ミラーセラピーの実際について
<本コラムの目的>
・ミラーセラピーを実施する際の注意点を理解する
・ミラーセラピーをうまく臨床で使いこなすためのコツを理解する
1. ミラーセラピーの実際について
前々回のミラーセラピーの概要でもお話ししましたが、ミラーセラピーは対象者の没入感等によっては、全く効果を示さないことがあります。つまり、対象者を選ぶアプローチということができるかもしれません。しかしながら、ミラーセラピーのことをよく理解した上で、臨床における工夫を凝らすことにより,アプローチが成功する可能性は変化するかもしれません。ここでは,先行研究からそれらの工夫について解説を行っていきます。
ミラーセラピーは没入感を感じやすいといった個々人の性質以外にも,アプローチを実施する際の手続きも成果に影響を与えると考えられています。例えば、ミラーセラピーは、鏡に映る非麻痺側上肢の視覚情報を,より具体的でリアルな自分の運動として運動イメージを促すことが,麻痺側上肢の神経筋の運動感覚の再構築に結びつくと考えられています。
つまり、麻痺側上肢に対するよりリアルな錯覚を促すために,麻痺側上肢の運動イメージをより惹起しやすい環境を整備することが重要とされています。したがって,非麻痺側上肢に対する意図・企図と麻痺側上肢に生じる感覚入力、つまりアウトプットとインプットの乖離が大きければ大きいほどに、運動イメージの生成の過程においてノイズが生じ、困難が生じることが予測されます[1]
上記の事柄を考えると、ミラーセラピーを用いたアプローチを実施する際には、よりよい没入体験を提供するために,できるだけリアルなアウトプットとインプットを再現できることが理想とされています。具体的には、非麻痺側上肢に対する運動企図や意図が生じた際に、その運動に応答する筋肉に電気刺激や振動刺激を他動的に入力していくという方法が、近年用いられています。
臨床現場で試行されている方法としては、非麻痺側上肢の手指を屈曲した際には、麻痺側の屈筋群に電気刺激および振動刺激を導入し、手指を伸展した際には伸筋群にそれらの物理刺激を付加するというものです。また、近年では付加する電気刺激療法については、Contralaterally controlled functional electrical stimulation(CCFES)という方法が注目されています[2]。
CCFESは、非麻痺側上肢の筋肉にセンサー電極を設置し、麻痺側上肢においても同様の筋肉に刺激電極を設置します。そういった環境下で、ミラーに写した非麻痺側上肢で運動を行うと、その運動によって生じた筋電がセンサー電極により認知され、非麻痺側上肢に生じた運動と同等レベルの筋電刺激が麻痺側上肢の同様の筋肉に提供される仕組みを有するアプローチです。
CCFESの研究結果
本邦において、CCFESを行う際には、Yi[2]らのシステムによく似た機構を持つOG技研が販売しているIVESに搭載されている非麻痺側トリガーモードが利用できるとされています。
次に振動刺激ですが、こちらは非麻痺手の運動に同期して、他動的にハンドマッサージャー等を用いて、振動刺激を療法士が提供する方法とされています。この方法をミラーセラピー時に付加することで、麻痺側上肢の運動に対する運動イメージの構築が促進され、身体パラフレニアの改善を認めたとの報告がなされています[2]。
上記に示したように、ミラーセラピーは運動イメージ時における没入感覚を創造し、正確な運動イメージが生成することで、その真価を発揮できると考えられています。今回紹介した物理療法を付加することで、より正確なイメージの生成の一助となるかもしれません。
参照文献
1. 平上尚吾, et al: 脳卒中片麻痺患者の上肢運動機能に対する回復期のミラーセラピーの効果―麻痺側手指伸展の随意運動の有無によるサブグループ解析―理学療法科学31(4): 609-613, 2016
2. Yi X, et al: A blink restoration system with contralateral EMG triggered stimulation and real-time artifact blanking. IEEE Trans Biomed Circuits Syst 7: 140-148, 2013