脳卒中後の上肢麻痺に対するロボット療法の効果は,研究において,どうしてこれほどバラ付きがあるのだろうか(2)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.08.31
リハデミー編集部
2022.08.31

<抄録>

 世界中の主要な脳卒中後のリハビリテーションに関するガイドラインにおいて,ロボット療法は,療法士が提供する一般的なリハビリテーションと同等の効果を示すとされている.特に中等度から重度の上肢麻痺を有した対象者においては,対象者が療法士の助けを借りることなく,自主練習によって麻痺手を用いた練習量を確保することができる,と報告されている.これらの背景から,『練習量を確保するための機器』として,ロボット療法は,効果のエビデンスが確立されている.しかしながら,多くの論文を丁寧に読み解くと,研究ごとの結果の差が大きいことに気づく.本コラムにおいては,これらロボット療法に関わる多くの研究において,結果の差が大きくなる原因について,様々な観点から論考を進めていこうと考えている.

1.療法士が提供するリハビリテーションに加えて,自主練習としてロボット療法を実施

 前回のコラム『脳卒中後の上肢麻痺に対するロボット療法の効果は,研究において,どうしてこれほどバラ付きがあるのだろうか(1)』にて示した内容で,療法士が対象者に1対1の療法中にロボット療法を用いた際の効果について,2つの代表的な論文の結果から論述した.その結果,療法士が1対1の時間内にロボット療法を用いた場合,通常のケア,高い強度で行ったケア,課題指向型アプローチと比較して,有意な上肢機能の改善は認めなかったと報告している.

 これらの結果から,ロボット療法は,良くも悪くも人が提供できる従来のリハビリテーションアプローチを超えられないことが示された.しかしながら,見方を変えるならば,マンパワーがなくとも,正確な反復練習を可能とするロボット療法は,自主練習でも同等の結果を示すことができる可能性がある.そういった仮説に基づき,自主練習として,ロボット療法をアドオンするといった取り組みがここ数年において,一流の脳卒中専門誌にも掲載されるようになってきた.

 代表的な論文としては,Rémy-NérisらとTakahashiらの亜急性期に一般的なリハビリテーションプログラムに加え,ロボット療法を実施した研究が挙げられる.Rémy-Nérisらは,第Ⅲ相,並行,割り付け隠蔽,ランダム化比較,多施設共同試験を実施し,介入直後および12ヶ月後までの追跡調査を実施した.亜急性期の脳卒中患者に対して,従来のリハビリテーションプログラムに加えて,1日30分の自主練習プログラムを1日2回,週5日間実施している.介入群は,重力を除去できる構造を持つ機械式外骨格(Exoskelton)型の肩肘前腕ロボット(Armeo spring)を用いて,一般的なリハビリテーションプログラムに加えて,自主練習を実施した.一方,対照群は,ロボットが提供できる動きと同じ動きを自主練習として提供した.介入の結果,麻痺手の麻痺の程度を評価するFugl Meyer Assessment(FMA)の変化量が,ロボット群で13.3(9.0)点,対照群で11.8(8.8)点であり,有意な差は認めなかったと報告している.

 一方,Takahashiらの研究では,上記の研究と同様に,亜急性期の脳卒中患者に対して, 1日40分の一般的なリハビリテーションを受け,それに加えて上肢のエンドエフェクター型ロボット(ReoGo)を用いたロボット療法と従来の自主練習プログラムが1日40分,週5日間提供されている.この結果,ロボットを用いた自主練習を実施した群は,従来の自主練習を実施した群に比べて,麻痺の程度を測定するFugl-Meyer Assessmentにおいて,有意な変化量の差(約4.5点)を認めたと報告している.

 これらの研究は,同じような病期の脳卒中患者に対して,自主練習としてロボット療法を提供しているにも関わらず,結果に大きな差が生まれている.例えば,これら二つの研究においては,以下の違いがあることが予測される:1)自主練習で使用したロボットの機種や制御機構が異なる(機械式外骨格型とエンドエフェクター型),2)ロボットを用いた介入以外に,結果に影響を与える既知もしくは未知の交絡が制御できていない(ロボットが最も効果を与えることができる範囲の麻痺の重症度をもつ対象者の割合等),3)1)に付随するが,研究を遂行する上で,対象者に提供する課題の難易度(対象者が課題を遂行する上で必要となる随意運動の量が異なる),可能性等が考えられる.

おわりに

 今回は,2つの構造が類似したランダム化比較試験における効果の差を生み出した原因について,論考を行った.次回のコラムでは,その要因の一つの可能性があるロボット療法が最も結果を残すことができる対象者の麻痺の重症度について論述を行う.


参照文献

1. Rémy-Néris O, Le Jeannic A, Dion A, Médée B, Nowak E, Poiroux É, et al. Additional, mechanized upper limb self-rehabilitation in patients with subacute stroke: the REM-AVC randomized trial. Stroke. 2021; 52: 1938-1947

2. Takahashi K, et al: Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute spit stroke hemiplegia: An exploratory randomized trial. Stroke 47: 1385-1388, 2016

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