Brain Machine Interfaceは果たして臨床で利用することができるのか?最近の知見からみるその特徴と役割について(1)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.09.22
リハデミー編集部
2023.09.22

<抄録>

 脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの手段として、様々なアプローチが検討されている。最近では、筋電トリガー型のロボット支援アプローチを可能とする機器など、生体信号を利用したリハビリテーション技術も進んでいる。さて、そういったトレンドの中で、脳が発する信号をダイレクトに受信し、それをトリガーにしてアプローチを実現する、Brain Machine Interface(BMI)を用いた試みも、脳卒中後上肢麻痺の機能回復を目的として実施されている。本コラムでは、最近のBMIを用いた研究を読み解き、脳卒中後に生じる上肢の運動障害に対するリハビリテーションにおける機器の特徴と役割について、2回にわたり解説を行う。

1. Brain Machine Interfaceを用いた脳卒中後上肢運動障害に対するリハビリテーションの軌跡

 脳卒中は世界で2番目の死因であり、障害の主な原因である[1]。脳卒中後遺症者の多くは様々な程度の障害を負っており、機能的自立や生活の質に大きな影響を与え、看護ケアの負担を増大させる[2-4]。特に、脳卒中後遺症者の80%近くが上肢機能障害を有し、日常生活動作(ADL)や社会参加能力にも重大な影響を及ぼしている[5]。このため、拘束誘発運動療法(CIMT)や課題指向訓練などのリハビリテーションアプローチが提案されている。しかしながら、これらのアプローチは軽度例がターゲットになっている。実際、中等度から軽度の上肢運動障害に対するリハビリテーションについては、近年、多くの効果のエビデンスが示されている。しかしながら、重度の上肢運動機能障害を持つ対象者においては限界があるのが現状である[6]。

 そこで、ミラーセラピー、運動イメージ療法、行動観察療法、電気/磁気刺激などの代替的なアプローチが考えられている。これらのアプローチは、損傷した神経ネットワークの機能再編成を強化し、運動障害を最小限に抑える可能性がある[7-9]。また、バーチャルリアリティ、ロボット支援療法、BMIに基づくトレーニングなどの新しいリハビリテーション技術も提案されており、従来のリハビリテーションと比較して患者の積極的な関与や意欲を高めることができる[10]。

 BMIは、運動タスクや認知タスクの脳活動を処理してフィードバックに変換する新しい手法であり、視覚的、聴覚的、触覚的、または外部装置の制御信号などの形で表現できる[11]。特に非侵襲的なシステムの中で、EEGは低コストで携帯性に優れ、脳活動を伝える信号特徴を抽出できるため、臨床において、セラピストが障壁なく、リーズナブルに利用できるセンサー機器の一つであると考えられている[12]。感覚運動リズム(SMR)は、運動および/または運動イメージによって変化する8〜30Hzの同期した脳活動の振動リズムである。実際に、我々人間が、随意運動を用いた運動を提示したり、自己や他者の運動を想起し、イメージした際に、これらの波形が脳波によって取得できると言われている。BMIを用いた脳卒中後の上肢リハビリテーションにおいては、BMIシステムを通じて外部装置をトリガーし、リアルタイムの感覚フィードバックを表示したり、所定の動作を実行したりすることができ[13,14]、これらをバイオフィードバック的に利用することで、対象者が自ら意図し、動作を制御したといった運動の主体感をもたらすことを可能としている。


Brain Machine Interfaceは果たして臨床で利用することができるのか?最近の知見からみるその特徴と役割について(2)に続く


参照文献

1. GBD Stroke Collaborators (2021). Global, regional, and national burden of stroke and its risk factors, 1990-2019: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2019. Lancet Neurol. 20, 795–820. 

2. Bejot, Y., Bailly, H., Durier, J., and Giroud, M. (2016). Epidemiology of stroke in Europe and trends for the 21st century. Press. Med. 45, e391–e8.

3. Mutai, H., Furukawa, T., Nakanishi, K., and Hanihara, T. (2016). Longitudinal functional changes, depression, and health-related quality of life among stroke survivor s living at home after inpatient rehabilitation. Psychogeriatrics 16, 185–190.

4. Purton, J., Sim, J., and Hunter, S. M. (2021). The experience of upper-limb dysfunction after stroke: a phenomenological study. Disabil. Rehabil. 43, 3377–3386. 

5. Feigin, V. L. (2008). Stroke: practical management. JAMA 300, 2311.

6. Corbetta, D., Sirtori, V., Castellini, G., Moja, L., and Gatti, R. (2015). Constraint-induced movement therapy for upper extremities in people with stroke. Cochrane Database Syst Rev. 2017, CD004433.

7. Dawson, J., Pierce, D., Dixit, A., Kimberley, T. J., Robertson, M., Tarver, B., et al. (2016). Safety, feasibility, and efficacy of vagus nerve stimulation paired with upper-limb rehabilitation after ischemic stroke. Stroke. 47, 143–150.

8. Kang, N., Summers, J. J., and Cauraugh, J. H. (2016). Transcranial direct current stimulation facilitates motor learning post-stroke: a systematic review and meta-analysis. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatr. 87, 345–355.

9. Lu, Y., Xia, Y., Wu, Y., Pan, X., Wang, Z., Li, Y., et al. (2022). Repetitive transcranial magnetic stimulation for upper limb motor function and activities of daily living in patients with stroke: a protocol of a systematic review and Bayesian network meta-analysis. BMJ Open 12, e051630

10. Levin, M. F., Sveistrup, H., and Subramanian, S. (2010). Feedback and virtual environments for motor learning and rehabilitation. Schedae 1, 19–36.

11. Chamola, V., Vineet, A., Nayyar, A., and Hossain, E. (2020). Brain-computer interface-based humanoid control: a review. Sensors. 20, 3620. 

van Dokkum, L. E. H., Ward, T., and Laffont, I. (2015). Brain computer interfaces for neurorehabilitation - its current status as a rehabilitation strategy post-stroke. Ann. Phys. Rehabil. Med. 58, 3–8

13. Lu, J., McFarland, D. J., and Wolpaw, J. R. (2013). Adaptive Laplacian filtering for sensorimotor rhythm-based brain-computer interfaces. J. Neural Eng. 10, 016002.

14. McFarland, D. J., and Wolpaw, J. R. (2011). Brain-computer interfaces for communication and control. Commun. ACM 54, 60–66. doi: 10.1145/1941487.1941506

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