鈴木俊明先生インタビュー:臨床現場で自分の専門性を持つ重要性

鈴木俊明先生インタビュー:臨床現場で自分の専門性を持つ重要性
神経系疾患
リハデミー編集部
2020.11.03
リハデミー編集部
2020.11.03

藤本:はじめに、先生が体幹機能に着目して研究を始めたきっかけについて教えていただけますでしょうか。

 

鈴木:これは、よく講習会でもお話させていただいていることなんですけれども、学生の実習の時にですね、片麻痺の患者さんの腹筋群の筋緊張低下に対して、どのように治療しているかというと、悪い方に入って、右の片麻痺では、右側方に動かすわけです。そういう先生方のやり方を実習生の時に私も真似していたのですが、何かこう、緊張が入っている感触が全くなかったんですね。ですが、その時は学生だったので、どうしたらよいのかわからなくて、実際に卒業してからも疑問だったんです。どうにか何かで証明したいと思っていて、私が卒業した京都大学の医療技術短期大学部に藤原先生という筋電図の著名な先生がおられて、その先生の下でいろいろなことを教えてもらいました。

 

藤本:では、臨床をされているときに京都大学に?

 

鈴木:はい。私は、2年間は市中病院で働いていたのですが、3年目から大学の助手として帰ってこいと言われましたので、そこからですね。
それまでは別の研究をしていたのですが、筋電図に関しては、そこからやりたいことをどうにか解決したいと我々のグループでまとめたものが「The Center of the body」です。今、アイペックさんからひとつにまとまったものとして出させていただいています。要するに、当時の常識が違っていたということです。他にもあると思うんですけれども、実際には右の片麻痺の人だったら右に行くんじゃなくて、左側に行かせることが筋活動を高めるというのがすごく大事なことなのです。きちんと正しいことを伝えて、評価に基づく治療ができるセラピストを養成したいということなんですね。よく若い子達は、治療のやり方というか、治療手技に走るというとあれなんですけれども、欲しがる。当然のごとく欲しがるんですけれども、ちょっと考えていくと評価がきちんとできないと治療をしても何もならないよというとこですよね。そこを、しっかり分かってほしいということですよね。

 

藤本:それで体幹機能というところに着目されているんですね。先生が体幹機能を学んだのは何年前ですか?

 

鈴木:もう20年ぐらい前になるんじゃないですかね。

 

藤本:そうですよね。私が2005年に養成校に入っているので。

 

鈴木:ありがたいことに第7版まで受けて、いろいろ新しいアップデートを出させていただいて、我々としてもひとつの研究の集大成になっていると思うんですよね。また、体幹機能は分からないことが多かったので、グローバルに体幹と呼ばれ前面筋や後面筋などと言われていた時代もありますしね。そういうのは今の私たちのデータから考えると、そんなことを言っているともう時代遅れだと思えるわけですよね。

 

藤本:私、修士の論文が動作分析・座位バランスでして、実は、先生の「The Center of the Body:体幹機能の謎を探る」などの書籍や論文を参考にさせていただいていたんです。

 

鈴木:ありがとうございます。

 

藤本:12年前くらいの時点で、先生の本以外で体幹機能をみている書籍ってまずなかったですよね。

 

鈴木:なかったですよね。

 

藤本:おそらく最近になってちょっとずつ論文が出回ってきていると思うんですけれども。

 

鈴木:例えば腹横筋とか、中にある筋肉を腹横筋トレーニングというなど、それ自体は悪いことではないかもしれないけれども、評価してトレーニングをする時に、じゃあ腹横筋をどうやって評価したのかというとこですよね。言ってみれば、評価と治療というか、、運動療法、理学療法のマッチングをきちんとしていかなければ、いこれからはよくないと思うんですよね。

 

藤本:そうですよね。よく言われているデータの見える化というところですよね。

 

鈴木:本当にそうなんですよね。

 

