リモート環境における介護者を含むConstraint-induced movement therapy(CARE-CITE)の現状
抄録
感染症の拡大予防や医療費の圧迫,対象者の利便性といった様々な観点から,昨今リモート診療のニーズが高まっている.本稿では,脳卒中後の上肢麻痺に対するConstraint-induced movement therapyを取り巻くリモート関連の研究について紹介する.
リハビリテーションにおけるリモート環境構築の意味
リハビリテーション領域において,一部の対象者は介護者に大きな負担をかける.それは,多くの介護者のQuality of lifeの低下やストレスの増加に強い影響を与えるとされている1),2).また,昨今,国家の緊縮財政の影響もあり,リハビリテーションサービスを取り巻く環境では,償還額が徐々に減りつつあり,これらがより家族の負担を増して,在宅でのサービス利用に偏移を生んでいると言われている3).このような背景の元,リハビリテーションの利用や,診療のために,外来への介護者による対象者の送迎が大きな負担となっている可能性がある.
さらに,2020年1月より,世界規模で感染拡大が見られるCOVID-19の影響により,世界中でリモート環境の構築が急速に勧められている.あの腰が重かった厚生労働省ですら,医療における初診をオンライン診療にて時限的に認める方針を固めた.さて,このように激変する医療環境の中でリハビリテーション分野における『リモート診療』はどのような現状なのであろうか.本稿では,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチであるConstraint-induced movement therapy(CI療法)に関するリモート事情について解説を行う.
オンラインによるCI療法
Blantonら4)が開発した,リハビリテーションと看護学における研究から得られた知識を基盤として,介護者と対象者に対する遠隔でのCI療法の取り組みがある.これらは,CARE-CITEと呼ばれており,対象者とその家族を巻き込み,しかも遠隔地からオンラインにて療法士が関わるCI療法の仕組みである.
具体的には,4-6週間の期間に,脳卒中患者が10回,3時間の自宅におけるCI療法を家族とともに実施する.これに加えて,対象者が介入中にオンラインにて受けることができる6つの教育コンテンツは,1)CARE-CITE入門,2)CI療法のコンセプトとやり方,3)練習と目標設定について,4)自律支援−パートナーシップの創出(対象者と介護者),5)介護者である自分を大切にする方法,6)内容の振り返り.CARE-CITEは,脳卒中患者が麻痺手を実生活において使用できることを目的としており,それらを促すために様々なオンラインコンテンツが用意されている.
対象者および介護者は集中練習以外の時間を用いて,6つのオンラインコンテンツを独自で復習する.コンテンツの理論的な枠組みとしては,行動変容における自律支援であり,その中で,1)共感を促す(対象者が困難だと認識している課題について介護者と共有・話合い),2)問題解決における共同作業(対象者と介護者が一緒に活動の難易度の上げ下げ,環境調整を議論する),3)練習する課題・活動について対象者の自己決定を促す(目標設定を対象者と介護者が共同でシェアする),4)能動的な意思決定を導く言葉遣いのシナリオを介護者に提供する(やらせる,させるなどの支配的な言葉ではなく,やるなどの非支配的な言語),を示すオンラインムービーで校正されている.また,これらのコンテンツの最後に,対象者と介護者の認識を統合するための自己をモニタリングを目的とした振り返りを促す4~6個の質問に答える.この手続きを通して,その答えの差異をお互いが認識できるように設計されている.これらの回答は,オンラインで即座に療法士に送信され,現状がすぐに理解できるようになっている.
CARE-CITEの現状
現在は,6名の脳卒中患者およびその介護者を対象に,安全性と妥当性を検討するための準備研究が実施された.その研究を通して,CARE-CITE自体がCI療法や患者および介護者教育の専門家の目から見ても,内容の妥当性が高く,実現可能で適切なコンテンツであるとされている4).また,看護や介護の研究のほとんどが看護師によって遂行されていることを鑑みると,Webで対処する職種を療法士ではなく,看護師を起用した方が良い可能性も指摘されている.
また,この研究に参加した全ての介護者は,CARE-CITEに満足しており,このオンラインコンテンツは使いやすく,受容しやすいと強く感じていたと報告されている.また,この研究を通して,脳卒中後の上肢麻痺を改善するためには,介護者は上肢機能の改善に焦点を絞った問題解決型の介入(現状の状況に対し,目標と問題点を明確にし,それを解決するためにどのような手法が必要となるのかをコミュニケーションの中で習得するような介入)を重要視していることが示唆された.この方法は,対象者というよりも,むしろ介護者に対する教育的なプログラムの色が濃いものと考えられる.
さて,Blantonらの予備研究では、CARE-CITEのコンセプトの妥当性,実際に受けた際の介護者の満足度についてのみ検討を行っており,実際に対象者の上肢麻痺の機能・運動障害および実生活における麻痺手の使用に関してはアウトカムを公表していない(学会発表レベルでは公表しているようだがデータを探索できない).現在,彼らはCARE-CITEの脳卒中患者の上肢麻痺に与える影響について,ランダム化比較試験を企画し,実行しているようである.今後,この結果の続報が待たれる.
動画資料
謝辞
本コラムは,当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの朋成畠氏,佐藤恵美氏,岸優斗氏,甲斐慎介氏,高瀬駿氏に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。
執筆者
竹林崇 先生
作業療法士
大阪府立大学
地域保健学域 総合リハビリテーション学類
作業療法学専攻 教授
参照文献
引用文献
1、Clark PC, et al: Influence of stroke survivor characteristics and family conflict surrounding recovery on caregivers’ mental and physical health. Nurs Res 53(6):406–413, 2004
2、Haley WE,et al: Problems and benefits reported by stroke family caregivers: results from a prospective epidemiological study. Stroke 40(6):2129–2133, 2009
3、Reinhard SC, et al: How the affordable care act can help move states toward a high-performing system of long-term services and supports. Health Aff (Millwood) 30(3):447–453, 2011
4、Blanton S, et al: Content validity and satisfaction with a caregiver-integrated web-based rehabilitation intervention for persons with stroke. Top Stroke Rehabil 25(3):168–73, 2018
5、Blanton S, et al: A web-based carepartner-integrated rehabilitation program for persons with stroke: Study protocol for a pilot randomized controlled trial. Pilot Feasibility Stud 25: 58, 2019