脳性麻痺を呈した対象者の前腕と手関節機能に対する外科術及び非侵襲の運動療法の効果の違いについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.04.18
リハデミー編集部
2022.04.18

<抄録>

 脳性麻痺の主症状の一つに痙縮や付随運動が挙げられる.特に痙縮は筋肉に不随意な力が加わり,一定の方向に関節を長期間固定することがある.また,その結果,関節自体の可動性が失われ,二次性の拘縮を生じることがある.これらの治療においては,痙縮を弱めるためのボツリヌス毒素A型をはじめとした筋弛緩剤による治療や,整形外科的手術療法が用いられることが多い.しかしながら,薬剤による治療や整形外科的手術療法は,侵襲的であり,一度治療を受けると不可逆性の変化を有するものも少なくない.本コラムにおいては,不可逆性である整形外科的手術療法と非侵襲的な運動療法であるConstraint-induced movement therapy(CI療法)が,脳性麻痺を有した対象者の前腕及び手関節の機能にどのような効果の違いを与えるかについて解説する.

1. 脳性麻痺に対する整形外科的手術療法

 脳性麻痺とは,疾患ではなく,出産前後になんらかの原因(低酸素,脳出血等)により,脳の一部が損傷を受けたことから生じる後遺症である.したがって,損傷を受けた部位が司る能力に応じた後遺症が残存する.出産前後の脳損傷において,運動を司る皮質脊髄路が損傷を受けることが比較的多く,片側の上下肢に麻痺を生じる,いわゆる片麻痺を有する対象者が多い.さて,片麻痺に併せて起こる後遺症の一つに,痙縮がある.痙縮とは上位ニューロン障害の一つである伸長反射の増強によって生じるもので,筋肉が過剰に緊張する病態を指す.この後遺症により,脳損傷後に手指や手首,前腕,肘の関節がある一定方向に固定されてしまい関節自体の可動性が失われ,二次性の拘縮を生じることがある.これらの治療においては,痙縮を弱めるためのボツリヌス毒素A型をはじめとした筋弛緩剤による治療や,整形外科的手術療法が用いられることが多い.

 さて,痙縮を由来とした二次性の拘縮に対する整形外科的手術療法は,様々な手法が用いられている.手術の目的も様々で,1)痙縮に伴う二次性の拘縮を剥離するための手術,2)緊張の高い筋肉と比較的正常な筋肉のバランスを整え,痙縮をコントロールし,関節の可動性を保持するもの,3)痙縮による以上な力のかかり方や発達の遅れに伴う,こつの変形を矯正し,機能を再建する手術などがある.例えば,2)では,整形外科的選択的痙縮コントロール術(Orthopedic selective spasticity-control surgery: OSSCS)は,その名の通り,整形外科的技術を持った外科医が,取り扱うべき筋膜を選択し,痙縮コントロールをすることを目的とした手術手技である.この手術手技の特徴は,選択的に痙縮を有する筋膜を切断することで,大部分の筋膜が温存しつつ,痙縮をコントロールするため,侵襲の度合いは比較的小さなものだと考えられている.3)では,Pronator teres rerouting(前腕筋再配置術),Flexor carpi ulnaris transfer to extensor carpi radialis brevis(屈筋腱移行術)などが挙げられており,現在も脳性麻痺を有する対象者の対処療法として利用されている.

2. 非侵襲的なアプローチである運動療法(Constraint-induced movement therapy: CI療法)と整形外科術的治療の痙縮抑制に対する効果の違い

 上記に示したように,侵襲的な痙縮抑制手技が多く使われているが,非侵襲な運動療法によっても痙縮の抑制が可能なことが報告されている.Kagawaらは,生活期の脳卒中後上肢麻痺を呈し,痙縮を有する対象者10名を対象にCI療法前後の痙縮の変化について検討している.その結果,臨床的な痙縮の指標であるModified Ashworth Scaleにおいて,介入前後において有意な改善を認めたと報告している.さらに,電気生理学的な痙縮の指標の一つである脊髄の前角細胞の興奮性を示すF波及び平均F/M比率においても,介入前後において,有意な改善を認めたと報告している1.

 さて,それでは侵襲的な整形外科術的手術療法と非侵襲的なCI療法は,脳性麻痺を呈した対象者に対し,どのような痙縮抑制効果の違いがあるのでしょうか.Tawonsawatrukらは,7〜15歳の計19名の脳性麻痺を有する対象者の上肢変形に対して,整形外科術的手術療法(前腕筋再配置術,または屈筋腱移行術)と非侵襲的なCI療法の比較するためのランダム化比較試験を実施している.結果としては,Shriners Hospital Upper Extremity Evaluation(SHUEE),手関節背屈の可動域, Pediatric Outcomes Data Collection Instrument(PODCI)において,1年後のフォローアップまで,両群間に有意な差は認めなかった.しかしながら,Volkmann角においては,侵襲的な整形外科術的手術療法を受けた群が,非侵襲的なCI療法を受けた群に比べ,有意な改善を示したと報告している.従って,これらの特徴を踏まえて,痙縮に由来する手関節の拘縮に対する治療選択を実施することが望ましいと思われた.


参照文献

1. Kagawa S, et al. Effects of constraint-induced movement therapy on spasticity in patients with hemiparesis after stroke. J Stroke Cerebrovasc Dis 22: 364-370, 2013

2. Tawonsawatruk T, et al. Comparison of outcome between operative treatment and constraint-induced movement therapy for forearm and wrist deformities in cerebral palsy. A randomized controlled trial. Hand Surg Rehehabil S2468-1229(22)00062-7, 2022

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