出産時に腕神経叢麻痺を呈した乳児に対するConstraint-induced movement thrapy(CI療法)の効果について
<抄録>
出産時のトラブルの一つに腕神経叢まひが挙げられる.出産時にかかる外圧によって,頭部や頸部,上肢の継続的な外力や圧迫によって,腕神経叢の損傷が容易に引き起こされるとされている.また,出産後早期の転倒やなんらかの圧迫による神経損傷の結果,発症することが多く認められる.これらの障害について,神経可塑性が盛んな乳児であっても,全快する事例はほとんどであり,全体の75-95%程度がそれにあたるとされている.しかしながら,20-30%の乳児においては,恒久的な障害が残る可能性も示唆されており,アプローチ方法の開発と検証作業は必須のものと考えられている.本コラムにおいては,出産時に腕神経叢麻痺を呈した乳児に対するConstraint-induced movement thrapy(CI療法)に関する効果について,解説を行う.
1.出産時に腕神経叢麻痺を呈した乳児に対するConstraint-induced movement thrapy(CI療法)の効果について
出生時のトラブルの一つに腕神経叢麻痺が挙げられ,Brachial plexus birth injuries(BPI)と総称されている.BPIは1000研の出生件数あたり1-2研の割合で生じるとされており1-2,希ではあるが,乳幼児の運動機能に大きな影響を与える事象の一つである.出産時になんらかの外力による牽引や圧迫が頭部,頸部,上肢に継続的にかかることで,腕神経叢の神経損傷を容易に引き起こす.または,産後に生じる転倒,落下,圧迫損傷による重度な外傷の結果として,発症することが多いとされている.ほとんどの場合,神経可塑性が盛んな乳幼児においては,前回すると言われており,ある研究では75-96%のBPIを生じた乳幼児が全快すると考えられている.しかしながら,研究によっては,全快率が66%程度にとどまると報告しているものもあり,20-30%の予後不良例に対するアプローチについては,開発と検討が必要であると考えられている5,6.
さて,BPにおける主たる機能障害とは,肩関節の内旋拘縮と肩甲上腕関節後方の亜脱臼が最も長期的に残存するものとして挙げられる.発達的要素を多大に有する乳幼児においては,腕神経叢の損傷は上肢の長期合併症に加えて,機能損傷に由来する使用頻度の低下(学習性不使用:learned non use)に伴う,受傷側上肢の短小や手の変形などの正常発達を妨げる重大な二次障害を引き起こすことが懸念されている.
従って,BPI児の残存機能を伸ばすとともに,機能障害を改善し,実生活における麻痺側上肢の使用を促す,エビデンスが確立された行動心理学的アプローチの実施が必要と考えられている.これらの特徴を有するアプローチ方法に,Constraint-induced movement therapy(CI療法)がある.CI療法は,成人の脳卒中患者や脳性麻痺患者において高い効果のエビデンスを示すとともに,小児領域においても,脳性麻痺患者の麻痺手に対しても同様に高い効果のエビデンスを有している.また,Zielinskiら7は、レトロスペクティブなデータベース解析の中で、出生に伴うBPI児において、片側脳性麻痺の患者と比較して、両手指のパフォーマンスが同程度に改善することを示している.これらの知見から,BPI児においてもCI療法は一定の効果を示す可能性が考えられている.
そこで,Cuiらは,31名の6ヶ月以上後遺症が残存している慢性期のBPI児童に対して,単一盲検を施したランダム化比較試験によって,BPI児に対するCI療法の効果を検証するために試験を行なっている.その結果,介入直後および介入から3ヶ月の時点においては,一般的なリハビリテーションプログラムを実施した群と,CI療法を実施した群について,有意な上肢機能の改善を認めなかったと報告している.しかしながら,アプローチから6ヶ月が経過した時点における再評価においては,対称群となる一般的なリハビリテーションを実施した群に比べ,CI療法を実施した群の方が有意な上肢機能の改善を認めたと報告している.
実施されたランダム化比較試験自体が小規模なものであり,対象者の特性によるバイアスが生じた可能性は否定できないものの,BPI後の上肢機能障害に対して,介入後6ヶ月以降の長期的な効果をCI療法が有している可能性が示唆されている.
おわりに
本コラムにおいては,BPI児の腕神経叢に由来する上肢機能障害に対するCI療法の効果について,解説を行った.まだまだ検証されている論文が少なく,実施された試験も小規模なものに限られているものの,CI療法は対照群に比べ,長期的な機能改善を示す可能性が示唆されている.この結果から,BPI児の上肢機能障害に対して,CI療法が一つの選択肢となる可能性が示唆された.
参照文献
1.Brucker, J., Laurent, J. P., Lee, R., Shenaq, S., Parke, J., Solis, I., and Cheek, W. (1991). Brachial plexus birth injury. J. Neurosci. Nurs. 23, 374–380.
2.Smith, K., and Patel, V. (2016). Congenital brachial plexus palsy. Paediatr. Child Health 26, 152–156.
3.Prigent, N. Q., and Romana, C. (2013). Multidisciplinary management in children with obstetric brachial plexus injury (OBPI). Pédiatrie 56, e288–e294.
4.Polcaro, L., Charlick, M., and Daly, D. T. (2019). Anatomy, Head and Neck, Brachial Plexus. Stat Pearls. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing.
5.Hoeksma, A. F., Steeg, A. M., Nelissen, R. G., Ouwerkerk, W. J., Lankhorst, G. J., and Jong, B. A. (2004). Neurological recovery in obstetric brachial plexus injuries: an historical cohort study. Dev. Med. Child Neurol. 46, 76–83
6.Sibbel, S. E., Bauer, A. E., and James, M. A. (2014). Late reconstruction of brachial plexus birthpalsy. J. Pediatr. Orthop. 34, S57–S62.