作業療法における上肢機能アプローチは脳卒中後の麻痺手に対して有用な効果を示すのか?

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2022.04.15
リハデミー編集部
2022.04.15

<抄録>

 作業療法士は,脳卒中患者のリハビリテーションに関わる職種であり,その役割は機能練習から,就労や趣味等の社会参加に至るまで,非常に広範囲にわたる.回復期リハビリテーション病院においては,機能練習の中でもとりわけ上肢機能練習に関わることが多い.本コラムにおいては,作業療法における麻痺手の機能練習の実際と,その中でも課題指向型アプローチの効果について,述べる.

1. 作業療法における機能練習の位置づけ

 作業とは,哲学的な概念であり,食事をしたり,入浴をするなどの日常生活活動から,仕事をする,地域活動,余暇活動といった,活動・社会参加レベルの活動に対するまで,対象者の方が大切にされている活動を指す.ただし,多くの作業療法士が,病院をはじめとした医療機関に所属していることもあり,病気や怪我の初期段階で関わることが多い.特に,社会復帰を目指す医療機関である回復期リハビリテーション病院においては,上記に示した活動・社会参加レベルの活動に対するアプローチの他に,麻痺等の身体機能面への介入も作業療法士には求められる.特に,脳卒中後の後遺症の一つに片麻痺があり,そのうち上肢に関連する麻痺をはじめとした運動障害は80%の対象者に生じると考えられており1,この障害に対するアプローチも作業療法士の役割の一つと考えられている.

 脳卒中後の上肢麻痺に対しては,様々なアプローチが試みられている.米国心臓/脳卒中学会が2016年に示したガイドラインの中でも,効果のエビデンスが確立されているアプローチとして,1)課題指向型アプローチ,2)Constraint-induced movement therapy(CI療法), 3)中等度から重度例に対する電気刺激療法,4)メンタルプラクティス,5)ロボット療法などが挙げられている.これらに加えて,本邦において一般的なアプローチとしては,ボバースコンセプト,促通反復療法,Proprioceptive neuromuscular facilitation(PNF)などの神経促通術の利用や,認知運動療法等が用いられている.ただし,これらについては,効果のエビデンスが不十分(ランダム化比較試験の不足,および効果が不明瞭)なこともあるものの,臨床では広く使用されている印象がある.しかしながら,神経筋促通術の中でも,例えば,促通反復療法等においては数本ではあるもののランダム化比較試験も実施され,対照群に比べ有意な上肢機能の改善を示しているものもあり2,ガイドラインの内容に従い,一概に効果のエビデンスがないとは言えない現状にある.

ただし,本邦の回復期リハビリテーション病院における手法選択の割合等については,調べられた研究が認められず,正確な使用手法の分散は不明瞭であり,今後の研究が必要である部分でもある.

2. 作業療法における課題指向型アプローチの効果について

 課題指向型アプローチとは,問題解決を基盤とする介入理論であり,主体と環境,そして両者の間を有機的に結びつける課題から構成される.すなわち,対象者の状態を理解した上で対象者が重要で必要と感じている目標を合議した上で,最適な課題の内容(感覚,運動,空間,対象物,強度,頻度など)をセラピストが設定し,対象者はその課題の問題解決を通じて合目的的な脳機能の再構築を促すというものである.つまり,対象者の大切な活動(作業)を成し遂げる作業療法と非常にマッチングが良いことが窺える.

 さて,脳卒中後に生じた上肢麻痺に対して,作業療法における課題指向型アプローチの効果を示した最新の論文について,解説を行う.Almhdaweらは,作業療法における課題指向型アプローチの効果を明らかにするために,前向きのクロスオーバーランダム化比較試験を,生活期(平均発症期間62ヶ月)の対象者20名を対象に,実施している.この研究では,クロスオーバーにおいて,作業療法における課題指向型アプローチを実施する群と,介入を実施しない群に割り付けがなされた.結果としては,クロスオーバー期間のそれぞれにおいて,対象者の重要な作業の到達に関する遂行度,満足度を測定するCanadian Occupational Performance measure(COPM)や麻痺手の実生活における主観的な使用頻度・および使いやすさを測定するMotor Activity Log(MAL),麻痺手の機能・パフォーマンスを測定するWolf Motor Function Test(WMFT)において,対照群に比べて,有意な改善を認めたと報告している.これらの結果から,作業療法における課題指向型アプローチは,麻痺手の機能改善のみならず,対象者の意味のある作業に関するアウトカムの改善や,Quality of lifeを反映している可能性が示されている実生活における麻痺手の主観的な使用行動において,効果を認めることが示された.作業療法において,課題指向型アプローチを実施することは,意味のある選択肢の一つである可能性が示唆された.


参照文献

1. Langhorne P, et al. Motor recovery after stroke: A systematic review. Lancet Neurol 8: 741-754, 2009

2. Shimodozono M, et al. Benefits of a repetitive facilitative exercise program for the upper paretic extremity after subacute stroke: A randomized controlled trial Neurorehabil Neural Repair 27: 296-305, 2013

3. Almhdawi KA, et al. Efficacy of occupational therapy task-oriented approach in upper extremity post-stroke rehabilitation. Occup Ther Int 23: 444-456, 2016

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