バーチャルリアリティシステムを利用した自宅での自主練習としての上肢リハビリテーションの現在の立ち位置について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.12.19
リハデミー編集部
2022.12.19

<抄録>

 脳卒中を呈した対象者の中には,リハビリテーションを受けることができた病院を退院後に,リハビリテーションサービスを受けられない者も増加している.しかしながら,リハビリテーションサービスが終了した後も麻痺手の運動障害は残存しており,場合によってはさらに悪化する場合も考えられる.こういった問題を解決するために,バーチャルリアリティシステムによるリハビリテーションは近年大きな注目を集めている.特に,バーチャルリアリティの環境とゲームを組み合わせたテレリハビリテーションなどの新技術は,慢性期の脳卒中患者の上肢運動障害に対するリハビリテーションにおいては,重要な役割を果たす可能性が考えられている.本コラムにおいては,自宅にて自主練習として実施されたバーチャルリアリティを用いたリハビリテーションプログラムの現在をまとめ,解説を行っていく.

1.バーチャルリアリティシステムを利用した自宅における上肢リハビリテーションの現在の立ち位置について

 脳卒中は,死因に関しては,下がりつつあるものの,その件数は年々増加しており,今後も増加の一途を辿ることが予測されている.また,脳卒中によって上下肢の片麻痺を発症する対象者は多く,それらの運動障害が対象者のQuality of lifeを低下させる.しかしながら,世界各国は財政的な問題を抱えており,医療費についても削減傾向が続いている.そういった背景の中で,近年では脳卒中によって生じた機能障害が持続,もしくは残存しているにもかかわらず,脳卒中患者の入院期間を短縮する傾向が認められている1.しかしながら,その後の病院の外来診療や在宅介護サービスは,脳卒中後の短期間であればある程度充実したサービスを受けることができるものの,自宅から施設の距離が離れている,交通費がかさむ,介護者が限られているといった制約がつきまとうのが現状である2.

上記の背景の元,脳卒中後の上肢運動障害の回復のために,早期治療と適切な強度と期間を有するアプローチが多くのガイドラインでも推奨されている.それらの中で,感覚運動機能を回復させるために,Constraint-induced movement therapyやバーチャルリアリティ技術を用いて,対象者の目標に即した集中的で有意義な課題指向型アプローチの提供が勧められている.また,これらの技術に加え,近年ではヘルスケア分野において,テレリハビリテーションが発展している.脳卒中後の運動機能に関するシステマティックレビューでも遠隔リハビリテーションによる介入は,従来の対面アプローチとほとんど同等の効果が期待できると示唆されている3. 

こういった背景から,近年では,慢性期の上肢運動障害を呈した対象者を対象とした,テレリハビリテーションとバーチャルリアリティを用い,課題指向的に実施される自主練習プログラムの開発が勧められている.Hernandezらは,51名の上肢麻痺を有した慢性期の脳卒中患者を対象に,テレリハビリテーションとバーチャルリアリティを用い,課題指向的に実施される自主練習プログラムの検証を行っている.この研究では,対象者はバーチャルリアリティ内で提供される上肢機能アプローチを1日20分以上,週5回の参加を求められる.さらに週1-2回,記録された練習ログを遠隔に所在する療法士が確認し,それらの状況を評価した上で,対象者にとって適切な練習プログラム・難易度の設置を実施した.これらのアプローチを実施する群を介入群,上肢運動障害のリハビリテーションとしてゴールドスタンダードの一つとされているGraded Repetitive Arm Supplementary Programキットホームプログラムを対照群に対して提供している.対象者はそれら2群にランダムに割り付けられ,比較検討がなされた結果,両軍ともに,介入前後の時間効果については,有意なFugl-Meyer Assessmentの上肢項目における変化は認められなかった.その上で,介入群は実施した対象者の78%が臨床上意味のある最小変化量を超える変化を示したと報告している.これらの結果から,自宅にて自主練習で運営されるアプローチとして,バーチャルリアリティとテレリハビリテーションシステムを併用したプログラムは,従来のゴールドスタンダードであるアプローチと同等の結果を示すことができたと報告している.

まとめ

 上記で示したように,脳卒中後の上肢麻痺に対する自宅での自主練習プログラムの開発は多くなされている.しかしながら,多くの研究で明確な効果は示せていない現状にある(筆者らは有効と主張していたとしてもデザインや統計等の問題によって効果を示せていない場合が多々ある).今後も,この領域の研究が増え,効果的な手法が開発されることが期待される.


参照文献

1.Holden MK, Dyar TA, Dayan-Cimadoro L. Telerehabilitation using a virtual environment improves upper extremity function in patients with stroke. IEEE Trans Neural Syst Rehabil Eng 2007 Mar;15(1):36-42. 

2.Sibley LM, Glazier RH. Reasons for self-reported unmet healthcare needs in Canada: a population-based provincial comparison. Healthc Policy 2009 Aug;5(1):87-101

3.Sarfo FS, Ulasavets U, Opare-Sem OK, Ovbiagele B. Tele-rehabilitation after stroke: an updated systematic review of the literature. J Stroke Cerebrovasc Dis 2018 Sep;27(9):2306-2318 

4.Hernandez A, Bubyr L, Archhambault PS, Higgins J, et al. Virrtual reality-based rehabilitation as a feasible and engaging tool for the management of chronic poststroke upper-extremity function recovery: randomized controlled trial. JMIR Serious Games 2022; 10(3): e37506

前の記事

リアルタイムに提供さ...

次の記事

脳卒中後の上肢機能ト...

Top