脳卒中後のリハビリテーションにおける振動刺激の立ち位置について(3) 〜振動刺激が身体機能に与える影響の大脳実質レベルにおけるメカニズム〜

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.07.14
リハデミー編集部
2023.07.14

<抄録>

 脳卒中後の運動麻痺は多くの対象者に生じ、彼らのQuality of lifeを低下させると言われている。昨今、様々なアプローチが開発されている。そのうちの一つに、振動刺激を用いたアプローチ方法が昨今挙げられている。振動刺激を用いた介入としては、痙縮の低下に対して、米国心臓/脳卒中学会が取り上げるほど、一般的なアプローチの一つとされている。しかしながら、どういった成り立ちで振動刺激が一般臨床において利用され、どのような利用に効果があるのかについては、不明な点が多い。本コラムにおいては、脳卒中後のリハビリテーションにおいて、振動刺激がどのように発展しどのように使われてきたかについて、複数回にわたって解説を行う。第三から四回に渡り、振動刺激が身体的機能の改善する背景に潜む大脳実質レベルにおけるメカニズムについて解説を行う。

1.振動刺激が身体機能に影響を及ぼすメカニズムについて〜大脳実質レベルにおける生理学的メカニズム〜

 第二回『脳卒中後のリハビリテーションにおける振動刺激の立ち位置について(2) 〜振動刺激が身体機能に与える影響の脊髄レベルにおけるメカニズム〜』では脊髄レベルにおける振動刺激が与える影響に関するメカニズムについて述べた。第三回では、脳実質レベルにおけるメカニズムについて、論述を行う。

 一般的に、健常人において、脊髄反射の活動は、運動皮質から脳幹経路の制御とIa抑制性介在ニューロンへの皮質脊髄路の直接入力を行うことで調整がなされている[1]。いくつかのサルを対象とした基礎研究においては、サルの一次運動野の細胞が筋肉や関節の受容器から、短い潜時でフィードバックを受けることが実証されている[2]。これらの研究から、すべての固有受容器に与えられる情報は、運動制御とその結果示されるパフォーマンスにおいて、非常に重要なものだと考えられている[3]。

 さて、振動刺激が大脳皮質にどのような影響を与えるか、過去の研究から検討していこうと思う。まず、健常人を対象としたtranscranial Magnetic Stimulation(TMS)を用いた研究によると、筋肉に振動を与えると単一パルスのTMSによる刺激に応答する運動誘発電位(Motor Evoke Potential: MEP)が促通され、運動閾値の低下、大脳皮質における皮質内抑制の低下、振動した筋肉に特化した皮質内促通を示す神経細胞の興奮性向上を見たおめたと複数の研究者が報告している[4-6]。これらの反応は、刺激した筋肉、もしくはその拮抗筋に特異的に認められる減少であり、振動を提供した四肢全体に波及するメカニズムかどうかは不明であるとも示されている[4, 5]。さらに、振動刺激を提供することで、筋に由来する求心性神経が拮抗筋を支配する皮質領域の興奮性を抑制するといった知見もある。これは、皮質内の相互抑制を媒介とする反応が、従来の脊髄のシナプス前抑制に加えて、脊髄経路を補助する反応が出現する可能性も示唆されている[7]。これに関して、Rosenkanzら[6]は、振動刺激を与えた筋肉に由来する大脳の運動皮質内において、短潜時皮質内抑制と同様にγ-アミノ酪酸(GABA)活性が局所的に誘発される可能性を示唆している。

 また、Gizewskiら[8]は、振動刺激が大脳における運動皮質にどのような影響を与えるかについても検討がなされている。この研究においては、50Hzと150Hzの振動刺激を筋に実施した際、それらの領域の賦活は、functional MRI(fMRI)で調べたところ、両条件ともに有意な賦活が認められ、条件間に有意な差は認められなかったと報告している。さらに、Casiniら[9]は、脳磁図(Magneto-Encephalo-Graphy: MEG)によって、筋への振動刺激を実施している最中の運動領域の興奮性について調べたところ、fMRIを用いた研究と同様に、該当の筋を支配する領域上に認められたと報告している。これらの結果からも、振動刺激によって、局所的な運動関連領野の興奮性の上昇が起こり、その影響に付随して、周辺の細胞に対する皮質内抑制が出現し、刺激筋自体の促通および、拮抗筋に対する抑制が生じていることが解っている。

まとめ

 本コラムにおいては、振動刺激が身体機能に与える影響の大脳実質レベルにおけるメカニズムについて、解説を行った。この領域は、多くの基礎研究がなされており、多角的な理解が必要である。よって、第四回も同様のテーマを論述していこうと思う。


参照文献

1. Lundberg A. Multisensorial control of spinal re"ex pathways. Prog Brain Res 1979;50:11-28.

2. Fourment A, Chennevelle JM, Belhaj-Saïf A, Maton B. Responses of motor cortical cells to short trains of vibration. Exp Brain Res 1996;111:208-14. 

3. Evarts EV, Fromm C.Transcortical re"exes and servo control of movement. Can J Physiol Pharmacol 1981;59:757-75.

4. Steyvers M, Levin O, Van Baelen M, Swinnen SP. Corticospinal excitability changes following prolonged muscle tendon vibration. Neuroreport 2003;14:1901-5. 

5. Steyvers M, Levin O, Verschueren SMP, Swinnen SP. Frequencydependent effects of muscle tendon vibration on corticospinal excitability: a TMS study. Exp Brain Res 2003;151:9-14. 

6. Rosenkranz K, Pesenti A, Paulus W, Tergau F. Focal reduction of intracortical inhibition in the motor cortex by selective proprioceptive stimulation. Exp Brain Res 2003;149:9-16.

7. Bertolasi L, Priori A, Tinazzi M, Bertasi V, Rothwell JC. Inhibitory action of forearm "exor muscle afferents on corticospinal outputs to antagonist muscles in humans. J Physiol 1998;511:947- 56.

8. Gizewski ER, Koeze O, Uffmann K, de Greiff A, Ladd ME, Forsting M. Cerebral activation using a MR-compatible piezoelectric actuator with adjustable vibration frequencies and in vivo wave propagation control. Neuroimage 2005;24:723-30

9. Casini L, Romaiguère P, Ducorps A, Schwartz D, Anton JL, Roll JP. Cortical correlates of illusory hand movement perception in humans: a MEG study. Brain Res 2006;1121:200-6

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