MALの臨床研究での活用 (研究におけるMALの有効性と限界)
さてさて、前回までは臨床的な観点のお話が多かったのですが、今回は『研究的での活用』についてまとめていただいています。
さて、今回も大阪公立大学医学部リハビリテーション学科の竹林先生にお願いしています。第一回は『MALの臨床研究での活用(研究におけるMALの有効性と限界)』についてです。
竹林先生のお話は、結構、限界に焦点を当ててお話をされることが多いので、個人的にはすごく好感があります。
それでは竹林先生、よろしくお願い申し上げます
なお、リハテックリンクスでは、脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチに関しても、サブスクサービス『リハデミー』内で学んでいただくことができます。これを機に、是非学んでみてはいかがでしょうか?
MALの臨床研究での活用 (研究におけるMALの有効性と限界)
研究での利用状況
MALは脳卒中後の上肢リハビリテーション研究において頻用されるアウトカム指標です。特に、麻痺手の自発的使用を促すことを目的とした介入(例えば拘束誘導運動療法=CI療法)の効果検証で重要な役割を果たしてきました。というよりも、むしろ、CI療法の効果を測定するために開発された尺度と言っても過言ではありません。
CI療法の代表的研究であるEXCITE試験(多施設無作為化比較試験)では主要評価項目の一つとしてMALが用いられ、介入群(健側拘束+集中的訓練群)で有意な改善が示されています[1]。具体的には、発症3~9か月の脳卒中患者において、CI療法群はMAL-AOUが平均1.21から2.13に上昇し、対照群の1.15から1.65の上昇に比べ有意に大きな改善幅(群間差0.43, p<0.001)を示しました。同様にMAL-QOMもCI療法群で1.26から2.23に改善し、対照群(1.18→1.66)の変化を上回りました(群間差0.48, p<0.001)。これらの結果は、CI療法が日常生活における患側上肢使用を向上させ、その効果が少なくとも1年間持続したことを示すものです。
このようにMALはリハビリ介入の実生活への波及効果を測定する指標として有効であり、多くの臨床研究で採用されています。実際、MALを用いた研究はCI療法以外にも、鏡療法や両側訓練、ロボット訓練など様々な上肢リハ手法の効果判定に及び、アウトカムとして患者の主観的使用状況の変化を捉えています。例えば、Hammerら[2]は亜急性期の脳卒中患者を対象にMALのレスポンシブネス(変化検出能力)を検証し、リハ介入によるMALスコアの変化量が有意であること、また他の機能評価と比較して臨床的に意味のある変化量(MCID)を提案しています。このように、MALは研究アウトカムとして十分な感度を持つ尺度であり、上肢麻痺リハビリテーションのエビデンス構築に貢献してきました。
MALの有効性と限界
もっとも、MALにも研究上の課題や限界が指摘されています。第一に自己記憶に基づく申告尺度であるため生じるバイアスです。患者は「使えるようになりたい」「頑張った」という心理から使用頻度を過大申告したり、逆に完璧主義的な性格から動作の質を過小評価する可能性があります[3]。
特に介入研究では、治療群の患者がセラピストの期待に応えようと無意識に社会的望ましさバイアスの影響を受けることもありえます。この点、客観的な使用量を測定する加速度計との比較では中程度の相関しか得られておらず[4]、MAL単独で真の使用量を厳密に量るのは難しいことが示唆されています。「腕を使った」と患者が感じても、実際には健側で代償し大部分を補助しただけかもしれないからです。そこで研究者は、MALの結果を解釈する際に客観指標(加速度計データや機能検査)と突き合わせる工夫を行っています[5]。
第二に、評価尺度そのものの構造的課題も報告されています。Chuangら[6]はMALおよび下位機能版MALの評価データをラッシュ解析し、6段階評価のカテゴリー区分が受査者にとって明確でなく順序の乱れが生じていることを指摘しました。彼らは選択肢を4段階や2段階に圧縮して解析し直すことで尺度特性の改善を試みており、MALの評点カテゴリの最適化が課題として示唆されています。これは臨床的にも、患者が「3と4の違い」を認識しづらいケースがあることと一致します。
しかし一方で、MALが患者自身の主観評価である点は「患者にとっての意味ある改善」を捉える上で重要との指摘もあります[7]。すなわち、加速度計が捉える純粋な運動量ではなく、患者が「使えるようになった」「質が上がった」と感じること自体がリハビリテーションの成果として価値を持つという視点です。総合すると、MALは主観と客観の両面から慎重に解釈すべき評価ですが、その有用性は高く、今後も改良を重ねながら臨床研究で活用されていくでしょう。
まとめ
今回のコラムではMALの臨床研究における活用について、特に限界に焦点を当てて解説をさせていただきました。全ての評価(評価だけでなく、アプローチ方法もですけども)は、その限界を知ってこそ、正確な利用が可能になると思います。もし、今回、そういう考え方を初めて知ったとおっしゃる方がおられましたら、そういった観念を持ちつつ使ってみてください。次回は、MALの最終回、関連論文・文献 (代表的・最新の研究)について解説をしていきます。
参照文献
1. Wolf, S. L., Winstein, C. J., Miller, J. P., Taub, E., Uswatte, G., Morris, D., ... & EXCITE Investigators, F. T. (2006). Effect of constraint-induced movement therapy on upper extremity function 3 to 9 months after stroke: the EXCITE randomized clinical trial. Jama, 296(17), 2095-2104.
MAL臨床現場での使...