ミラーセラピーのメカニズム
<本コラムの目的>
・ミラーセラピーのメカニズムを理解する
・ミラーセラピーのメカニズムに則って介入を行うことができる
1, ミラーセラピーのメカニズムについて
前々回のコラムでは,ミラーセラピーの概要についてお話をしましたミラーセラピーのメカニズムについて、神経生理学的な視点から解説を行なっていきます。
2018年にZangら[1]によって実施されたシステマティックレビュー&メタアナリシスにおいて、ミラーセラピーのメカニズムはまだ明確になっていない部分がある前提で、(1)損傷側の一次運動野の興奮性の増大[2]、(2)ミラーニューロンシステムの関連性[3]、(3)上側頭回、上後頭回の関連性[4]、(4)楔前部と後帯状皮質の関連性[5]、が関連していると報告されています。本コラムでは、これらそれぞれについて、解説を行なっていきます。
1)損傷側の一次運動野の興奮性の増大
Garryら[2]は、健常者を対象に、運動誘発電位(頭蓋に磁気刺激を実施し、その際の刺激した部位に相当する筋肉がどのような反応を示すかについて、筋電を用いて評価する方法)を用いて、ミラーセラピー実施中の反応について、検討しています。検討条件は、4つ用意されており(表1)、その際の運動誘発電位の差について検討を行なっています。
4つの条件を比較した結果、Mirro条件を実施時に最も大きな運動誘発電位を観測したと報告しています。この結果から、ミラーセラピーが一次運動野の興奮性および麻痺側上肢の運動機能に影響を与える可能性が示唆されました。
2)ミラーニューロンシステムの関連性
ミラーニューロンシステムは、視覚から得られた他者の動きを自らの動きとして変換し、反応する神経細胞群の働きのことを示しています。ミラーニューロンの所在領域としては、リスサルでは前頭葉F5領域(運動前野腹側部)で発見されており、ヒトにおいては、一次運動野、運動前野、下頭頂小葉、上側頭回が関連している可能性が示唆されています[6]。
また、近年では、ミラーニューロンは、他者の行為や行動だけではなく、自己の動作の観察時にも生じるとされており[7]、それらの根拠から、ミラーセラピーや自己の運動の録画映像の観察等でも、関与する可能性が示されています。ただし、多様な運動観察とミラーニューロンの関与は示されているものの、それが実際、機能回復に関わるかどうかは不明な点が多いと言われています。
3)上側頭回と上後頭回の関連性⁴
Matthys ら[4]が、健常者を対象に行なったfMRIを用いた研究で、対照群と比較してミラーセラピーを用いた群において、上側頭回と上後頭回の興奮性の向上がみられたと報告しました。上側頭回は、視覚的な刺激を処理する高次の領域であり、動きを観察する際に賦活した可能性について考察で述べています。
4)楔前部と後帯状皮質の関連性
Michielsen ら[5]が、脳卒中患者にfMRIを用いた研究で、対照群と比較してミラーセラピーを用いた群において、楔前部と後帯状皮質の興奮性の向上がみられたことを報告しています。楔前部と後帯状皮質は、自己身体の認識や視空間の注意に関与しており、こういった背景から、学習性不使用や無視、運動主体感の喪失といった身体性に関わる問題についても影響を与える可能性が示唆されています
参照文献
1. Zeng W, et al: Mirror therapy for motor function of the upper extremity in patients with stroke: A meta-analysis. J Rehabil Med 2018 Jan
2. Garry M.I, et al: Mirror, mirror on the wall: viewing a mirror reflection of unilateral hand movements facilitates ipsilateral M1 excitability. Experimental Brain Research volume 163, pages118-122(2005)
3. Luigi Cattaneo, et al: The Mirror Neuron System: Arch Neurol 2009; 66: 557-560.
4. Matthys K, et al: Mirror-induced visual illusion of hand movements: a functional magnetic resonance imaging study. Arch Phys Med Rehabil. 2009 Apr;90(4):675-81.
5. Michielsen ME, et al: The neuronal correlates of mirror therapy: an fMRI study on mirror induced visual illusions in patients with stroke. J Neurol Neurosurg Psychiatry 2011; 82 :393-398
6. Nishitani N, et al: Viewing lip forms :Cortical dynamics. Neuron 36: 1211-1220, 2002
7. 田平隆行, et al: Mirror Box課題における運動野および体性感覚野の興奮性の変化:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科保健学専攻 保健学研究. 2007, 20(1), p. 9-15