ARAT1
竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2025.10.06
リハデミー編集部
2025.10.06
新卒の皆さんも多いこの時期、評価に関する重点的な解説を行なっていきますね。今回は、手の障がいについて、パフォーマンスレベルの評価が可能な、Action Research Arm Test(アクション・リサーチ・アーム・テスト)について解説していきます。今回も、大阪公立大学の竹林先生 @takshi_77 にコラムの執筆をお願いしています。それではいってみましょう。
Action Research Arm Testに関する解説(第1回目)- Action Research Arm Testとは?-
Action Research Arm Test(ARAT)は、脳卒中後の上肢機能を評価するために広く用いられている標準化された観察的テストです。1981年にRonald Lyleによって初めて報告され、Carrollらの上肢機能テスト(Upper Extremity Function Test, 1965年)を簡便化・改良して開発されました[1]。
ARATは19項目からなり、把持(Grasp)、握力(Grip)、つまみ(Pinch)、粗大運動(Gross movement)の4つの下位尺度に分類されています。主に脳卒中患者の上肢の活動能力(パフォーマンス)を測定し、リハビリ介入の効果判定や自然回復の追跡に用いられ、近年では外傷性脳損傷や多発性硬化症、パーキンソン病患者にも適用が検討されています。本コラムでは、ARATの評価手順について触れていきます。
ARATは19の課題から構成され、それぞれ0~3点の4段階で評価されます。ARATは19の課題から構成され、それぞれ0~3点の4段階で評価されます。3点は「正常に課題を遂行できる」、2点は「課題は完遂できるが異常に時間がかかるか大きな努力を要する」、1点は「課題を部分的にしか遂行できない」、0点は「課題の一部も遂行できない」を意味します。
たとえば把持下位尺度では、最初に最難課題を実施し3点であればその下位尺度は満点とみなして次の下位尺度へ進み、最初の課題が満点でなければ次の課題を実施し、2課題目が0点であれば残りの課題も0点とみなす、という簡便化ルールが提唱されています(Lyleの決定則と呼ばれていますが、この評価法については、正確性に欠けるといった指摘もありますので、使用する際は注意が必要です)。
このような進め方により、患者の能力に応じて最小限の項目数で所要時間を短縮できる設計になっています。典型的には6~15分程度で全項目を評価可能と報告されています。患者は座位でテーブルに向かい、課題ごとに所定の開始位置から指示に従って動作を行います。下表にARATの全19項目を下位尺度別に示します。
各課題は、テーブル上の物体をつかんで横または縦方向に移動させる動作や、上肢を挙上して特定の位置(頭や口)に手を届かせる動作で構成されています。課題の成功や困難度は評価者の観察によりスコア化されます。総得点は0~57点で、高いほど上肢機能が良好であることを示します。
なお、ARATには公式の評価キットが市販されており(棚板や課題物のセット)、標準化された配置・高さ(例えば棚板はテーブル縁から25cm奥行き、高さ37cmに設定)で実施することが推奨されています。評価中の注意点として、代償動作(例:体幹の過剰な前屈や肩のすくめによる代償)による課題遂行は減点対象となるため、動作品質も考慮して採点します
まとめ
今回は、ARATの信頼性について、解説をしました。この評価は評価キットが国内でも販売されていますが、キットがないと実施するのは少し難しいかもしれません(手作りでの作成の仕方も公表されていますが)。
日本におけるパフォーマンス評価では簡易上肢機能検査(STEF)が有名ですが、海外ではほとんど使用されておらず、ARATかWolf Motor Function Testが主流です。グローバルスタンダードな評価を実施することで、文献の数値とも比較が安易になりますので、是非、知っておいてください。
参照文献
1. Lyle, Ronald C. "A performance test for assessment of upper limb function in physical rehabilitation treatment and research." International journal of rehabilitation research 4.4 (1981): 483-492.
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