脳卒中後のリハビリテーションにおける振動刺激の立ち位置について(2) 〜振動刺激が身体機能に与える影響の脊髄レベルにおけるメカニズム〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.07.10
リハデミー編集部
2023.07.10

<抄録>

 脳卒中後の運動麻痺は多くの対象者に生じ、彼らのQuality of lifeを低下させると言われている。昨今、様々なアプローチが開発されている。そのうちの一つに、振動刺激を用いたアプローチ方法が昨今挙げられている。振動刺激を用いた介入としては、痙縮の低下に対して、米国心臓/脳卒中学会が取り上げるほど、一般的なアプローチの一つとされている。しかしながら、どういった成り立ちで振動刺激が一般臨床において利用され、どのような利用に効果があるのかについては、不明な点が多い。本コラムにおいては、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、振動刺激がどのように発展しどのように使われてきたかについて、複数回にわたって解説を行う。第二回は、振動刺激が身体的機能の改善する背景に潜む脊髄レベルのメカニズムについて解説を行う。

1.振動刺激が身体機能に影響を及ぼすメカニズムについて〜脊髄レベルにおける生理学的メカニズム〜

 近年、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、振動刺激は広く利用されている。そのメカニズムは多角的な背景を持っており、それらを理解する必要がある。まず、脊髄レベルにおける振動刺激の影響力について、そのメカニズムを紹介する。振動刺激が身体に与える影響として、脊髄レベルの生理学的な視点では、100-200Hzの機械的振動刺激を加えることで、振動した筋肉が緊張性収縮を起こす。これは、筋電図等で、記録することができ、緊張性振動反射と言われている。緊張性振動反射は、自律神経反応の結果として生じるとされている[1-2]。弛緩した筋肉やその腱に振動刺激を与えると、振動した筋肉に不随意な収縮が起こり、その結果拮抗筋にも弛緩が生じる[3]。さらに、それら不随意な筋肉の収縮に伴い、末梢受容器が反応することで位置感覚をはじめとした深部感覚の求心性刺激が惹起され、あたかも関節運動が誘発されたような錯覚を生じ、脊髄反射に強く影響を与えると複数の研究者が報告している[4-8]。これらの多くは、脊髄におけるT反射とH反射で表現される筋紡錘由来のⅠa求心性神経が振動刺激によって活性化(シナプス前抑制)すること(H反射が振動を短時間与えることによって増強する)が、この現象の原因であることがわかっている[7-10]。この現象は、健常人におけるヒラメ筋を対象とした基礎研究においても調査されており、Ia求心性神経からの伝達物質を放出することに関与する調整機能の変化がこれらの現象のメカニズムであると考えられている[11, 12]。これらのメカニズムを鑑みて、Nielsenら[11]は、振動刺激を痙縮筋に当てると痙縮が増強するが、拮抗筋に当てることで痙縮のコントロールが可能になるのではないかと可能性を示唆した。ただし、その後の実証研究においては、脳卒中患者に対するアキレス腱に対する振動刺激は、健常人に比べるとその際のH波反射の上昇率は低下することが示された[13]。これは、脳卒中患者は、健常人に比べると脊髄におけるH反射が低下していることを示唆している。ただし、脳卒中患者の脊髄反射が低下していることが直接痙縮の強さ自体に関与しているかどうかは示されておらず、むしろその間の相関関係は示されていない[11, 14]。

 さらに、近年においては、長時間振動刺激を与えることで、振動性緊張反射を呈したのちに、刺激を与えた筋肉そのものの筋緊張が低下し、その際の筋電図上にてH反射も低下するといった知見も得られている[15]。この手法はDAVISと言われ、振動性緊張反射が出現した後も振動刺激を提供し続け、3-5分間、痙縮筋を刺激することで、上記の反応が得られるといったものである。これらの手法は米国脳卒中学会のガイドラインにも収載されており [16]、上記の拮抗筋に対するアプローチに加えて、痙縮コントールの一つの手法として、有用であると思われる。

