脳卒中後に軽度の上肢運動障害を呈した対象者における日常生活活動における麻痺側上肢の不使用の要因について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.06.30
リハデミー編集部
2023.06.30

<抄録>

 脳卒中後に上肢に運動障害を抱える対象者は多く認められる.運動障害の程度は様々であり、軽度から重度の運動障害を有する対象者がいる.軽度の運動障害がある対象者の多くは、随意的な運動は可能であるものの、実生活においては麻痺手を意図的に使うことが少なく、不使用の状況になっている.脳卒中後軽度の上肢運動障害を抱えた対象者が日常生活において、不使用の状況に陥る要因については、明らかになっていない部分が多い。本コラムにおいては、脳卒中後に軽度上肢運動障害を呈した対象者の中で、どういった特徴を有する者が、日常生活において不使用の状況に陥るのかについて、考察していきたいと思う。

1. 脳卒中後、様々な重症度の上肢運動障害を有した対象者が日常生活において不使用の状況に陥る要因について

 脳卒中は、中枢神経の障害により、様々な機能障害を示す疾患である。その中でも上肢の運動障害は対象者のQuality of lifeに影響を与える障害の一つである。運動障害の重症度は軽度なものから重度なものまで様々である。ただし、先行研究によると、多くの上肢に運動障害を有する対象者は、発症から4年が経過した時期において、実生活における不使用を示していると報告されている1。

 複数の研究者は、脳卒中発症後運動障害を呈した上肢が実生活において不使用になる要因を検討してきた。脳卒中後、急性期、亜急性期、生活期の様々な時期において、脳卒中後に生じる上肢の不使用について、いくつかの要因が示されている.それらの研究の中でも最もコンセンサスを得ている要因としては、当然ながら、上肢の運動機能が挙げられている。例えば、複数の研究者2,3は、上司の運動障害の程度と対象者の日常生活における麻痺手の使用頻度の間に有意な関連性を認めたと報告している.また,その他の要因としては,急性期においては,年齢,脳卒中の重症度,感覚障害の有無,手の握力が脳卒中発症後90日後の麻痺手の不使用と関連していたと報告している4, 5.慢性期では,対象者の他者への日常生活の介護依存度,対象者自身が認識している麻痺手の能力,が関連していたと報告されている6, 7.また、時期を特定しない研究では麻痺手に対する対象者自身の自己効力感が麻痺手の不使用を予測するといった知見もある2.

 また、不確定な要因としては、うつ病等の精神疾患8、モチベーションの欠如や環境的要因9等を挙げている研究もあるものの、明確な検証がなされた結果というよりは、臨床の肌感覚といった印象を拭えないものである.

2. 脳卒中後、軽度の上肢運動障害を有した対象者が日常生活において不使用の状況に陥る要因について

 先行研究10, 11においては、脳卒中後の上肢運動障害が軽度にも関わらず、実生活における麻痺手の使用頻度が確実に少なく、不使用の状況に陥っている対象者の存在を示した研究がある.これらの事実は、先に示した運動障害の程度によって麻痺手の不使用の状況が予測できるといった事実に反証する内容である.それらの背景のもと, Chenら12は,機械学習的手法を用い,軽度の運動障害を有する対象者の不使用の要因を調査している.彼らは,麻痺手の程度を示すFugl-Meyer Assessment(FMA)が31点以上の軽度で,実生活における麻痺手の使用を示すMotor Actigity LogのAmount of use(MAL-AOU)が2.5点未満の不使用群と,それ以外の参加者の2群に集団を後ろ向きに分割した.その上で,20の潜在因子に基づく機能選択分析を実施し,5つの重要な予測因子(麻痺の重症度,主観的な麻痺手の使いやすさ、麻痺手の能力、主観的な麻痺手の使用頻度、セルフエフィカシー)を特定した.さらに,その5つの因子を利用した予測モデルを構築したところ、その精度は0.75-0.94で対象者を選別し、ROC曲線の面積も0.77-0.94と比較的良好な予測モデルが構築できたとしている.この研究かは、主観的な麻痺手の使いやすさ、使用頻度、そして、セルフエフィカシーといった、対象者本人が麻痺手に対して、どのような認識でいるのか、といった点が不使用に大きな影響を与えることが示唆しており、麻痺の重症度に加えて、心理的な介入が、不使用に対し必要な介入である可能性があると思われた。


参照文献

1. Nichols-Larsen D.S., Clark P.C., Zeringue A., Greenspan A., Blanton S. Factors influencing stroke survivors’ quality of life during subacute recovery. Stroke. 2005;36:1480–1484. 

2. Buxbaum L.J., Varghese R., Stoll H., Winstein C.J. Predictors of arm nonuse in chronic stroke: A preliminary investigation. Neurorehabil. Neural Repair. 2020;34:512–522 

3. Bakhti K.K.A., Mottet D., Schweighofer N., Froger J., Laffont I. Proximal arm non-use when reaching after a stroke. Neurosci. Lett. 2017;657:91–96 

4. Molle Da Costa R.D., Luvizutto G.J., Martins L.G., Thomaz De Souza J., Regina Da Silva T., Alvarez Sartor L.C., Winckler F.C., Modolo G.P., Molle E.R.D.S.D., Dos Anjos S.M., et al. Clinical factors associated with the development of nonuse learned after stroke: A prospective study. Top. Stroke Rehabil. 2019;26:511–517 

5. Plantin J., Verneau M., Godbolt A.K., Pennati G.V., Laurencikas E., Johansson B., Krumlinde-Sundholm L., Baron J.C., Borg J., Lindberg P.G. Recovery and prediction of bimanual hand use after stroke. Neurology. 2021;97:e706–e719 

6. Bailey R.R., Birkenmeier R.L., Lang C.E. Real-world affected upper limb activity in chronic stroke: An examination of potential modifying factors. Top. Stroke Rehabil. 2015;22:26–33. 

7. Essers B., Coremans M., Veerbeek J., Luft A., Verheyden G. Daily life upper limb activity for patients with match and mismatch between observed function and perceived activity in the chronic phase post stroke. Sensors. 2021;21:5917 

8. Wolf S.L. Revisiting constraint-induced movement therapy: Are we too smitten with the mitten? Is all nonuse “learned”? and other quandaries. Phys. Ther. 2007;87:1212–1223 

9. Waddell K.J., Strube M.J., Bailey R.R., Klaesner J.W., Birkenmeier R.L., Dromerick A.W., Lang C.E. Does task-specific training improve upper limb performance in daily life poststroke? Neurorehabil. Neural Repair. 2017;31:290–300

10. Rand D., Eng J.J. Predicting daily use of the affected upper extremity 1 year after stroke. J. Stroke Cerebrovasc. Dis. 2015;24:274–283. 

11. Bhatnagar K., Bever C.T., Tian J., Zhan M., Conroy S.S. Comparing home upper extremity activity with clinical evaluations of arm function in chronic stroke. Arch. Rehabil. Res. Clin. Transl. 2020;2:100048

12. Chen Y. W. Predicting arm nonuse in individuals with good arm motor function after stroke rehabilitation: a machine learning study. Int J Environ Res Public Health. 2023; 29: 4123

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