脳卒中後の上肢運動障害に対する振動刺激の利用方法に関する一考察
<考察>
近年、リハビリテーションにおいて、各種物理療法が利用される機会が増えている。一般的に使用される物理療法としては、末梢神経筋電気刺激や経頭蓋直流電気刺激や磁気刺激といった機器が学会上でも仕切りに研究結果の報告がなされている。しかしながら、それらの機器は高価であり、実際に臨床において使用するためには、多くのコストが必要であることは否めない。つまり、機器がなければ、いくら良好な結果を示すことができる療法であっても、実施することは困難である。そんな中、比較的安価な価格帯で実施することができる物理療法に振動刺激療法がある。本コラムにおいては、最近の振動刺激療法に関する知見について、いくつかの研究結果から報告を行う。
1. 振動刺激療法の研究について
脳卒中後の上肢運動障害に対するアプローチは多種多様なものが存在する。その中でも物理療法を利用する手段が近年増えている。多くの機器を用いたリハビリテーションプログラムの効果が検討されているものの、それらの機器は高価なものが多く、一般臨床において、コストといった点が問題となり、実施することが困難な現状もある。そういった背景の中で、比較的安価に臨床にて使用できる機器の一つに振動刺激がある。振動刺激療法は、1990年代以降から、いくつかの研究において、その効果が検証されており、脳卒中後に生じる上肢運動障害に対して良好な機能改善を示すことが報告されている(主に痙縮に対して)1, 2。また、最近の研究では、全身振動刺激(Whole-body vibration: WBV) を用いた研究では、20Hz以下の刺激では痙縮をはじめとした筋緊張の低下が起こり3、50Hz以上では筋肉痛や血腫を誘発するといった検討がなされている4。また、WBV単独でした場合に、筋力の増強において、筋力トレーニングと同様の神経促通効果をもたらすことも示されている5。これらの振動刺激を、脳卒中後に生じる上肢運動障害に対してエビデンスが確立されているアプローチの一つである課題指向型アプローチと併用することにより、課題指向型アプローチ単体よりもより良い効果が示せないかといった仮説を検証するため、さまざまな検討がなされている。
例えば、Ahnら6の研究では、WBV実施する群と対照群の各群に30名ずつランダムに脳卒中後に上肢麻痺を有する慢性期の対象者を割り付けた。両群ともに作業療法において、課題指向型練習が1日30分、5日間、4週間実施されている。その結果、対照群に比べ、WBVを併用した群の方が上肢運動障害の改善の程度が著しかったと報告している。しかしながら、この研究では、各群における郡内比較の提示のみが実施され、それらの結果を比較されているのみで、直接的な群間比較が実施されていない.したがって、これらの結果を鵜呑みにはできない状況である。
そこで近年、Wangらが新たに振動刺激に関するランダム化比較試験を報告している。この研究では、亜急性期の対象者29名を、振動刺激(上腕二頭筋から腕橈骨筋にかけて周波数60Hzの深層筋振動刺激を10分間実施した上で、従来のリハビリテーションを実施した介入群と、従来のリハビリテーションのみを行う対照群にランダムに割り付けて、Fugl-Meyer Assessmentを用いた上肢運動障害の改善度と運動誘発電位、体性感覚誘発電位を調査した結果、振動群において、全てのアウトカムが対照群に比べて、有意な改善を示したと報告している。これらの結果から、振動刺激は運動感覚野の活動性を高め、より活発な大脳皮質の可塑性変化を誘発できる可能性が示唆された。
まとめ
今回は、臨床において、最近よく使われる振動刺激について解説を行った。これらの結果から、臨床において、簡便に使用できる振動刺激療法は、脳卒中後に生じる上肢運動障害に対し、従来の作業療法および課題指向型アプローチと併用することで、より良い治療成績を提供できる可能性が示唆された。
参照文献
1. Caliandro P., Celletti C., Padua L., et al. Focal muscle vibration in the treatment of upper limb spasticity : a pilot randomized controlled trial in patients with chronic stroke. Archives of Physical Medicine and Rehabilitation. 2012;93(9):1656–1661.
2. Cardinale M., Wakeling J. Whole body vibration exercise: are vibrations good for you? British Journal of Sports Medicine. 2005;39(9):585–589.
3. Cardinale M., Rittweger J. Vibration exercise makes your muscles and bones stronger: fact or fiction? The Journal of the British Menopause Society. 2016;12(1):12–18.
4. Rittweger J., Mutschelknauss M., Felsenberg D. Acute changes in neuromuscular excitability after exhaustive whole body vibration exercise as compared to exhaustion by squatting exercise. Clinical Physiology and Functional Imaging. 2003;23(2):81–86.
5. Cardinale M., Lim J. Electromyography activity of vastus lateralis muscle during whole-body vibrations of different frequencies. Journal of Strength and Conditioning Research. 2003;17(3):621–624
6. Ahn JY., Kim H., Park CB. Effects of whple-body vibration on upper extremity function and grip strength in patients with subacute stroke: a randomized single-blind controlled trial. Occup Ther Int. 2019: 5820952
7. Wang L., Wang S., Zhang S., Dou Z., Guo T. Effectiveness and electrophysiological mechanisms of focal vibration on upper limb motor dysfunction in patients with subacute stroke: a randomized controlled trial. Brain Res 2023; 27: 148353