質問に対して回答します!!シリーズ②

竹林崇先生のコラム
その他
リハデミー編集部
2023.08.28
リハデミー編集部
2023.08.28

Motor Activity Logを手に障害を持つ脳卒中ではない疾患に使うことは可能でしょうか?

質問
 脳卒中後の上肢麻痺の日常生活における使用行動を評価するアウトカムに、Motor Activity Logがあります。この評価は脳卒中後に上肢麻痺を患われた対象者のために作られた評価だと思います。ただ、項目的に、手の外科術後の対象者の方々にも使用できるような気がします。こちらの評価を他の疾患に使うことはできるでしょうか?

回答
 先に回答すると、使うだけならば、同じ手の障害ですので、可能だと考えます。ただし、問題はその値に妥当性や信頼性があるかどうか、もっと言うと、そこで示された項目が、目の前の対象者の方の手の障害の改善等を明確に測定することができているのか、といった点で問題になると思います。
 では、上記の点について、少し詳細に解説をしていきます。まず、これらの疑問を解決する際に知っておきたいのは、リハビリテーションにおける(リハビリテーションだけでなく、医学、心理学等、どの分野においてもですが)尺度開発には手順があり、推奨する作成手順をまとめたものをガイドラインと言います。尺度開発のガイドラインはCOSMIN1と言われており、このガイドラインに則って作られた尺度が、目的とした現象を捉えられる物差しとしての役割を果たす可能性が高いと言われています。
 さて、ではどのような手順で尺度は作られていくのでしょうか。まず、尺度を作成する際に、一番最初に行われる研究が、質的研究です。質的研究は多種多様な実施方法がありますが、多くの研究において、先行研究や識者による議論などに関する分析が実施されます。その中で、どのような対象者のどういった現象を測定したいのかを具現化し、研究で示された手続きの中で項目を設定していきます。まず、この点において、ほとんどの尺度は「どういった対象者のどういった現象を捉えたいか」といった前段の仮説に沿って設計されているため、「それ以外の対象者」でその尺度を取り扱った場合、必要な項目がその評価の中に含まれていない可能性が非常に高い可能性があることになります(偶発的に含んでいる可能性もありますが、その偶発的な可能性すら検証することはなかなか難しい問題です)。
 次に、そういった質的研究の手続きを経て作成された尺度は、信頼性、妥当性、反応性、解釈可能性、といった尺度としての様々な機能を検証されることとなります。例えば、信頼性には内的一貫性、信頼性、測定誤差、妥当性には内的妥当性(表面的妥当性)、構成概念妥当性(構造的妥当性・異文化間妥当性・仮説検証)、基準関連妥当性、が含まれます。これらについて、全て調査された尺度が、対象者の測りたい現象をどれぐらい正確に測れているかが示された正確なものという位置付けになります。
 世の中に出回っている多くの尺度はこの手続が実施されています。もちろん、質問に出てきているMotor Activity Logに関しても同様で、妥当性・信頼性の一部の検討がなされています。ただし、これらの検討は、脳卒中後に上肢麻痺を呈した対象者を対象に実施されているものなのです。つまり、他疾患の対象者にこの尺度を仮に使用した場合、先の研究で検証された妥当性・信頼性は全く意味をなさないこととなります。これは、極端な言い方をすると、私たちが適当に対象者の特徴を鑑みて作ったアンケートを対象者の方への介入前後で使用するのとあまり変わらない行為に科学的には相当します(実際は、同等ではないですし、それなりに妥当な結果を示すとお思いますが、あくまでも科学的には前述のような解釈がなされます)。
 したがって、上記の2点の理由から、現段階においてMotor Activity Logを脳卒中以外の他疾患患者の上肢麻痺に関する生活での使用状況を調べるための尺度として使用することはお勧めしません。ただ、なんとなく、お勧めしない、ではなく、どうして進めないのか、という点をこのように尺度の作成過程から説明ができることがとても大事だと思っています。読者の皆さんもこういった論理的思考を言語化していけるように、色々とトレーニングをして枯れることをお勧めしたいと思っています。なかなか、難しいですが、頑張って参りましょう。

参照文献

1. 佐藤秀樹, and 土屋政雄. "尺度研究における COSMIN ガイドラインの動向." 認知行動療法研究 48.2 (2022): 123-134.

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