藤本:なるほどありがとうございます。二つ目の質問になるのですが、体幹機能を評価する上でポイントとなる点が体幹となると、先ほど先生がおっしゃっていたように、そもそも評価が難しいと思うんですよね。その上でどういうことを勉強したらよいのか、もしくは昨今、ある程度出てきている論文も含めてどういった視点で見ていけばよいのかということを簡単でよろしいので教えていただければと思います。

 

鈴木:体幹に関しては、例えば、私が出させていただいている運動と医学の出版社の「体幹と骨盤の評価と運動療法」の本の中では、内腹斜筋を三つの繊維であるというふうに分けています。三つの繊維であるというよりは、内腹斜筋の中に、三つの全然違った筋肉が存在して内腹斜筋を構成していると書いているんですね。ですから、いってみれば全部が全部体幹筋が活動して何か運動できるなんてことはほとんどないのです。例えば、座位の時にはこの筋肉が働いてとか、座位で横に移動する時にはこの筋肉が働いてとか、立位は違っていてとか、その姿勢や動作の中で主たる筋肉があるわけなんです。それをまず、絶対に知っていないと大雑把な評価になると思うんですね。評価に関してどうしたらよいかといえば、我々が見つけ出した筋収縮のさせ方が評価になるわけです。例えば筋緊張検査、動かした時に、うまいこと働いてくるのかという検査になってくるわけなんですね。そこら辺と対比して、「正常はどこの筋肉が働くのか」、「この患者さんではどこの筋肉が働いていて、どういう動作ができないのか」、「体幹筋の中でも、どの筋肉が一番問題になっているのか」というスタイルで勉強していく必要性があると思うんです。少し細かすぎるイメージがあるかもしれませんけれども、真実はひとつだけだと思うんです。だから細かくても、詳細な部分を学習して患者さんと比較することが必要ですよね 。

 

藤本:大前提として、ある程度知識が備わっている上で、一般的な評価があると思うんですよね。その上で、仮説ベースにしてきちんと検証された評価があるわけですよね。それは介入と一緒にできるといいますか、そこを見ながら仮説を立てて、この部分だというところの実証を元に検証結果、仮説検証を重ねて、そこに対してまた評価をして、というループをずっと流していくことなんですよね。

 

鈴木:そうですね。だから治療はひとつしかないんですよ。治療は一点狙いでいけというのが私のポリシーになっていて、例えば寝て何かやって、座ってやって、立ってやって、歩いてやって、たとえ歩き方が良くなったとしてもどこがよいか分からないですから。

 

藤本:検証しやすいようにということもあるということですよね。

 

鈴木:そうです、そうです。

 

藤本:検証しやすい介入ベースの評価を含めているところもあると思うのですけれども、その前提の知識と評価がかなり重要で、知識と評価がしっかりしていれば、ある程度、一点集中で進められるように、除外、選択していく手順ができるということですよね。

 

鈴木:そうです。だから私は治療の手技に関しては何でもいいというか、基本的なことでできると思うんですよね。

 

藤本:私もそう思います。

 

鈴木:治療の手技よりも、ちゃんとした問題点を見つけることは、皆、共通でないといけないと思うんです。その中でも「これが変わってくれればよくなる」というところを見つけて、そこに対して一点してやって、変わったらどこが変わったか、どういうところが変わったかという部分を見つけていかないといけないんですよね。

 

藤本:なるほど。リーズニングの大事な部分、評価の実証ですよね。介入の実証が注目されてしまいがちですが、介入の手前の評価に実証を求められていればある程度介入は絞られてきて、それはどんな手技でも、ある程度やっていることは同じになるということですよね。

 

鈴木:そうです。

 

藤本:すごく分かりやすいです。ありがとうございます。じゃあ、少し話題を変えて、これからの理学療法会に期待すること、変えていかなければならないことについてお聞かせ願いたいと思います。先生も大先輩でいらっしゃいますし、私も京都大学をようやく出ることができました。先輩として、いろいろお聞きしたいと思います。これまで業界を引っ張って来られ、そして今も引っ張っておられます。私たち若手は今の時代しか生きていないので、前と比べて何が変わったか、いまいちよく理解できていない部分があります。反対に、今から私達が使命を持って変えていかなければならないことがたくさんあると思います。先生にとって理学療法士会に期待したいこと、ここは変えなければいけないと思うところをお聞かせ願いたいと思います。

