医療において研究は必要なのでしょうか?-後編-

医療において研究は必要なのでしょうか?-後編-
リハデミー編集部
2019.02.20
リハデミー編集部
2019.02.20

医療において研究は必要なのでしょうか?-後編-

こんにちは。京都大学の藤本です。

前編に引き続き、医療において研究は必要なのか?という論点で書いていきたいと思います。
前編では研究が臨床で必要な理由について説明しました。後編では、

・研究の内容が臨床で活かせない!
・目の前の患者さんにエビデンスがどれほど役に立つの?
といった意見について私なりの解釈をお伝えしたいと思います。

まず、研究の内容が臨床で活かせないと思っているあなた。半分正しく、半分正しくないです。研究の中にはたしかに「なぜこの研究をしたの?」「臨床の課題解決になっているの?」といったものも散見されます。臨床疑問(クリニカルクエスチョン)から出た研究ではなく、医療機器であったり、手技ありきの研究であったり、プロダクトアウト(対義語:マーケットイン)のような研究がまさにそれです。

また、いわゆるエビデンスレベルの高いランダム化比較試験は統制をとるために限定的(理想的)な状況下で行うため、臨床に活かしにくい結果であることは確かです。先行研究では、ランダム化比較試験の包含基準に含まれる対象者は、実際の患者さんの20%未満という報告もあり(Herland et al, Respir Med, 2005)、そもそも対象者が限定的であるということも考えられます。

しかし、観察研究の場合はそうではないこともあります。特に、レセプトデータを用いているような研究では実務的な効果が見られますから、いくらリハビリテーション職種の人が「私たちがやっていることは効果がある」と言っても、実務データで効果がないということもありえるわけです。この場合、研究内容が当てはまらない(活かせない)のではなく、そもそもの自分の臨床を見直す必要があることを示しています。

こちらも面白い考察ができるある2つの論文があります。COPD患者さんに対するリハビリの効果を検討したあるランダム化比較試験では”効果あり”という結論であった一方で、過去起点コホートで検証されたものでは”効果なし”でした。これらの結果はつまり、理想的な環境で行われた研究は”バイアスが(できる限り)考慮された研究”、すなわちエビデンスレベルが高いものとしては優秀な一方で、実務的なデータとは乖離している可能性があるということです。

そもそも論文などのエビデンスを考える際、一つの研究知見で何かの意思決定を行うことはありません。上記のことは当たり前であり、このような結果の場合にどのように意思決定するかは医療者のスキルに委ねられることになります。しかし、観察研究では十分にバイアスを考慮できないこともあり、結局のところ、観察研究、介入研究の両輪からエビデンスを見ることが必要になります。その結果がもし臨床で活かせないのだとしたら、活かせない理由は2つです。

・目の前の患者さんに本当に活用するのは難しい
・自分が臨床に活かすスキルを持っていない

「活かす」という言葉の幅によりますが、多くは後者です。そもそもエビデンスが使えないと思っている人に一度考えて欲しいのは「使える」の定義です。

皆さんは、降水確率何%から傘を持っていきますか?

この降水確率、過去のデータから統計に導き出されているエビデンスなのですが、皆さんはこれを参考にしながら意思決定していますよね?また、タバコを吸うと肺がんになりやすくなるということはご存知かと思いますが、これもエビデンスから示されたことです。このような上記の情報に対して、例えば「降水確率は当たらないこともあるから俺は見ない」「タバコを吸っても肺がんにならない人もいるだろう」と言うでしょうか?使えないと言いますか?

ほとんどの人が言わないかと思います。もちろん、当てはまらない人に対しては考察するでしょう。この当てはまらない人の理由究明がすなわち、個別性の究明になります。

少し脱線しますが、リハビリテーションでは”個別性”が大事にされる文化があります。もちろん個別性は大事です。しかしながら、個別性はあるエビデンスをもとに「そうならない人もいる」というエビデンスが前提となっているわけです。

さて話を戻しますが、エビデンスという情報を活かす上でも同様に絶対論はあり得ません。どのように臨床に活かすかは工夫が必要になります。そう考えると、結論として研究は臨床に活かせないのではなく、あなたが”活かしていないだけ”と捉えることもできるかもしれません。

研究デザインの中には、インタビュー調査を用いた質的研究などよりナラティブの情報によった、または仮説生成の研究方法もあります。その結果はもちろん量的研究と比べてバイアスは限りなく排除できていないことが多いわけですが、それでもやはり臨床に活かすこともできます。しかし活かす上で知っていなければいけないのは、質的研究の手法です。当然、研究論文を読むのですから、読める能力も必要です。

こういったことから、自身の能力次第で活かすことはいかようにもできることになります。活かす能力をつける前に否定するのだとしたら、それは患者さんのことを真に考えることができていない証拠になります。

まずは、研究方法を含めて、研究というものがどのようなものか勉強を始めてみても良いのかもしれません。

 

略歴

藤本修平 理学療法士、博士(社会健康医学)

2009年に理学療法士免許を取得後、臨床に約7年従事。京都大学大学院で公衆衛生学・健康情報学を学んでいる中、社会に医療を届けるには病院の外(実際に病気が起こる現場)に介入しなければいけないと気づき、2015年に医療ITを手がける(株)メドレーに転職。新規事業の立ち上げに参画後、ベンチャー企業の事業開発マネージャーを経て、豊田通商(株)グループに入職。新規事業の立ち上げおよび保険外サービスにチーフマネージャーとして携わる。同時に、京都大学大学院でプロジェクト研究員を兼務。これまで主著・共著併せて50編以上。個人事業では現在23社との業務委託を結び、ヘルスケアビジネスの立ち上げや新規事業開発の支援を行なっている。

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