Industry 4.0と寄り添う作業療法について(2)〜Industry 4.0において作業療法士がどのように振る舞うべきか〜
<抄録>
作業療法は、対象者の意味のある作業を実現するために、他職種が協議し、作られた仕事である。したがって、対象者中心の支援や、対象者の目標やニーズを共有した上で、それらを成就するための支援を行うことが重要となる。また、対象者の大切な作業において、職業関連の事項がよく上がる。それは、働くこと自体が生きることの根幹を占めるといったこともあるのかもしれない。つまり、産業と作業療法は密接な関係にあり、それらに関連する世論を理解しながら、対象者と向かい合うことが作業療法士には求められる。本コラムにおいては、2回にわたり、第四次産業革命と言われる現代のテクノロジーにおけるイノベーションを如何に作業療法に取り入れるのかについて、解説を行っていく。第2回は、作業療法におけるテクノロジーとの向き合い方について解説を行う。
1. 第四次産業革命における新しいテクノロジーについて
第四次産業革命におけるテクノロジーとは、基本的にはInternet of Things(IoT)やAI(人工知能)、さらにはビッグデータを用いた革新的技術のことを指す。これらの中には、今まで普通に使われてきた、インターネット(プラウザによる情報収集)やSocial Network Serves(SNS)も含まれる。これらの技術と他の端末技術(人とモノ[ものの中にはロボット技術なども含まれる])が合わさり、イノベーションが起こった状態が第四次産業革命と考えられている。これらのサービスの中には、仮想通貨、決済サービス、ブロックチェーン、等の技術も含まれる。これらの技術によって、既に人の生活は大きく変化している。
人々の生活に寄り添う作業療法としては、これらの生活様式の違いに機敏に対応する必要がある。
例えば、従来であれば、買い物練習をする際、硬貨を財布から出す際に、買い物で求められた金額とちょうど出すためには、財布の中から硬貨を選別し、提供しなければならなかった。しかし、バーコード決済等の技術が進む中で、スマートフォンの操作方法を習得できれば、支払いが効率的になる可能性がある。もっと言えば、自宅にて、宅配サービスをインターネット端末で使用することで、買い物目的の外出自体を行わなくて良い可能性すら出てくる。これらのように、テクノロジーが社会に馴染んでくると、社会のフレーム自体が変わるため、それらの変化に応じた作業療法の提供が重要になる。
2. 近未来において、作業療法士に求められる技術とは?
上記のように、テクノロジーの出現により、対象者が目的とする作業が獲得できる確率は、Howという部分を変更すれば、以前よりも高くなっている。しかし、対象者が、どうしてその活動を実現したいのか、どのような方法で実現することに意味があるのか、そういった個別性という点を吟味する必要が存在する。
例えば、野村総合研究所が2015年に報告したレポート1では、将来AIにとってかわられる可能性の高い仕事について示している。この中では、事務員や銀行員など、単純作業や過去の経験に基づき、答えを出すような仕事に関しては、AIによって取って代わられやすいといったことが示されている。一方、身体や精神に関わる仕事、創造性が求められる、過去の知識や技術にとらわれない新しいフレームが必要な仕事については、AIに仕事を奪われる可能性が低いと考えられている。その中には医者をはじめとし、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士の名前も含まれる。
これらは脳卒中後の上肢運動障害に関する研究でも顕著であり、反復運動によって、上肢機能の改善など、国際生活分類(ICF: International Classification of Functioning, Disability and Health)における身体・機能構造のアウトカムを改善させることがわかっている。この点は、ロボットをはじめとした新しいテクノロジーによって十分改善が可能であると報告されている。しかしながら、個別性が重視されるICFにおける活動・参加のアウトカムについては、人が行動変容を目的とした介入を実施しない限り、改善が難しいとも報告されている2, 3。これら人とテクノロジーがアウトカムに与える影響を鑑みながら、作業療法にテクノロジーを導入することが重要である。
3. 作業療法士が対象者にテクノロジーの使い方を教える
最後に、新しいテクノロジーは対象者が抱える問題の解決にも一役買う可能性がある。つまり、作業療法士はテクノロジーの特徴を理解した上で、対象者にその使い方を教えることで、対象者の自己実現の可能性は飛躍的に向上することが挙げられる。したがって、作業療法士は常に新しいテクノロジーに対して情報収集をし、それを取り入れる努力が求められると思われる。
参照文献
1. 野村総合研究所(NRI)「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に」, 2015
2. Takahashi K, et al: Efficacy of upper extremity robotic therapy in subacute spit stroke hemiplegia: An exploratory randomized trial. Stroke 47: 1385-1388, 2016
3. Takebayashi, Takashi, et al. "Robot-Assisted Training as Self-Training for Upper-Limb Hemiplegia in Chronic Stroke: A Randomized Controlled Trial." Stroke (2022): 10-1161