質問に対して回答します!!シリーズ①

竹林崇先生のコラム
その他
リハデミー編集部
2023.08.25
リハデミー編集部
2023.08.25

脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者の麻痺手の使用行動を測定するためのMotor Activity Logに関する臨床上意味のある最小変化量の選び方について

質問

 Motor Activity Logの臨床上意味のある最小変化量を用いて、事例報告を書きたいが、どの指標を使って良いのか迷っている。具体的に、Van der leeが1999年に発表した数値か、2004年に発表した数値の間で迷っている。どちらの数値を使うのが良いかを教えて欲しい。


回答

 脳卒中後に使用されるアウトカムは多種多様である。その中でも、基本的には多くの検討がなされてるゴールドスタンダードの評価を使うことが推奨されている。例えば、脳卒中後の上肢に関する運動麻痺の評価であれば、Fugl-Meyer Assessmentの上肢項目、パフォーマンスの評価であれば、Action Research Arm Testがそれにあたる。では、麻痺手の実生活における使用行動に関わる評価としては、何が挙げられるだろうか。基本的には,University of Alabamaでvan der leeらが開発したMotor Activity Logの14項目がこれに相当すると思われる。

 ゴールドスタンダードの評価は多くの検討がなされていることから、その結果も多様性があり、それらが全て一律であるとは限らない。上記に示したMotor Activity logの14項目においてもそれらは同様である。例えば、評価に対する妥当性・信頼性等の分析の中から生まれる臨床上意味のある最小変化量(Minimal Clinical Important Difference: MCID)についても同様で、一つの評価に対して、多数の数値が存在する。それらが異なる理由としては、MCIDを求めるための方法が異なる、MICDを求めるために使用した対象の母集団が異なる(分析を実施した病期等の違いもここに含まれる)等がある。

 さて、それでは、これらの前提の上で、ここで質問に上がった内容だが、van der leeらがあげた2つのMCIDのどちらを使用するのが妥当かということについて、考察していこうと思う。まずは、van der leeらが1999年に発表した論文1におけるMCIDの求め方について、解説する。彼らの論文の中には、こういった一文が存在する” In the literature, no estimates were found of minimal clinically important differences (MCID) for any of the outcome measures used in this study. On the basis of clinical experience and estimates reported for similar outcome measures in different domains, the MCID was set at 10% of the total range of the scale.”これは「先行研究では、本研究で使用した評価指標について、臨床的に意味のある最小変化量(MCID)の推定値は見出すことができなかった。従って、臨床経験や異なる領域の類似評価指標について、報告された推定値に従い、MCIDは尺度全範囲の10%に設定された」ということが書かれている。

 つまり、van der leeらが1999年の論文内で設定していたMCIDは数理的な分散やQuality of lifeや幸福感といった人生における大切な評価をアンカーとして用いた方法で導き出された数値ではなく「手の外科領域の類似評価の慣習に基づき10%と設定した」という非常に曖昧な指標であることがわかる。

 一方、2004年にMotor Activity Logの14項目を主のテーマとして、世界で初めて紹介された論文2について、解説を行う(この時点で、上記の論文とは異なり、Motor Activity Logをテーマとしているので、既に信憑性の高さが窺える)。

さて、こちらの論文では以下のような文章を確認することができる” The test–retest agreement shows that the MAL was relativelystable in this population of chronic stroke patients, butit also shows that changes must be  12% to 15% of the rangeof the scale to exceed the measurement error. This means thatthe reproducibility of this instrument is insufficient to detecta change of 10% of the range of the scale, which wasproposed as the MCID. This renders the MAL less suitablefor use in clinical practice but poses no large problem for usein clinical research.”この文章は[「この結果から、MALは慢性脳卒中患者の集団において比較的安定していることがわかったが、測定誤差を超えるためには、尺度の範囲の12%から15%の変化が必要であることもわかった。つまり、この測定器の再現性は、MCIDとして提案された尺度の範囲の10%の変化を検出するには不十分であるということである。このため、MALは臨床現場での使用には適さないが、臨床研究での使用には大きな問題はない。」ということが記載されている。

こちらの論文で示されている数値は信頼性を確認する手続きの中で、測定誤差の観点から数理的に、何点以上の変化があれば、その変化は誤差の範囲ではなく、有意な差であるかを示す最小可検変化量(Minimal Detected Change)というものを示している。つまり、上記に示したように、MCIDのように質的に臨床に質を与える、というよりは、統計的な数理モデル上、『誤差ではない』ことを示す数値ということがわかる。

 では、この観点からどちらの値を使うか、について示す。個人的な好みとしては、質的に全く異なる評価から推定値を移行して、導き出した前者の数値よりは、Motor Activity Logの14項目の信頼性の確認を行う中で求められた後者の数値の方が信頼性は高いと考え、使用することが多いと思われる。


参照文献

1. van der lee. et al. Forced use of the upper extremity in chronic storke patients. Stroke 30: 2359-2375, 1999

2. van der lee, et al. Clinimetric properties of the motor activity log for the assessment of arm use in hemiparetic patients. Stroke 34: 1410-1414, 2004

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