吉尾雅春先生インタビュー②:自己研鑽と若手セラピストの変化

吉尾 雅春先生 × 藤本 修平先生インタビュー
神経系疾患
リハデミー編集部
2020.04.05
リハデミー編集部
2020.04.05

脳解剖学の広がり

藤本:脳の中をしっかりと見ようとする若手はけっこう増えていますよね。

吉尾:増えました、増えました。

藤本:先生のご尽力は相当だと思います。私も前に少しお話させていただきましたけれども、PTの1年目のときに初めて出た講習会が先生の講演でした。講演を聞いた時、大学で習ってきた解剖ってなんだったんだろうと思いました。部位だけを知って、結局全部縦割りで。脳卒中をみていても、「脳画像でこういうところがあるから、もう少しこういうアプローチもしてみたら。」と先輩から教わることもない。とりあえず、ひたすら大学時代に習った腱反射をやり、MMTをやり、ということを一通りやるのが自分の当たり前でしたが、先生の講習会を聞いて、言い方が適切か分からないですけれども、自分の中には全く無かった考え方があると思ったんです。たぶんあれは8年、9年前だったと思うんですが、妻と一緒に先生のループのところを見た時に、「これは衝撃だよね」、「なんで学校で習えないんだろうね」とすごく不思議だったんです。その背景には教育体制として、脳画像を学んだ人が、まず、いなかったということなんでしょうね。

吉尾:そうですね。

藤本:しかもそれをやろうとしても上の人から抑えられてしまっていることを考えると、今、若手で興味を持っている人が出てきたことは相当すごい事ですよね。

吉尾:そうですね。私がねPT協会で当時で言う現職者講習会をスタートしたのは今から18年前に三重県で三日間コースを開いてからになります。現在も進行中で、17回まで終わって今年が18回目になります。PT 協会ではじめてのセミナーで脳卒中がらみのセミナーです。脳画像のことを聞きつけて、三重県がやりましょうとおっしゃったわけですから、私の歴史はさらにそこからもう少し遡っているわけですよね。

藤本:何年前の学会かは忘れましたけれども、神戸であった学会で、教育のシンポジウムだったと思うんですが、先生が前に立たれていて、ボタンを押すと前に人数が出るという会場に自分もいたんですよね。その時に先生が解剖の重要性を説かれていて、「解剖が重要だというのはみんな分かっている、運動・生理・解剖と言われてももちろん分かっている。でも、『解剖の意味をわかってますか?、機能との連結やここがやられると、こうなってしまうのに、ここで出なかった時に他に何が潜んでいるのか、と考えられるのが解剖です。』単純に部位を学んで、そこの部位を運動学での作用とかをやることが解剖や運動学ではないですよ。」という言葉がすごく印象的でした。でも現場にいた先生方の口調は「あ〜」という感じだったんですよね。だから解剖、脳もですが、先ほどの診療ガイドラインの背景には、解剖の重要性がしっかりと根付いているからこそ、意味のあるものになっていくということですよね。

吉尾:そうです。私は、診療ガイドラインで使う論文は必ずしも十分に信頼性のあるものではないと思っています。データの処理の仕方などはとても妥当なのかもしれない。でも背景になるものが成っていないと思うんです。

今後さらに広がるべき分野とは

藤本:それこそ脳卒中、ストロークペイシェントを対象にした英語論文でも、脳のどこが障害されているかとがいまいち書かれていなかったりしますよね。

吉尾:書かれてないですね。

藤本:脳卒中と書いてありながら、ほとんど被殻だったりするわけですよね。そうなると、これは脳卒中というか被殻出血か被殻という特有の話になってきます。、論文を読むときに、どこまで研究している人なのか、もしくは読む側がどこまで突き詰められるのかということに繋がってくるんですよね。

吉尾:そうですね。医学書院の理学療法ジャーナルで、視床出血と被殻出血を特集したときにはとてもたくさんの方に読んでいただきました。被殻とは、視床とは、どういう繊維連絡になっているのか、どういうネットワークを組んでいるのか、すぐそばをどういう繊維が通っているのかを前提として、ケーススタディをしているんですよね。とても意味があったと思いますし、こういうものの積み重ねがすごく大事でとガイドラインに活かしていけるようになればと思っています。昔は学会で症例報告するのは脳だったんですよ。でも私たちの世界は、症例を通しながら原因を探って、結果として臨床に活かせるような世界を構築していかないといけないですよね。だから今は神経理学療法学会でも、ケーススタディをできるだけ受けられるようにしていきたいと思っています。

藤本:普通医学会だと、症例報告はとても多いですよね。

吉尾:そうですよ、そうですよ。

藤本:循環器学会もこの間見ていたらすごく多くて。

吉尾:そうですよ。積み重ねですから。

吉尾:とくに今は倫理委員会が厳しくなってきて3例以上だと倫理委員会をしっかり通さないといけないのですが、1例、2例の報告だったらしっかり出せるし、倫理委員会のことをそんなに難しく考える必要もありません。しかもディスカッションもしっかりできるのであれば、あとはそれを積み重ねていけばいいエビデンスができるはずですからね。

藤本:その辺りはいい意味でも、研究という枠組みを再考する時期が来ているのかもしれないですね。

吉尾:そうかと思います。

藤本:研究とは量的研究であり、質的研究は研究ではないと言われていた時代が昔はありました。でも今は、公衆衛生の分野でも質的研究から始めないとダメだと言われ出していて、定性的なものを大事にしようという雰囲気になっています。ようやくスタンダードがある程度できてくると個別性の意味ができてきて、それが症例報告となるわけですよね。そこからさらにフィードバックされ、仮説が立って、また新たな研究が、というループ生まれるっていうことですよね。

吉尾:そうですね。だからいわゆる俗にいう研究者ももちろん頑張らないといけないですけれども、ここはもう臨床家が頑張れというところですね。

藤本:まあそうですね。

吉尾:そういうレポートをどんどん出していき、それをまとめてもらえるといいかなと思いますね 。

藤本:ちなみに診療ガイドラインでは、イギリスですとグッドプラクティスポイントを出せるので、スタンダードまで行かなくても、個別的よさそうなものは、エビデンスに関係なく、コンセンサスを得れば載せることができるというルールがあるんですよね。今回、PT協会ではそのルール取り入れてないのですが、症例集みたいな形でどんどん蓄積するといいですよね。

吉尾:そうですよ。昔と違って脳はブラックボックスではなく、中がだいぶ見えるようになったので、脳画像を背景にケーススタディをしていく意味はあると思います。頑張って欲しいと思います。

 

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