小児例に対するConstraint-induced movement therapy(CI療法)における強度や頻度,そして,介入期間について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患, 小児
リハデミー編集部
2022.09.07
リハデミー編集部
2022.09.07

<抄録>

 Constraint-induced movement therapy(CI療法)は,神経リハビリテーションにおける麻痺手に対する行動心理学的アプローチである.CI療法の有効性は,成人,小児ともに多くのガイドラインでも取り上げられている.特に,成人,小児領域ともに,世界中の多くの国で異なる医療制度に合わせ,様々な強度,頻度,介入期間等が工夫されている.本コラムにおいては,特に小児例において,CI療法の強度,頻度,介入期間等に対して,解説を行っていく.

1.小児領域におけるCI療法

 Constraint-induced movement therapy(CI療法)は,複数の研究者や医療者によって,臨床および研究の双方の領域において発展してきたリハビリテーションアプローチの一つである.成人例においては,1990年の初期にTaubらによって実施された.彼らのグループによって,臨床研究におけるエビデンス,さらに基礎研究における皮質の再構成と軸索の発芽といったメカニズムの探究がなされた.

 成人例におけるCI療法の発展に伴い,1990年代後半から,小児例に対するCI療法も施行された.Hoareら1は,pediatric CI療法(pCI療法)のプログラムに不可欠な要素として,麻痺がない上肢の拘束,練習量,Shaping(状況に応じた難易度調整・段階付け),反復,子供が暮らす自然な環境における練習,等を挙げている.

 特に,成人例とは異なり,小児例においては,発達性無視(Developmental disregard)といった現象が生じる.成人においては,学習性不使用(Learned non use)という言葉が有名である.学習性不使用という現象は,健常時は普通に使えていた上肢が,脳卒中に罹患した後,不自由になり,使用時の失敗体験に起因して,使わないことといった行動を学習する現象である.こういった学習が進むと,対象者は麻痺手を随意的にほとんど使用しなくなる.   

 一方,小児例においては,先天性疾患により,生まれながらに手に麻痺を生じている場合がある一定数存在する.そう言った場合は,成人例のように,使わないという新たな行動を学習するのではなく,最初からなかったものとして行動する(無視して行動する).こう言った違いから,発達性無視と呼ばれるのである.

 さて,小児例に対するpCI療法は,様々な形で提供される.麻痺がない上肢への拘束も,ミット,手袋,スリング,スプリント,ギブスなど,対象児童の状況に応じて,使いやすい道具が利用される.また,療法士と対象児童が一対一でクローズなセッションにて行う形態もあれば,複数の対象者に複数の療法士が関わるオープンなセッションにて行う形態もある.さらに,実施環境についても,自宅や外来,クリニック,さらには専門的なサマーキャンプやウィンターキャンプなどの場を設けているところもある2.

2.pCI療法における強度や頻度,そして,介入期間について

 Geeらは,pCI療法における強度や頻度,そして介入期間など,それぞれのバリエーションについて,調査を行っている.この研究では,Google scholar, OT seeker, American Occupational Therapy Association special interest section, Medline, EbscoHost, Clinhalといったデータベースを用いて,141のpCI療法に関する研究を同定している.その研究らを吟味した結果,エビデンス のレベルについては,Level Ⅰが0本,Ⅱが21本,Ⅲが17本,Ⅳが13本,Ⅴが0本といった結果になっている.

 さらに,それらの論文の内容について,pCI療法の実施施設に関しては,外来クリニックが22本,入院加療が2本,学校を基盤とした実施が2本,自宅を基盤とした実施が11本,サマー・ウィンターキャンプなどのセッティングで実施されたものが8本,大学のラボで実施されたものが1本であった.さらに,介入時間(平均[標準偏差])は,205.53(164.99)分,介入の期間(週)(平均[標準偏差])は,3.61(2.39)一週間の介入頻度(平均[標準偏差])は4.94(1.65),療法内の拘束の実施時間(平均[標準偏差])は130.75(139.54),療法外の拘束の実施時間(平均[標準偏差])は,67.4(130.06)であった.

 また,CI療法の大原則である3つのコンセプトの実施状況については,反復的課題施行型練習の実施率は74%,集中練習によって獲得した上肢機能の改善を実生活に反映させるための行動学的アプローチ(Transfer package)の実施率は43%,非麻痺手の拘束の実施率は100%であったと報告している.しかしながら,3つのコンセプト全てを実施していた研究は,全体の33%に過ぎなかったとも報告しており,多くのpCI療法が,開発者が定義しているCI療法の基準に達していない可能性が明らかとなった.

 これらの結果は,エビデンスが確立されているpCI療法を新たに実施する際に,非常に有用な参考資料になる可能性がある.従来のエビデンスに合わせて,医師や療法士が投与量(強度や頻度,そして,介入期間)について検討する際に特に有用であることが考えられた.


参照文献

1. Hoare B.J., Wallen M.A., Thorley M.N., Jackman M.L., Carey L.M., Imms C. Constraint-induced movement therapy in children with unilateral cerebral palsy. Cochrane Database Syst. Rev. 2019;4:CD004149. 

2. Ramey S.L., Coker-Bolt P., DeLuca S., editors. Handbook of Pediatric Constraint-Induced Movement Therapy (CIMT): A Guide for Occupational Therapy and Health Care Clinicians, Researchers, and Educators. AOTA Press; Bethesda, MD, USA: 2013.

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