SIS_3

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2025.11.17
リハデミー編集部
2025.11.17

 さてさて、脳卒中後の患者さんを対象としたQOL評価、Stroke Impact Scale(SIS)に関する解説も3回目を迎えました。

 今回は、臨床における応用について、大阪公立大学の竹林先生にコラム解説をお願いしています。

では、今回も一緒に勉強していきましょう!!

Stroke Impact Scaleの臨床応用について

Stroke Impact Scale (SIS)は急性期から慢性期まで、幅広い病期・病態の脳卒中患者に対して使用されています。ただし、各時期における適用上の留意点があります。以下に各時期における臨床利用の現状について解説を行なっていきます。


1. 急性期について

 脳卒中急性期の患者に対しては、重篤な意識障害や失語がなければSISを実施可能ですが、実臨床では急性期病棟での評価にSISが用いられることは多くありません。これは急性期では生命予後や神経学的重症度の評価(NIHSSやJSSなど)が優先され、患者自身が詳細な質問に回答できる状態にない場合もあるためです。しかし、軽症例では発症早期からSISでQOL面の問題点を聞き取ることも有益です。例えばWardらの研究では、発症平均8日という超急性期の入院患者でもSIS-16が実施され、そのスコアがリハビリ転院までの在院日数の予測因子となり得ることが示唆されています[1]。急性期にSISを活用する際は、患者の疲労や症状のばらつきに配慮しつつ、可能な範囲で代理回答も検討しながら柔軟に運用することが重要です。


2. 亜急性期について

 リハビリテーション病棟や回復期施設では、SISは患者の包括的評価として非常に有用です。原著のDuncan研究では発症1か月目からSISを開始し経時的に追跡しており、この時期における回復のプロファイル把握に適していることが示されています[2]。回復期リハではADL評価(FIMやBarthel Index)と併せてSISを用いることで、患者の主観的困難(例:記憶障害や社会参加への不安など)を見逃さずにケア計画へ反映できます。SISは入院中の機能回復のみならず退院後の生活を見据えた領域(感情や社会参加)も含むため、退院指導や家屋改造の検討、市町村支援への繋ぎなど多職種連携に役立つ情報を提供します。研究の場でも、SISはリハ介入のアウトカムとして頻用されており、特に上肢機能訓練や日常生活訓練の効果をQOL面で評価する際に用いられています[2]。


3. 慢性期について

 慢性期の外来リハや地域フォローアップでもSISは患者の長期的なQOL評価に貢献します。慢性期になると客観的な機能指標(例えば筋力や歩行速度)は大きく変化しにくくなりますが、患者本人の主観や適応状況(社会復帰の程度や心理面)は引き続き変化し得ます。SISはそうした慢性的な問題を拾い上げ、長期支援の計画立案に有用です。Edwardsらの研究では、発症後平均14か月の患者においてSIS-16がWHO-QOLブリーフの身体・心理領域と有意な相関を示し、慢性期においてもSISが生活の質を反映する有効な指標であることが示されています[1]。また、慢性期のリハ介入(例:運動療法や心理社会的支援)の効果判定にもSISが利用されており、介入群が対照群よりSISスコアで有意に改善したとの報告も複数あります[3]。ただし慢性期では前述のように一部領域で天井効果が出やすくなるため、患者の状態によってはSIS-16など感度の高い下位尺度に注目したり、他の補完的評価(例:詳細な認知検査やうつ尺度)を追加する工夫も有用です。


4. 全時期に共通する重度例、コミュニケーションが困難な例について

 重度の麻痺や失語症がある患者では、SISの直接的な実施が難しい場合があります。このようなケースでは前述のProxy版の活用や、評価者による面接形式での質問の工夫が必要です。Proxy版についてCarod-Artalらの検討によれば、身体面の項目では本人と代理回答者の一致率が比較的高いものの、感情や記憶といった領域ではProxyがやや過小評価する傾向が見られました[4]。従って、重度例にSISを適用する際はProxy評価を参考にしつつも、可能な限り患者本人の意向や表情・反応を汲み取りながら総合的に判断することが推奨されます。


5. まとめ

 以上のように、SISは発症後の時期や障害程度を問わず幅広く利用可能ですが、それぞれの場面で結果の解釈に注意を払い、必要に応じて他の評価法と組み合わせることで、より的確な臨床評価が行えるでしょう。さて、次回はSISと他の評価の関連および解釈の仕方について解説していきます。


参照文献

1. Duncan, P. W., et al. "Stroke Impact Scale-16: A brief assessment of physical function." Neurology 60.2 (2003): 291-296.

2. Duncan, Pamela W., et al. "The stroke impact scale version 2.0: evaluation of reliability, validity, and sensitivity to change." Stroke30.10 (1999): 2131-2140.

3. Wu, Xiaotian, et al. "Long-term effectiveness of intensive therapy in chronic stroke." Neurorehabilitation and neural repair 30.6 (2016): 583-590.

4. Carod-Artal, Francisco Javier, et al. "Self-and proxy-report agreement on the Stroke Impact Scale." Stroke 40.10 (2009): 3308-3314.

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