リハビリテーションにおける予後予測の一般的な手続きについて(2)〜モデル式を用いた予後予測法の紹介と感度・特異度について〜

竹林崇先生のコラム
患者教育
リハデミー編集部
2023.08.11
リハデミー編集部
2023.08.11

<抄録>

 リハビリテーションを実施する上で、様々な技術や知識が必要とされている。一般的に多くの療法士は、麻痺や身体機能、高次脳機能障害に対する知識や治療技術そのものの研鑽に時間をかけることが多い。しかしながら、人の人生に寄り添うリハビリテーションには、それら治療技術以外にも多くのものが必要となる。近年、障害に対する知識や治療技術のほかに必要な知識の一つとして、予後予測もリハビリテーションを円滑に履行する上で、必要な技術と考えられている。前回のコラムである『リハビリテーションにおける予後予測が必要な理由について』において、予後予測はより良いリハビリテーションアプローチを対象者に提供するものであると述べた。こういった背景から、予後予測は一度ではなく、複数回に渡り実施し、その都度リハビリテーションアプローチを修正し、より良い予後を対象者に提供することが必要となる。これらについて3回に渡り解説を行っていく。第2回は、アウトカムを利用して複数の予後予測法を実施・予後の幅を確認、について具体的に説明を行なっていく。

1. 予後予測の幅を確認する際に用いる複数の予後予測法について

 予後予測を実施していく際に、まずは複数の予後予測法を用いて、目の前の対象者の方の機能予後の「幅:最も良いと予測される予後予測と最も悪いと触れる予後予測の差」を調べる必要がある。この際に用いられる予後予測法は、目標やニーズに即したアウトカムを利用するものが多い。具体的に言うと、例えば、目の前の対象者の方が、『(麻痺した)手を使って、自分の大切な作業であった仕事がやりたい』だったとする。この目標を達成するためには、麻痺の改善とその手をどの程度活動で使えるのかといった麻痺手のパフォーマンスのアウトカムが必要になる。

 では、脳卒中後の手の麻痺や、手のパフォーマンスを測定するために世界で最も使われているアウトカム(これをゴールドスタンダードのアウトカムという)を調べてみる。麻痺の指標については、Fugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目、パフォーマンスの指標としては、Action Research Arm Test(ARAT)が挙げられる。また、急性期における予後の指標として、最も有名なものに『(麻痺手の)肩の随意外転と手指の随意伸展』等も重要なアウトカムとして、知られている。従って、これらのアウトカムを目の前の患者さんに測定し、その値を使って、将来の予後を予測するような試みを実施していく。


1)モデル(数式)を用いた予後予測法を使ってみる

 将来の機能予後を推定する予後予測法にはモデル(数式)を用いたものがある。例えば、Wintersら1が実施した研究から導き出された直線相関式を用いたモデルを用いたものが有名である。この研究では、『発症から6か月後のFMAの上肢項目の変化量の予測値=0.7×(66-発症後72時間以内のFMAの上肢項目の点数)+0.4』といったモデル(数式)を示しており、この式に、所定の数値を入れれば予測値を推定することができる。ただし、この式自体も予測率は70%程度にとどまるものであり、絶対ではない。こういったモデル(数式)を用いた予後予測法をいくつも用いて、アウトカムにおける予後予測を求めることで、その幅を理解することができる。


2)感度、特異度を用いた予後予測法を使ってみる。

図1. 予後予測法における感度・特異度の考え方

 図1に、予後予測法でよく使われる『感度・特異度』の考え方を示す。感度は、検査によって病気(想定した予後を辿る確率)を予測できる値であり、逆に特異度は検査によって、病気でないこと(上記の想定した予後を辿らない確率)を予測できる値である。さて、この指標を使った脳卒中後の上肢麻痺に関する予後予測法にNijalandの『(麻痺手の)肩の随意外転と手指の随意伸展』によって求める方法が挙げられる。この予後予測法では、この現象のある98%の対象者の6ヶ月後巧緻性が生活内で十分使える程度に改善する(感度)ことを示している。逆に、この現象が認められない場合、75%の対象者の6ヶ月後巧緻性が生活内で十分使える程度に改善しない(特異度)を示している。ただし、この現象が認められなければ、予後が完全に悪いというわけでもなく、特異度を見れば25%の対象者は6ヶ月後に十分な巧緻性を獲得していることも解る。つまり、感度・特異度の両側面から、予後を検討し、対象者の将来の確率を推測することが重要である。

まとめ

 本コラムでは、モデル(数式)と感度・特異度を用いた予後予測研究の使い方について、述べた。こういった予後予測ほうがあることを理解した上で、予後予測を進めることが重要であると思われる。


参照文献

1. Winters C, et al: Generalizability of the proportional recovery model for the upper extremity after an ischemic stroke. Neurorehabili Neural Repair 29: 614-622, 2015 

2. Nijland RHM, et al: Presence of finger extention and shoulder abduction within 72 hours after stroke predicts functional recovery. Early prediction of functional outcome after stroke: the EPOS Short study. Stroke 41: 745-750, 2010

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