Industry 4.0と寄り添う作業療法について(1)〜作業療法士と産業革命の関係性について〜

竹林崇先生のコラム
その他
リハデミー編集部
2023.08.21
リハデミー編集部
2023.08.21

<抄録>

 作業療法とは、対象者の意味のある作業を実現するために、他職種が協議し、作られた仕事である。したがって、対象者中心の支援や、対象者の目標やニーズを共有した上で、それらを成就するための支援を行うことが重要となる。また、対象者の大切な作業において、職業関連の事項がよく上がる。それは、働くこと自体が生きることの根幹を占めるといったこともあるのかもしれない。つまり、産業と作業療法は密接な関係にあり、それらに関連する世論を理解しながら、対象者と向かい合うことが作業療法士には求められる。本コラムにおいては、2回にわたり、第四次産業革命と言われる現代のテクノロジーにおけるイノベーションを如何に作業療法に取り入れるのかについて、解説を行っていく。第一回は、産業革命と作業療法の関係性から見る、テクノロジーとの付き合い方について、解説を行う。

1. 産業革命と作業療法

 18世紀後半からイギリスにおいて、産業革命が起こり、工業生産力が従来に比べ飛躍的に増大し始めた。これにより社会生活のフレームが大きく変わり、人々の生活模様は激変した。これにより、それまでの資本・賃労働の関係も大きく変わり、現代のそれらの基盤が作られたと考えられている。この基盤とは、近代的な生産の場では、効率よく機械を運転するためにも、労働時間の管理が厳格になされるようになり、鉄道の普及等も相まって、正確な時間を日常的に意識しなくてはならない生活様式のことを指す。こういった、時間の観念すら変えるような物事が起こると、人の生活が根底から覆されたことが容易に予測される。

 そういった、効率性、生産性を求めた産業革命は、経済的な進化を呼び、資本的に人々の生活を豊かにした、その反面、個別性に対する注力が下がった。さらには、生産に関しても、齟齬はあり、安価かつ粗悪な商品が街に溢れることとなった。

2. 産業革命に対するアンチテーゼとしてのアーツ・アンド・クラフツ運動

 アーツ・アンド・クラフツ運動は、イギリスの詩人、思想家かつデザイナーであるウィリアム・モリスが主導したデザインに関する運動である。別名を美術工芸運動とも言われている。効率的な大量生産による安価かつ粗雑な商品が溢れる現状に対して、モリスは批判し、中世の手仕事に帰り、生活と芸術を統合することを主張した。ただし、これらの反応は、イギリスでのみ起こったものではなく、産業革命が起こった場所場所で、異なる形ながら、同様の運動が行われていた。具体的には米国のイリノイ州やミシガン州でも同様の運動が行われたと言われている。これらから、人と産業革命の間には、ある一定の確率で、齟齬が生じ、その齟齬を感じた人々の生活が従来と比べ変化が生じ、それによって幸福感に影響がある集団があることが示された。イリノイ州やミシガン州で起こった運動は最終的に米国の南北戦争を巻き込み、世界中に広がった。そして、その目的はアーツ・アンド・クラフト運動の主目的であった「quality of design」だけでなく、それらを使う人の「quality of life」の向上を目指す運動へと変化を遂げていった。

3. 作業療法とアーツ・アンド・クラフト運動

 作業療法の起源の一つにアーツ・アンド・クラフト運動がある。アーツ・アンド・クラフト運動は、一見、安価かつ粗悪な商品に対する芸術運動と見られているが、その本質は、人間性を回復するための芸術を通した社会主義改革運動と考えられている。アーツ・アンド・クラフツ運動の主要人物で特に重要な役割を果たしたと見られているのがジョージ・エドワード・バートンである。バートンは建築士である一方、自らも障害を有する当事者でもあった。

 アーツ・アンド・クラフト運動が世界に広がった時期と時を同じくして、米国の医療は科学的な根拠や診断等を主体とするエビデンスを基盤とした医療に舵を切ろうとした初期の時期であった。エビデンスを重要視しすぎるがために、医療の専門家は人を見るのではなく、臓器や組織、疾患を診る方向へとシフトしつつあった。こういった医療の流れに対し、疑問を持つ医療従事者も少なくなく、そのうちの一人である医師のハーバード・ジェームス・ホールが、個別性に特化した医療であるWork cureというものを提唱し、導入を始めた。これらの医療における活動は、同時期に活発化していた、アーツ・アンド・クラフツ運動の活動形に支持され、その活動の中心メンバーであったバートンによって『作業療法』が作られた。

まとめ

 作業療法と産業革命の関係性について、アーツ・アンド・クラフト運動を通して、解説を行った。つまり、作業療法を進める上で、産業の状況をよく把握し、それらに応じた対応を実施していくことが求められる。次のコラムでは、第四次産業革命における作業療法とテクノロジーの併存について解説を行う。

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