 ただし、上記のように、局所的な振動刺激が示す影響をシナプス前抑制的側面から説明しているにもかかわらず、振動刺激が脊髄の分節レベルを超えて、影響を及ぼす可能性についても原曲されている。Linらは、下肢全体に振動刺激を入力することで、刺激部位から物理的に遠く離れた部位の痙縮の低下を認めたと報告している。これらは、振動刺激が刺激を実施した局所的な影響だけでなく、脊髄で数分節離れたセントラルパターンジェネレーター(CPG)にも興奮性に関する変換をもたらすことを主張している。これらは彼らの研究の中で、足底に振動刺激を加えた下肢全体の脊髄反射を誘発した際の筋電の変動が著しく減少したことから、こういった結論に至っている。しかしながら、これらのメカニズムは正確には解明されておらず、今後更なる検討が必要だと考えられている。

まとめ

 今回は振動刺激が身体に与える変化に関するメカニズムについて、脊髄レベルから解説を行った。次回は、脳実質レベルのメカニズムについて、解説を行っていく。


参照文献

1. Gillies JD, Burke DJ, Lance JW. Supraspinal control of tonic vibration re"ex. J Neurophysiol 1971;34:302-9. 

2. Burke D, Hagbarth K-E, Lofstedt L, Wallin B. The responses of human muscle spindle endings to vibration of non-contracting muscles. J Physiol 1976b;261:673-93.

3. Eklund G. General features of vibration-induced effects on balance. Ups J Med Sci 1972;77:112-24.

4. Goodwin GM, McCloskey DI, Matthews PB. Proprioceptive illusions induced by muscle vibration: contribution by muscle spindles to perception? Science 1972;175:1382-4. 

5. Kaji R, Rothwell JC, Katayama M, Ikeda T, Kubori T, Kohara N et al. Tonic vibration re"ex and muscle afferent block in writer’s cramp. Ann Neurol 1995;38:155-62

6. Guzmán-López J1, Costa J, Selvi A, Barraza G, Casanova-Molla J, Valls-Solé J. The effects of transcranial magnetic stimulation on vibratory-induced presynaptic inhibition of the soleus H re"ex. Exp Brain Res 2012;220:223-30. 

7. Ashby P, Stålberg E, Winkler T, Hunter JP. Further observations on the depression of group Ia facilitation of motoneurons by vibration in man. Exp Brain Res 1987;69:1-6. 

8. Morin C, Pierrot-Deseilligny E, Hultborn H. Evidence for presynaptic inhibition of muscle spindle Ia afferents in man. Neurosci Leet 1984; 44: 137-142

9. Burke D, Hagbarth KE, Lofstedt L, Wallin B. The responses of human muscle spindle endings to vibration during isometric contraction. J Physiol 1976a;261:695-711. 

10. Roll JP, Vedel JP. Alteration of proprioceptive messages induced by tendon vibration in man: a microneurographic study. Exp BrainRes 1989;76:213-22.

11. Nielsen J, Petersen N, Crone C. Changes in transmission across synapses of Ia afferents in spastic patients. Brain 1995;118:995- 1004.

12. Thompson FJ, Reier PJ, Lucas CC, Partner R. Altered patterns of re"ex excitability subsequent to contusion injury of the rat spinal cord. J Neurophysiol 1992;68:1473-86.

13. Faist M, Mazevet D, Dietz V, Pierrot- Deseilligny E. A quantitative assessment of presynaptic inhibition of Ia afferents in spastics: differences in hemiplegics and paraplegics. Brain 1994;117:1449- 55.

14. Delwaide PJ. Electrophysiological analysis of the mode of action of muscle relaxants in spasticity. Ann Neurol 1985;17:90-5.

15. Miyara K, Matsumoto S, Uema T, Hirokawa T, Noma T, Shimodozono M, Kawahira K. Feasibility of using whole body vibration as a means for controlling spasticity in post-stroke patients: a pilot study. Complement Ther Clin Pract. 2014;20:70-3.

16. Winstein, Carolee J., et al. AHA/ASA guideline guidelines for adult stroke rehabilitation and recovery.Stroke .2016:47: e98-169.

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