脳卒中後上肢麻痺に対する作業療法の本質

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2020.04.25
リハデミー編集部
2020.04.25

抄録

 近年,作業療法においてはOccupational Based Practiceという概念が台頭している.その中で,「作業療法は対象者の意味のある作業を獲得するための手段」といった考え方が一般的になりつつある.本項では,作業療法におけるConstraint-induced movement therapyの可能性について,解説を行う

作業療法における上肢機能練習

近年,作業療法においてはOccupational Based Practiceという概念が台頭している.その中で,「作業療法は対象者の意味のある作業を獲得するための手段」といった考え方が一般的になりつつある.作業療法における上肢機能練習については,多くの議論がある.一般的に作業療法の業界で『機能練習』といえば,従来型の神経筋促通術に代表されるアプローチを指し,一部の作業療法を愛する療法士から,「機能改善が目的となる機能練習は作業療法なのか?」といった問いかけが常々なされてきた.筆者も例外ではなく,若かりし頃,対象者の目標を達成するために,作業の手段的利用と目的的利用を駆使するConstraint-induced movement therapy(CI療法)を誤解した先人から,批判を受けたこともある.そのぐらい,作業療法には「機能練習に対する過剰なアレルギー反応」とも言えるような雰囲気があったのは間違いない.

しかしながら,世の中にCI療法の本質である,「心理行動学的な学問をベースとした,対象者の目的を達成するために作業を用いた行動変容アプローチ」といった側面が理解され始めるとその批判は一気に縮小していった.今では,作業系理論の講師の先生方が,理論を運用するためのツールとしてCI療法をご紹介いただけるようにまでなっている.これらからも,CI療法は作業療法と非常に親和性の高いアプローチと言える.

CI療法は,従来の作業療法に比べて上肢機能に影響を与えるか?

Winsteinら1は,2016年に構造化された課題指向型アプローチを実施する上肢トレーニングであるAccelerated skill acquisition program(ASAP)といったアプローチの検証のためにランダム化比較試験を実施した.このアプローチは課題指向型アプローチに麻痺手を生活で使うための行動療法(コンセプトはTransfer packageに酷似している)を含む集中アプローチで,CI療法と構造的に非常に類似している.彼女らは,ASAPの効果を検討するため,ASAPを行う群,同容量の作業療法を行う群,容量を定義しない作業療法を行う群を設定し,ランダムに割り付けた.この研究における作業療法の内容は特に定義されておらず,作業療法士が状況に応じたアプローチを提供している.これらの結果, ASAPを実施した群と同容量の作業療法を実施した群,容量を定義していない作業療法を実施した群において,麻痺手の機能・運動障害,Quality of lifeの間に大きな差がなかったと報告した(図1).この研究を元に課題指向型アプローチに対する批判的な論調が強まったが,対照群の作業療法そのもののプログラムを作業療法士に任せてしまっている点が,違和感として残る.そもそも一般的な作業療法における上肢練習とASAPがどこまで異なるアプローチだったのか,この点にこの研究の限界が垣間見える.つまり,近年の作業療法における上肢機能練習はCI療法を始めとした『作業を通した練習』にかなり影響を受けている可能性がある.よって,この比較対象にどれほどの違いがあったのかがこの結果を解釈するための鍵となると思われた.

図1. ASAPと同容量の作業療法,容量を定義しない作業療法を行なった対象者の継時変化
ASAP: Accelerated skill acquisition program
DEUCC: 同容量の作業療法
UCC: 容量を規定していない作業療法

*図にする際は,Mean log WMFT… :Wolf Motor Function Testの遂行時間の平均のログ
 Mean WMFT time score…: Wolf Motor Function Testの遂行時間の平均
 Mean SIS hand function score: Stroke Impact Scaleの手の機能の平均値,
 Mons: 介入からの経過月,と訳して図表を作ってください。なお、上のLog WMFT Time score等の記載は3つの図ともに削除してください

CI療法を従来のリハビリテーションに併用した場合は?

Kimら2は,14名の初発の上肢麻痺を呈した生活期の脳卒中患者を従来のリハビリテーションのみを実施した場合と,従来のリハビリテーション(理学療法および作業療法,内容の明確な定義は不明)に加えて,CI療法を実施した場合を比較検討している(論文内に割付の方法などが記載されていないため,単純な比較試験であると思われる).両群ともに,1日2時間,週5日間,10日間を行なっている.なお,CI療法群については,1日6時間の非麻痺手に対するミットの装着を義務付けている.これらの2群の比較を,麻痺手の機能・運動障害を測るManual Function Test,麻痺手の使用頻度等の使用行動を測るMotor Activity Log(MAL),対象者にとっての意味のある作業の遂行度,満足度を測るCanadian Occupational Performance Measure(COPM)によって解釈している.この結果,従来のリハビリテーションに加えて,CI療法を行った群は,従来のリハビリテーションのみを行なった群に対し,MALおよびCOPMの有意な群間差を認めたと報告している.この結果から,一般的なリハビリテーションだけでなく,CI療法を加えることは『対象者の目標達成』に寄与できる可能性を上げるために良手段であると思われた.

謝辞

 本コラムは,当方が主催する卒後学習を目的としたTKBオンラインサロンの根本直宗氏,金子隆生氏,野口貴弘氏,高瀬駿氏,に校正のご協力をいただきました。心より感謝申し上げます。

 


参照文献

引用文献

1、Winstein CJ, et al: Effect of a Task-oriented rehabilitation program on upper extremity recovery following motor stroke. The ICARE randomized clinical trial. JAMA 315: 571-581, 2016

2、Kim JH, et al: Effects of modified constraint-induced movement therapy on upper extremity function and occupational performance of stroke patients. J Phy Ther Sci 30: 1092-1094, 2018

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