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今回も脳卒中後の評価について解説いただきたいと思います。
脳卒中後の評価では、Fugl-Meyer AssessmentやFunctional Independence Measure(FIM)といった評価が臨床ではよく使われています。
一方、リハビリテーションの最終目的であるQuality of life(QOL)の評価については、あまり知られていない印象です。
そこで、今回は脳卒中後の患者さんを対象としたQOL評価であるStroke Impact Scaleについて、大阪公立大学の竹林先生にコラムをお願いしています。
では、一緒に確認していきましょう。
Stroke Impact Scaleについて知ろう
1. Stroke Impact Scaleとは?
脳卒中インパクトスケール(Stroke Impact Scale: SIS)は、脳卒中後の健康状態や生活の質(QOL)を多面的に評価するために開発された患者報告式の評価尺度です[1]。日本ではあまり話題に出てくることが少ないですが、海外の研究において、脳卒中後の対象者に特化したQuality of lifeを調べる上で重要な評価とされています。
SISは筋力、手の機能、日常生活動作(ADL)/手段的ADL、移動、コミュニケーション、感情、記憶と思考、社会参加の8つの領域と、回復度(全体的回復感を0~100で評価する項目)から構成されています。
各領域の質問項目は過去数週間における活動の「困難さ」を1~5の5段階で自己評価し、総得点は0~100点に換算されます[1]。点数化は少し解釈が難しいため、必ずソース元の論文を読むようにしてください。
1999年に米国で最初の版(Version 2.0、64項目)が公表されて以来[2]、SISは改訂を経て現行のVersion 3.0(59項目と1問の回復度に関わるVisual Analog Scale(VAS))となり、リハビリテーション領域で広く用いられる信頼性・妥当性の高い尺度へと発展しました。日本では、産業医科大学によりダブルトランスレーションを実施した翻訳版が公表されており、それらを利用することとなると思います。
SISは、全質問への回答所要時間は約15~20分程度で、患者への負担も比較的少ないと報告されています[3]。評価得点は領域ごとに0~100点に換算され、得点が高いほど良好な機能・QOL状態を示します。8領域それぞれが国際生活機能分類(ICF)における身体機能・活動・参加の側面を網羅しており、ADL能力だけでなく認知機能や情動、社会参加度合いまで含めた包括的評価を可能にしています[1]。
2. バージョンの推移や短縮版の存在について
バージョンの変遷について解説していきます。初版のSIS Version 2.0(64項目)はDuncanらにより開発され、フォーカスグループや専門家レビューを経て作成されました[2]。その後、Rasch分析に基づき一部の項目が除外・修正され、約5問短縮されたVersion 3.0(59項目)が公開されています[3]。ただしSISの基本的構成(8領域+回復VAS)はVersion 2.0から3.0で大きな変更はなく、Version 3.0は主に項目の統計特性改善を目的としたマイナーアップデートといえます。
次に、短縮版について解説していきます。臨床での迅速な評価や軽症者の評価精度向上のため、SISから派生した短縮版も開発されています。代表的なものがSIS-16で、これはSISの「身体機能」関連項目からRasch解析によって選ばれた16問で構成されるサブスケールです[4]。SIS-16はBarthel Index(BI)と比較して高次な身体機能課題を含むため軽度な障害の検出に優れ、重症度の異なる患者をより細かく判別できることが示されています。実際、修正Rankinスケール(mRS)の全範囲(0~5)でSIS-16スコアに有意差が認められる一方、BIでは軽度領域での差が十分に検出できなかったと報告されています[4]。
一方、SF-SIS(Short-Form SIS)はより包括的なQOL指数を算出する目的で開発された8問版です[5]。SF-SISの総合スコアは元のSIS総得点やEuroQOL(EQ-5D)と高い相関を示し、簡便なQOL指標として機能し得ることが示唆されています。ただしSF-SISの感度(responsiveness)については一部検証で十分なエビデンスが得られず、更なる検討が必要とされています。
なお、重度の後遺症で本人が回答困難な場合に備えて代理回答版(Proxy版)**のSISも検討されています[6]。Proxy版では家族等の代理人が患者の状況を代行評価しますが、患者本人との一致度については領域によって差があり、特に感情面など主観的領域ではProxyと本人評価の間に誤差が生じやすいと報告されています。したがって、Proxy評価を用いる際はそうしたバイアスの存在を考慮する必要があります。
まとめ
今回は、脳卒中後の対象者さんに特化したQOL評価であるSISについて解説していきました。フルパッケージの評価だけでなく、臨床での運用を考慮した短縮版の存在も一緒に紹介しました。これらの評価は研究で使用されるケースが多いですが、臨床における対象者の方への評価としても優秀です。次回以降では、SISの信頼性や妥当性といった側面について解説を行っていきます。
参照文献
1. 越智光宏ら. "Stroke Impact Scale version 3.0 の日本語版の作成および信頼性と妥当性の検討." Journal of UOEH 39.3 (2017): 215-221.
2. Duncan, Pamela W., et al. "The stroke impact scale version 2.0: evaluation of reliability, validity, and sensitivity to change." Stroke30.10 (1999): 2131-2140.
3. https://curesickle.org/sites/default/files/Doc/SC/PhenX_NQoLHS_Stroke_Impact_Scale_(SIS)-Adult.pdf (2025年5月9日)
4. Duncan, P. W., et al. "Stroke Impact Scale-16: A brief assessment of physical function." Neurology 60.2 (2003): 291-296.
5. Coppers, Anna, Jens Carsten Möller, and Detlef Marks. "Psychometric properties of the short form of the Stroke Impact Scale in German-speaking stroke survivors." Health and Quality of life Outcomes 19 (2021): 1-13.
6. Duncan, Pamela W., et al. "Evaluation of proxy responses to the Stroke Impact Scale." Stroke 33.11 (2002): 2593-2599.
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