リハビリテーションにおける予後予測の一般的な手続きについて(3)〜相関係数と決定係数について〜
<抄録>
リハビリテーションを実施する上で、様々な技術や知識が必要とされている。一般的に多くの療法士は、麻痺や身体機能、高次脳機能障害に対する知識や治療技術そのものの研鑽に時間をかけることが多い。しかしながら、人の人生に寄り添うリハビリテーションには、それら治療技術以外にも多くのものが必要となる。近年、障害に対する知識や治療技術のほかに必要な知識の一つとして、予後予測もリハビリテーションを円滑に履行する上で、必要な技術と考えられている。前回のコラムである『リハビリテーションにおける予後予測が必要な理由について』において、予後予測はより良いリハビリテーションアプローチを対象者に提供するものであると述べた。こういった背景から、予後予測は一度ではなく、複数回に渡り実施し、その都度リハビリテーションアプローチを修正し、より良い予後を対象者に提供することが必要となる。これらについて3回に渡り解説を行っていく。第一回は、予後予測を進めるための具体的な手順について、回復に影響を与える要因の確認、について知っておきたい用語である、相関について解説を行っていく。
1. 予後予測における回復に影響を与える因子の確認について
リハビリテーションにおける予後予測を実施する上で、非常に重要な手続きである。この手続きを実施しなければ、対象者の病態解釈とそこからのより良いリハビリテーションアプローチへの創意工夫は生まれない。では、具体的に何を実施していくかについて、ここに記していく。
1)さまざまなアウトカムの回復に影響を与える要因を予後予測研究から調べる
予後予測研究にはさまざまな形態の研究がある。特に回復に影響を与える要因を調べる際に、理解しておきたい言葉もいくつかある。それらについて、ここでは解説を行なっていく。
・相関係数について
相関とは、2つの数値の関係性を意味する言葉である。一方が変化すれば、もう一方も変化する、そういった二つの変化する数値が相互に規則的を保ちつつ変化する関係性のことを指す。ただし、どちらが原因で、どちらが結果かといった因果関係については、相関だけでは判断することができない。また、その関係の強さについては、相関係数という指標で示されることが多い。相関係数とは、−1から1の間の数値で示され、片方の数値が上がる際、もう片方の数値も上がる場合は正の相関が、片方の値が下がった際にもう片方の数値が上がるといった場合は負の相関があると示されている。また、相関係数自体はr (regressionの頭文字)で示され、一般的に| r | = 0.7から1.0(かなり強い関係性がある)、| r | = 0.4から0.7(やや相関がある)、| r | = 0.2から0.4(弱い相関がある)、| r | = 0から0.2(ほとんど相関がない)と定義されている。したがって、これらの値を鑑みた上で、予後を指し示すアウトカムにどういった要因がどの程度の関連性で関わっているかを理解することができる。
・決定係数(寄与率)
決定係数とは、複数の数値間において、独立変数(説明変数:結果を説明するための要因)が従属変数(目的変数:結果)をどのくらいの精度で説明できるかを表す値である。例えば、予後予測研究では、従属変数を回復の経過(予後)に設定し、それらを説明するための独立変数を結果に影響を与える因子として設定している場合がほとんどである。つまり、独立変数として、設定された要因が予後に影響を与える因子であると言える。
ここで、それぞれの要員が結果に与える影響については、上で示した相関係数で示されることもあれば、リスク比やオッズ比、ハザード比といった値を用いて説明されること、もある(リスク比、オッズ比、ハザード比については、次回のコラム(リハビリテーションにおける予後予測の一般的な手続きについて (3)、(4)にて詳しく解説を行う)。では、決定係数とは何を指し示す値なのだろうか。この値は、前回のコラム(リハビリテーションにおける予後予測の一般的な手続きについて (2)〜モデル式を用いた予後予測法の紹介と感度・特異度について〜を参照)で示した、モデル(数式)を用いた予後予測法がどれだけ正確に事象を当てはめるかを示すものである。
ただし、決定係数は相関係数とは異なり、絶対的な数値の意味合いを持っていない。したがって、『なんとなく、モデル(数式)が予後を予測できているかどうか(当てはまりの良さが良いかどうか)』を示すものである。従って、数値が1に近いほど、当てはまりが良い、0に近いほど、当てはまりが悪いといった解釈しかできない。さらに、決定係数とは、その研究で用いたサンプル(研究参加者)の中のモデル(数式)の当てはまりを見ているに過ぎず、日本全体、もしくは世界全体の対象者を基準にしているものではない。そこで、さらに多くの対象者におけるモデル(数式)の当てはまりをシミレーション的に示しているものが自由度調整済み決定係数と呼ばれている。ただし、こちらもあくまで自由度という数値を用いた推定値でしかないので、この点を鑑みて、数値を解釈することが重要である。
まとめ
今回は、予後に影響を与えうる値の示し方の一つである相関係数と、予後を予測するための予後予測式の当てはまりを示す決定係数について、解説を行った。これらの値の意味を理解した上で、予後予測研究を読むことで、理解が深まると思われる。