 

鈴木:私が研究を始めた頃に比べると、今は本当に多くの研究データが出てきています。特に若い研究者の優秀な子達が増えてきている。これはすごく大事なことで嬉しい事です。私も今、日本基礎理学療法学会の運営幹事をさせていただいていますけれども、日本理学療法士協会などでは、研究を本当の意味での理学療法学を作る必要性があると思うんですよね。今は職能団体の中の学術団体が主となっていて、、職能を保ちながら学術も、ということが大事なことは分かるんですが、その壁をひとつ超えて、学術団体として一人前になれるというか、大人になれるような団体組織に変えていかなければいけないと思うんです。要するに、理学療法の中が、例えば治療技術の伝承から始まってそれが、今でもよいと思っている人たちもたくさんいるんですよね。そうじゃなくて、やはり客観的なデータが出せる。そしてそれを他の職種の人たちに認められる、ということが本当に大事だと思うんです。私が期待したいこと、変えていかなければいけないと思っていることが、実際の学会です。理学療法の学会は、いずれもっとオープンにして医者も入ってくるような。例えば我々の基礎であれば、工学系のすごくよい研究も発表してくれるんです。ですから、工学系の方も一緒に会員として、理学療法の発展に関与してもらうような動きが必要だと思うんですよね。医学会の中では、いろいろな文化学会があります。
私も日本臨床神経生理学会の役員をやらせていただいていますけれども、そこも本当にオープンで、さまざまな職種の人が入って来て一緒に勉強しているというか、より研鑽しているところが多いわけです。やはり理学療法の学会も、そこを目指していかなければと思いますね。

 

藤本:理学療法の特性なのかは分からないですけれども、医師の学会、例えば外科学会などは、当たり前ですが、普通に臨床をされている先生が研究もされていて、学術団体として職能と学術団体としてのバランスがよくできていると思うんですよね。一方で理学療法の世界ですと、臨床も研究もされている方が理事や、運営幹事というよりかは、臨床だけやっている先生がアプライされている現状があると思っていて、少し不思議な感覚があるんですよね。他の学会ですと臨床だけしている委員の方はたくさんいるのですが、幹事になるかというとあまり聞かないので、「この違いは何なんだろうな」といつも思うんですよね。

 

鈴木:何がよいかということの価値観が違うんだと思います。私は研究者で、学校の先生でもありますけれども、研究が大好きで研究をベースに動いている人間ですので、海外も含めて自分の論文を出せる能力のある人間が、学会を運営していくことが本当に必要だと思うんですよね。臨床は上手かもしれないけれども、それだけの論文があまりないとかですね、そうした人たちは臨床の中では貴重かもしれませんけれども、やはり学会という中では少し区別しておかないといけないということですね。あと、最初の方にも話をしましたけれども、若手に優秀な子が多いので、学会があれば、ぜひ若手の研究者に道を譲るというか、若手にお任せして少し暖かい目で見ることも将来的に学術団体として育っていくために必要なことだと思うんですね。

 

藤本:まさにその先生の言葉が活動になっているのが基礎理学療法学会ですよね。

 

鈴木:そうです、そうです。

 

藤本:夏の学校もそうですし、学会自体も今は運営を30代前半の先生方にどんどん任せていますよね。夏の学校は、私も今まで3回出させていただいていて、少し基礎とは離れていますが、やはり研究が好きなので、参加すると、こんなに若手が生き生きとしている、上の先生方にも忖度なく、言いたいことを言っている学会ってあんまり無いなと感じました。それはたぶん、運営幹事の先生方の懐の広さといいますか、器の大きさがあると思うんですけれども、すごく面白かったですね。 大分でやったときに夜までずっと飲み会があって部屋毎に飲んでいて、その時にも若手のある先生が上の先生に対して、「いや、先生。これすごくよい学会だと思いますよ。」と普通に言った時に、私よりも若手の先生が評価しできているって凄いなと思ったんですね。他の学会って、どうしても上の先生に忖度しながら、「新しく入れさせてもらいました誰々です。」みたいな感じがあるイメージなんですよね。

