著者が語る 生活期の脳卒中後上肢麻痺を呈した対象者におけるロボット療法の効果を実生活に反映させる可能性

竹林崇先生のコラム
神経系疾患, 支援工学
リハデミー編集部
2022.07.04
リハデミー編集部
2022.07.04

<抄録>

 脳卒中後に生じる上肢麻痺に対する治療法として,ロボット療法がある.ロボット療法は,一般的なリハビリテーションと比較するとその効果はほとんど差がないと考えられている.しかしながら,自主練習として用いた際には,亜急性期の試験ではロボット療法を用いた自主練習の方が,従来の自主練習に比べ,良好な結果を残している.しかしながら,ロボット療法による上肢機能の改善は,多くの研究者が調査しているように,実生活における麻痺手の使用行動の改善にはつながらないとも報告されている.そこで,今回我々は,ロボット療法を用いた自主練習に加え一般的な自主練習を実施した群と, ロボット療法を用いた自主練習に加え麻痺手の使用行動を促進するConstraint-induced movement therapy(CI療法)を実施した群の間で,比較検討を行ったので,その結果について報告を行う.

1.ロボット療法の現在のエビデンス

 本コラムにおいては,筆者らが出版したアメリカ心臓学会/脳卒中学会から発刊した” Robot-Assisted Training as Self-Training for Upper-Limb Hemiplegia in Chronic Stroke: A Randomized Controlled Trial”について,解説を行っていく.さて,脳卒中後の上肢麻痺は,脳卒中患者のQuality of life(QOL)を低下させる一要素と言われており,それらに対する介入は,長年課題とされている.そういった背景の中で,世界中の多くのガイドラインにおいて,ロボット療法が良好なアプローチとして推奨されている.

 上記のようにロボット療法は,世界各国のガイドラインにおいて,推奨されているものの,推奨の対象となっているアウトカムは,国際生活機能分類(ICF: International Classification of functioning, disability and health)における身体機能・構造のセクションのものである.しかしながら,ヒトのQuality of lifeや幸福感により影響を与えるアウトカムとしては,ICFにおける活動・参加のセクションのアウトカムと言われている1.

 そう言った背景の元,ロボット療法によって獲得した脳卒中後に生じる上肢麻痺の改善は,実生活における使用行動に,果たして転移するのだろうか.複数の研究者がそれらの疑問に対し,調査を行なっている.まず,Takahashiら2は,亜急性期の脳卒中後上肢麻痺を有する対象者に対し,一般的なリハビリテーションに加え,自主練習としてのロボット療法を行った群と,一般的なリハビリテーションに加え,従来の自主練習を実施した群の間で比較検討を実施している.その結果,上肢麻痺の改善量においては,従来の自主練習を実施した群に比べ,ロボット療法を自主練習として用いた群が有意に改善したが,実生活における麻痺手の使用行動の改善量は,両群の間で有意な差は認めなかったと報告している.これは,ロボット療法を用いた自主練習によって獲得した上肢機能の改善が,実生活における使用行動に転移しなかった可能性を示唆している.

 これらの問題に対し,Conroyら3は,ロボット療法に加えて課題指向型アプローチを実施した群と,ロボット療法のみを実施した群で比較検討を実施した結果,ロボット療法のみ実施した群に比べて,ロボット療法に加えて課題指向型アプローチを実施した群の方が,上肢機能および,Stroke impact scaleにおける麻痺手の使用の項目において有意な改善を認めたと報告している.これらの結果から,ロボット療法によって獲得した機能を,実生活における麻痺手の使用行動に転移するためには,課題指向型アプローチとの併用が必要と考え,これらの可能性を検証する運びとなった.

2.生活期においてロボット療法にConstraint-induced movement therapyを併用した結果について

 今回,我々は,129名の生活期脳卒中患者を1)ロボット療法による自主練習+従来のリハビリテーションを実施する群,2)ロボット療法による自主練習+Constraint-induced movement therapy(CI療法)を実施する群,3)従来の自主練習+従来のリハビリテーションを実施する群,の3群にランダムに割り付けを行い,それぞれの効果について,比較検討を行った4.本コラムにおいては,mixer effects models for repeated measures を用いた比較後,多重比較として,Tukey法によって,1)と2)群を比較した内容について,紹介する.

 この比較の結果,すべての対象者を比較対象としたFull Assessment Setにおいては,両軍にFugl-Meyer Assessmentの肩・肘・前腕の評価について,有意な差は認めなかった.次に,予定されていた前期間(週3回×10週間)の8割以上を完遂した対象者(pre-protocol set)において比較検討を行ったところ,Fugl-Meyer Assessmentの肩・肘・前腕において,1)群が2)群に比べて,有意な差を認めなかった.

 次に,実生活における麻痺手の使用頻度を測定するMotor Activity Log(MAL)のAmount of use(AOU)について,2)群が1)群に比べ,有意な改善を認めたと報告した.また,2)群においてのみ,生活期における意味のある最小変化量を超える改善を示した5.この結果から,ロボット療法を用いた自主練習によって獲得した上肢の機能改善を実生活における麻痺手の使用行動に転移するためには,CI療法と言った課題指向型アプローチが非常に大きな役割を果たす可能性が示唆された.


参照文献

1. Kelly KM, Borstad AL, Kline D, Gauthier LV. Improved quality of life following constraint-induced movement therapy is associated with gains in arm use, but not motor improvement. Top Stroke Rehabil. 2018;25: 467–474.

2. Takahashi K, et al. Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute poststroke hemiplegia: an exploratory randomized trial. Stroke. 2016; 47:1385–1388.

3. Conroy SS, Wittenberg GF, Krebs HI, Zhan M, Bever CT, Whitall J. Robot-assisted arm training in chronic stroke: addition of transition-to-task practice. Neurorehabil Neural Repair. 2019;33:751–761.

4. Takebayashi T, et al. Robot-assisted training as selt-trianing for upper-limb hemiplegia in chronic stroke: a randomized controlled trial. Stroke. 2022; 53, online first. 

5. Van der Lee JH, Wagenaar RC, Lankhorst GJ, Vogelaar TW, Devillé WL, Bouter LM. Forced use of the upper extremity in chronic stroke patients: results from a single-blind randomized clinical trial. Stroke. 1999;30:2369–2375.

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