脳卒中片麻痺症例における長下肢装具療法の考え方と使い方《前編》

脳卒中片麻痺症例における長下肢装具療法の考え方と使い方《前編》
神経系疾患, 支援工学
リハデミー編集部
2018.10.21
リハデミー編集部
2018.10.21

装具はただ機能を補完する道具ではない!?

脳卒中後の神経可塑性、及びニューロリハビリテーションの視点において、機能回復に結びつく要点として頻度特異性、課題指向型訓練、段階的な難易度設定、豊かなリハビリテーション環境、チーム医療、フィードバックの質・量と言われています。[1]脳卒中ガイドライン2015においても、早期座位、立位、装具を用いた歩行や歩行に関連する下肢訓練量を増やすことが推奨されおり、目標、目的となる意味のある課題のシチュエーションを作り、頻度を確保しなければなりません。[2]そうなると重症脳卒中症例では、立つことも、歩くことも困難な時期から、どのように適切な課題のもとで、運動量・負荷量を増やすことが良いのか?という問題に直面します。

例えば起立、立位、歩行訓練を問題なく行えるスキルがセラピストにあったとしても、患者本人が麻痺側下肢の支持性が得られず、膝が折れてしまう状況下で立位を取ることは、決して容易ではなく、大変難しい課題に値するかもしれません。そうなると、ベッド上臥床での単関節の運動を行うことも選択肢として考えられますが、運動技能向上には起立、立位、歩行訓練など目的とする動作、活動と密接する訓練が推奨され、課題指向型訓練が有効ということは明らかです。[3]よって、立位、歩行という目的とした課題の中で、長下肢装具という道具を用い、関節の自由度を制約し、適切な難易度を調整することで運動制御、運動学習を促進させていくことが可能となります。

装具の目的には、固定、支持、矯正、免荷の目的があります。

しかし、終始固めるというイメージではなく、装具の関節自由度を調整することや、運動幅を増減することで適正な制御力のもとに、段階的に難易度調整を行うなどの『トレーニングを支援する道具』です。

つまりは、セラピストがどうその道具を有効活用するのかが重要でもあります。

 

機能を高めるために、長下肢装具をどう考え、使うのか?

長下肢装具がもたらす効果として、装具単体として実証された効果がないのは事実ですが、利点として上記の課題難易度の調整以外に

①歩行時の筋活動量の増大
②重度の麻痺患者では随意筋力より高い筋活動が発揮できる
③歩行時の足関節の可動範囲が増大
[4]
④姿勢制御への感覚モダリティーと重み付けの調整

に対し、効果を見込むことができます。

特に重度の弛緩性麻痺を患った症例では、自己で動かすことが困難であり、筋緊張も低い状態にあります。よって、何らかの課題の中で筋出力を高めていかなければいけませんが、自分で動かすことが困難ですので、随意運動において強い筋出力を発揮することは容易ではありません。

また、脳卒中後の筋出力低下については、下降する神経線維(皮質脊髄路)からの発火頻度(運動単位の参加が)低下やそれに伴う筋本来の収縮が減弱することにより、筋出力が低下します。なかでも脳卒中後の筋力低下は、高域値細胞の選択的低下が生じ、TypeⅡ線維が低下しやすいとの報告があります。[5]

そのような理論背景からも、長下肢装具を用いた歩行訓練では、TypeⅡの特徴である早く、強い収縮を求めることが可能です。

実際に大畑らの研究では、脳卒中症例において等尺性での最大随意筋力より、長下肢装具を用いた歩行訓練時の方が大腿直筋において強い筋収縮が得られたとの報告もありますので、歩行訓練の中で筋出力を高める方略としては有効かと思います。[6]

しかし、ただ歩行の中で筋出力を高めれば良いかというと、そういう問題でもありません。どう立位、歩行課題の中で姿勢制御機構を構築し、先々の日常生活活動の中で体幹や下肢が土台となり、どう運動制御へ貢献していくかを考える必要があります。姿勢制御を構成する要素として感覚モダリティ、感覚統合と重み付け、垂直感覚(視覚性・垂直性)、生体力学的制限、運動戦略、認知処理の6つの要素が重要となります。[7]

