動作障害の評価-後編-

動作障害の評価-後編-
リハデミー編集部
2019.01.10
リハデミー編集部
2019.01.10

逸脱運動

しばしば、臨床で行われる動作分析では「逸脱運動」という用語が用いられる。逸脱運動とは、正常な動作の遂行に必要不可欠な運動要素(動作のメカニズムが関節運動として表現されたもの)から、逸脱する運動要素を指して言う。逸脱運動は、動作の遂行に必要な正常メカニズムからの逸脱を表現するものであり、動作分析を行う際に最も注意深く観察しなくてはならない現象である。

多くの場合、逸脱運動は動作のシークエンスの中でいくつも確認される。いくつもの逸脱運動の中で、動作障害の直接的かつ根源的な原因を有している逸脱運動がどれなのかを見出すことが重要である。観察された逸脱運動の1つ1つをセラピストが誘導して、その結果から重要度の高いものと低いものとを分けて評価を進めていく。ある1つの逸脱運動をセラピストが操作して正常な動作を誘導すると、その他の逸脱運動が消失して正常運動に置き換わることがある。その場合、動作障害の主たる原因と、その影響とを区別することができる。患者の動作を誘導することによって、動作がどのように変化するのかを確認することは、動作分析の中核と言っても過言ではない。

ある動作の特定の相で観察された逸脱運動は,その他の相や別の動作でも出現するかどうかをチェックしなければならない.その情報は原因が特定する上で、重要な示唆を我々に与えてくれる.

例えば、立脚初期から中期にかけて膝関節の過伸展(back knee)が観察されたとする。立脚初期から中期にかけて膝関節が過伸展する原因として疑われるのは、

・膝関節の伸展拘縮
・大腿四頭筋の著しい筋力低下、または弛緩性の麻痺
・大腿四頭筋の過剰な緊張、または痙性
・足関節の底屈拘縮、または下腿三頭筋の過剰な緊張による背屈制限

などが最初に最も単純な仮説として考えられる。

もしも、この患者が遊脚期に膝関節が屈曲することが観察されたとすると、膝関節の伸展拘縮は仮説から除外される。また、もしも、立位で踵を接地して下腿を垂直保持した姿勢が保てるとしたら、足関節の底屈拘縮、または下腿三頭筋の過剰な緊張による背屈制限も仮説から除外することができる。

可能性のある仮説として考慮されるものは、直面する問題として現実的なものだけに限定し,観察された逸脱運動の理由として重要度の低いものは一旦消去されるべきである。その作業を行う上で、患者の診断名は優先順位を絞り込むのに重要な情報になる。例えば、前述した膝関節過伸展の患者の診断名が大腿骨骨折だったとしたら、中枢神経系の障害による底面筋群や大腿四頭筋の痙性による過緊張や、大腿四頭筋の弛緩性の麻痺、という仮説は原因としては除外される.そうなると、消去法により、この患者の膝関節過伸展の原因として最初に疑うべき仮説は、大腿四頭筋の著しい筋力低下ということになる。そのことを証明するにためには、徒手筋力検査を施行すればよい。
 

代償運動

動作を可能にするメカニズムに不具合が生じると、患者は実にすばやく代償的な動きを身につける.患者は、なんとか自立して動作を行おうとして努力的に動き、失われた機能を他の動きによって代償しようとする.代償運動は、ある程度は動作を可能にするが、長期的にみれば不利になる.なぜならば、代償運動が身体の他の領域の障害を引き起こしたり、残存している機能への干渉を生じさせたりする可能性を含むからである。代償運動は主たる問題点よりも簡単に観察できる.しかしながら代償運動は主たる逸脱運動ではなく,単なる主たる原因の付随的な現象であり,そこは注意深く見分ける必要がある.

例えば、股関節の外転筋力が低下している患者は、歩行立脚中期に体幹を立脚側へ側屈させて側方への安定性を代償する。この代償は、歩行を安定させることに役立つかもしれない。しかし、長期的に見た場合には、体幹の側屈を制御する筋への負担や椎間関節や椎間版への負担を増加させることになる。また、体幹の安定性に関与する筋は、歩行中に側屈運動を強いられることから、活動する機会を奪われ、そのことが二次的な機能障害を引き起こすことにつながる。

しばしば代償運動は主たる問題点よりも簡単に観察できる.しかしながら代償運動は主たる逸脱運動ではなく,単なる主たる原因の付随的な現象であり,そこは注意深く見分ける必要がある.

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