official organ Wroclaw Medical University.

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