感覚障害の有無に関わらず、麻痺側の支持機構が破綻することで、麻痺側の床から反力情報は減弱し、本来であれば体性感覚が70%、前庭感覚が20%、視覚が10%という配分で感覚情報を適応させますが、視覚情報に加担している症例も臨床上多く見受けられるかと思います。実際に脳卒中患者では、視覚情報への依存が強くなるとの報告もあり、いかに体性感覚を用いた姿勢制御戦略へとシフトさせ、麻痺側への荷重と非対称性を改善させていくことが重要となります。[8]特に足底からの触圧覚情報は立位バランスへの貢献も示唆されており、荷重感覚も同様に歩行能力を改善へ導く要因となっています。[9]

つまり、長下肢装具を装着することで膝関節の支持性を補償し、足底からの感覚情報を意識した姿勢制御への介入感覚の重み付けを早期から身につけることで、課題に合わせその重み付けを調整できるよう関わっていく必要があります。

 

長下肢装具を使う中で、デメリットはないのか?

ここまでは、長下肢装具を用いた装具療法の考え方とその利点などを中心に述べさせて頂きました。しかし、どのデバイスもそうですが、特性があり、その反面欠点というのも、いくつか存在します。長下肢装具においては、膝が固定されているため、歩行遊脚期において膝が曲がらないことが最も考えられる欠点かと思います。

結果、歩行中に装具装着側の膝が曲がらないことで、体幹や非麻痺側で代償してしまうという懸念、あるいは問題が多く考えられかと思います。それは構造上での問題にはなりますが、最もデメリットは装具へ依存してしまうことだと経験上感じています。長下肢装具はレバーアームが長く、安定できる場所が多くあります。その反面長下肢装具の後面のカフに大腿部・下腿部共に押し付けながら、そこを安定点に立位を保持することも多くの患者さんで見受けられます。

また、長下肢装具を用いた歩行訓練を継続的に実施することで、初期に認めた筋活動が徐々に認められなくなるということも、筋電図など計測機器を用いると明らかになります。

つまりこれは、自己で制御すことを辞め、装具である外的安定への依存を示唆しているのだと思います。このような状況で立位・歩行訓練を実施しても、何ら自己での姿勢制御を学習したり、必要な生体力学的安定を作ることは困難になります。

結果、装具がなければ立つことができなくなり、装具がない状況下では、余計不安定性を高めてしまうきっかけにもなり得ます。

そのよう誤った戦略を学習させないよう、装具の構造を知ることや静的・動的なアライメント、装具のフィッティングなども知識だけでなく、実際の患者を通した分析、調整が行えなくてはなりません。日々の変化する、身体機能に合わせ、刻々と関節の制御数や運動範囲、補助具の調整など、課題難易度を段階的に上げていくことがセラピストの重要な役割だと思います。


参照文献

[1]森岡周(著):リハビリテーションのための脳・神経科学入門 改訂第2版.協同医書出版会社.p167-188

[2]日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会(編):脳卒中ガイドライン2015.協和企画.2015;277-278.288-289

[3]Foley N et al:Chapter 10.Upper Extremity Interventions.Evidence-Based Review of Stroke Rehabilitation 17hh,2016,P19-21

[4]大垣昌之:脳卒中後遺症の再建-これまでのあゆみと可能性への挑戦-.理学療法学 第42巻第8号.2015

[5]Luka’cs M,et al.Large motor units are selectively affected following a stroke.Clin Neurophysiol 2008:119:2555-2558.

[6]大畑光司 他:脳卒中後片麻痺患者に おける長下肢装具歩行時の筋活動の縦断変化 第 48 回日本理学療法学術大会抄録集.2016

[7]Peterka RJ:Sensorimotor integration in human postural control.J Neurophysiol 88:1097-1118.2002

[8]Tyson SF, et al:Balance disability after stroke.Phys Ther 86:30-38,2006

[9]Hayashibe M et al:Locomotor improvement of spinal cord-injured rats through treadmill training by forced plantar placement of hind paws.Spinal Cord.2015

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