脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するセンサー類を用いたモニタリングシステムに必要とされている機能について(3)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.01.23
リハデミー編集部
2023.01.23

<抄録>

 1990年代後半から,脳卒中後に生じた上肢麻痺に対して,様々な治療的リハビリテーションプログラムが開発されてきた.また,その開発に際して,公衆衛生学や疫学の作法に則り,正確な研究デザインによる研究を通した効果検証も併せて実施されてきた.それらが進む中で,リハビリテーションプログラムの効果判定に関わるアウトカムについても少しずつ変化が見られている.当初はFugl-Meyer Assessmentで測ることができる麻痺の改善について焦点が当てられていたが,徐々にAction Research Arm TestやWolf Motor Function Testで測ることができるパフォーマンスレベルの改善に移り変わり,現在となっては,Motor Activity Logや活動量計と言ったセンサー系アウトカムが重要視されている.本コラムにおいては,現在重要視されつつある,センサー系アウトカムについての現状と,今後の開発における課題等について,3回にわたりまとめていく.第三回は,センサー系アウトカムの限界や課題を解決するために,療法士や対象者が,これらのデバイスに対して,どのような希望や問題を抱えているかについて,質的研究の内容にフォーカスする.

1.麻痺側上肢の行動を観測するセンサー系デバイスの限界や課題に関する現場の想いについて

 第二回の脳卒中後に生じる上肢麻痺に対するセンサー類を用いたモニタリングシステムに必要とされている機能について(2)では,発展を遂げてきたセンサー系アウトカムの限界や課題について解説を行った.その中で,限界や課題の大部分を占める大きな要因としては,療法士と対象者における心理的なバリアが関連している可能性があることを示唆した.第三回では,これらの心理的なバリアがどのように形成されたのか,これらについて理解することで,限界や課題を克服する鍵を探索していく.

 Jungら1は,上記の問題点について,質的研究を実施している.その中で,問題点となっている1)脳卒中患者や作業療法士によるウェアラブルセンサーの運用とそのデータの扱いについて,2)ウェアラブルセンサーによって対象者が生成したデータを利用したリハビリテーションプログラムの実用化,3)現代の療法へウェアラブルセンサーを用いたプログラムの移行をさらに支援するためのリモートモニタリングの改善点,と言った3つの点について,インタビュー内容を用いた質的研究を実施している.

 本コラムにおいては,特に1)の部分に焦点を当てて紹介したいと思う.彼らの質的研究においては,先行研究で問題とされていた『対象者自身が,ウェアラブルセンサーの着脱を煩わしく思ったり,継続的に最新のデバイスの内容を理解した上で,装着・操作する能力を有さない場合が多い』と言った点に反して,4名中3名の脳卒中を有した対象者は,医療者から提案されたウェアブルデバイスの装着について前向きな姿勢を示したと報告している.特にPatient1は『3週間でも,どのような時間の中でも付けたい.センサーのデータを使って自分のパフォーマンスをモニターしたり,その内容に応じたソーシャルサポートを家族やうけることができるし,何よりも専門家とそれらのデータを共有してより質の高いリハビリテーションプログラムを受けてみたい』と答えたとされている.一方,1名否定的な意見を述べたPatient4は『自身のニーズである上肢の痛みに関して,ウェアラブルデバイスによるモニタリングシステムは,ニーズを満たす機能を有していない』と考え,ウェアラブルデバイスを利用したくないと回答したとされている.また,Patient4は上肢麻痺の程度を示すFugl-Meyer Assessmentにおいて,66点中63点の軽度の麻痺を有しており,実生活における麻痺手の使用行動を示すMotor Activity Logは5点満点と脳卒中発症前と変わらないくらい使用しているとのことであったことも,こう言った返答につながった可能性があるとしている.また,この研究内で対象者となった4名の脳卒中を有する対象者は,センサーの着脱について,恥ずかしいまたは障害を連想させると言った負の感情は示さなかったとも報告している.

 一方,作業療法士によるウェアラブルデータの使用に関する意見としては,15名の研究の対象となった全ての作業療法士が,『ウェアラブルセンサーの利用によりより多くのデータが獲得でき,それらのデータを使用することで,より個別的なリハビリテーションプログラムを提供できる可能性がある』と非常に前向きな意見を述べたとしている.より具体的には,『診療前の数分間にデータを確認し,対象者の前日のパフォーマンスのパターンを把握する』『セッション中に対象者と一緒にデータを確認し指導を行う』と述べており,対象者の文脈を理解するための補足情報,そしてリハビリテーションプログラムの精度を上げるための情報として利用したいと言った声が大きかったと報告している.

まとめ

 この研究の結果を見ると,比較的早期からInternet of things(IOT)やInformation Communication Technology(ICT)療法士や対象者においては,ウェアラブルデバイスに対する心理的なバリアはむしろ低いのかもしれない.従って,これらのデバイスをより積極的に利用したリハビリテーションが主流になる時代が5年後,10年後に迫っている可能性がある.療法士はこれらの時代に備えて,知識・技術ともに準備をする必要があると思われた.


参照文献

1. Jung HT, et al. Envisioning the use of in-situ arm movement data in stroke rehabilitation: Stroke survivors’ and pccupatinal therapists’ perspectives. PLOS ONE 17: e0274142

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