随意運動を感知し,そのシグナルを起点として,麻痺手の随意運動をアシストする『機能的ロボット』に関する最新情報
<抄録>
脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するリハビリテーションにおいて,センサーによって筋電を感知し,外骨格型のロボットにより,関節運動をアシストして実現する種類の機器については,多くの機器がリリースされている.しかしながら,その大半は,大型であったり,重量が非常に大きいことから,リハビリテーション室の一角でロボットを固定した条件で練習として使用される事が多い.しかしながら,近年,それらのロボットを軽量化し,実生活において,それらの機器を使用しながら,生活を行なっていくといった介入が少しずつ試行されている.本コラムにおいては,それらのコンセプトを有したMyoProというプロダクトに関する臨床研究について紹介する.
1. 今までのロボットとは異なる『機能的ロボット』という観点
また,脳卒中,および外傷性脳損傷を有した対象者においても上肢麻痺は非常に大きな問題となっている.外傷性脳損傷患者の17%1,脳卒中患者の50%2において,生活期に入っても上肢機能の改善が不十分な対象者が存在すると考えられている.
そういった背景の元,脳卒中後の上肢麻痺に対するリハビリテーション において,ロボット療法は麻痺を有した対象者が,練習量を確保し,従来の脳卒中後の麻痺手に対するリハビリテーションと同じくらいの改善効果が期待できると報告されている.
また,ロボット療法の中でも,特に手指の麻痺に対する介入においては,センサー電極で麻痺手の対象となる筋肉の筋電を受信し,それをトリガーとして,手指の随意運動をアシストするような機構を取るものが多い.しかしながら,多くの機器は,大型であったり,重量が大きかったり,高価であったりと,療法室の中で固定した条件で実施しなければならない.こういった背景から,Haywardら3は,ロボットを用いた介入方法では,現地にて療法士との大量の対面時間を共有する介入時間が必要になり,特に重度の麻痺を有する対象者においては,十分な機能回復が得られない可能性を指摘している.
また,ロボット療法の効果に関する議論も,どちらかといえば,療法士が対面にて提供するリハビリテーションの中にロボット療法を組み込むというよりは,むしろ,自主練習としての追加アプローチとしてロボット療法を利用することで,効果を認めたといった報告4も認められており,トレンドも変わりつつある.そこで,開発されたのが,日常生活の中で,装着しながら利用できる筋電センサー付きの機能的ロボットであるMyoProである.
Myoproとは,上腕二頭筋,上腕三頭筋,手指屈筋群,伸筋群にセンサー電極を配置しており,センサー電極にて,筋電を感知した際に,肘の屈伸、および手指の屈伸を外骨格型のロボットがアシストしてくれるといった機器である.この機器が従来の外骨格型ロボットと異なる点としては,機能的ロボットであることが挙げられる.機能的ロボットとは,活動レベルで麻痺手を使用する際に,使用に必要だが,麻痺によって失われた機能をロボットが代償的に補助してくれることにより,場面による麻痺手の使用が可能となる,といったコンセプトを有したロボットのことを指す.これらのロボットは,開発から日が浅く,臨床研究等はあまり進んでいないものの,次世代を象る新しいコンセプトであることは間違いない.
その中で,Pundikらは,13名の生活期の脳卒中および外傷性脳損傷患者を対象に,単群の前後比較研究の結果を準備研究として示している.この研究では,週2回,18回の療法士との対面のセッション(27時間)を先に実施し,この機器の使用方法に習熟した後,自宅において,これらを装着しながら,自主練習および生活を過ごすといったプロトコルが,採用されている.結果としては,麻痺の回復段階を示すFugl-Meyer Assessmentの上肢機能評価において,平均で7.5点の改善の統計的に有意な改善を認め,クリニックにおける対面の介入後も最終評価実施時の介入後9週後まで上肢機能は維持できたと報告している.
さらに,この研究における特筆すべき点は,介入終了後も上肢機能は維持にとどまったが,実生活における麻痺手のパフォーマンスの指標であるChadoke arm and hand activity inventoryと使用頻度が向上を続けた点である.つまり,介入終了後も機能的ロボットとして,生活内で麻痺手の使用行動の改善に影響を与えた可能性がある.ただし,この研究は,対照群を設定していない研究であり,効果等については言及できない.今後も,注視が必要な分野の一つであると思われる.
参照文献
1. Breceda EY, et al. Motor rehabilitation in stroke and traumatic brain injury: stimulating and intense. Curr Opin Neurol. (2013) 26:595–601.
2. Broeks JG, et al. The long-term outcome of arm function after stroke: results of a follow-up study. Disabil Rehabil. (1999) 21:357–64.
3. Hayward K, et al. Interventions to promote upper limb recovery in stroke survivors with severe paresis: a systematic review. Disabil Rehabil. (2010) 32:1973–86.
4. Takahashi K, et al. The efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute post-stroke hemiplegia: an exploratory randomized trial. Stroke. (2016) 47:1385–8.
5. Pundik S, et al. Myoelectric arm orthosis in motor learning-based therapy for chronic deficits after stroke and traumatic brain injury. Front Neurol. (2022); 13: 791144