 

鈴木:ほんとにフレンドリーです。あとは、みんなそれぞれのスペシャリティというか、自分の専門がはっきりしているんですよ、我々。だからみんなに尊敬できるというか、私は臨床での筋電図ですし、動物をやって、いろいろなことを出してくれている人もいますし、みんなが一人一人を尊敬できているというところがあります。我々は若手でも、本当に優秀なことを認めていますのでね。

 

藤本:そこですよね。基礎の若手のすごいというと変ですけれども、「こんな子いるの?」みたいな子がすごく多いですからね。

 

鈴木:多いですよ。

 

藤本:他の分野でもっと知られてもいいのにと思うような。

 

鈴木:そうですよ。だから学会でもいわゆる39歳以下のアンダー39がありますけれども、インパクトファクター(特定の年の間にどれくらい引用されたかの平均値を示す尺度)(34:19)が数年間で二桁以上になるってすごいですよ。私でも2年間で7とか8で、その時、自分なりにはよく書いたと思いましたけどね。今は二桁が出てきていますからね。

 

藤本:コルテックスぼんっみたいな。

 

鈴木:そうそう。ほんとすごいですよ。そういう面では私たち今の幹事の年代が、若手をよい意味で尊敬できて誘導しているような学会ですよね。基礎だけがよいとも思いませんが、基礎のような学会に全部育つことが、我々はすごく大事だと思っています。学会でも研修会のお祭りのようなところもあるので、そうではなくて本当の学会ですね。

 

藤本:学術団体としてのということですよね。

 

鈴木:そうですね。ですから技術研修じゃなくて、学術団体として動く必要性があると思います。

 

藤本:それこそ私が驚いたのは、IPSの研究所に今、同い年のPTがいるんですが、基礎に行って世界は広いなと思ったんですよね。他の分野ですと、この間の運営幹事選でも、30代で頑張って入りたいと思います、という人が多い中で、基礎は別にそのようなことを謳っていなくて、上の先生方が下を認めてどんどん運営をさせているんですよね。ですから、運営幹事先生方が責任を取ると。けれども、若手はある程度その道を譲っていて、30代や20代で理事や運営幹事になるという議論はそもそも必要ないということですよね。

 

鈴木:そうなんですよね。だからみんな運営委員として残ってやってもらっていますからね。

 

藤本:アカデミアをもっと入れていかなければならないというところがまずひとつ。、もうひとつが臨床もやりつつアカデミアも経験している若手がいるなかで、アカデミックな優秀な若手をどうやってうまく育てていくかにもっとシフトしていければ、学会としてより発展していくということなんですね。

 

鈴木:はっきり言うと、我々は研究というよりも、運営ですから、運営幹事って悪く言えば雑用もすごく多いんですよね。今の若手にやらせるのはもったいないんです。いいところの運営とか、一緒に共同研究とかをやってもらいたいんですよね。

 

藤本:真逆なところが多いですよね。

 

鈴木:多いんです。

 

藤本:雑用をやらせてナンボみたいな。そういう意味では基礎の先生方、私も何人も存じ上げていますけれども、は本当に理学療法の業界の発展を願っているということですよね。

 

鈴木:そうですよね。本当の意味で、理学療法を学問にするということですよね。

 

藤本:それは基礎の学会に行ってもよく感じるところだったのですごくしっくりきました。

 

鈴木:ありがとうございます。

 

 

※2019年4月28日収録
 収録時点での見解となりますことあらかじめご了承ください。

前の記事

療法士として1年目を...

次の記事

ガイドラインから見る...

Top