今回はARATの解釈法の中でも、感度・反応性について解説していただこうと思います。
ARATの解釈ではこの感度・反応性に関わる解釈がかなり重要です。
Action Research Arm Test(ARAT)に関する解説(第4回目)-ARATの感度・反応性とは?-
1. ARATの感度・反応性について
まず、最初に、感度・反応性について、解説をしていきます。感度・反応性とは、その評価が対象者さんの上肢機能の変化を鋭敏に捉えることができるかどうかを示すものです。例えば、皆さんも、我々療法士の主観では、確かに身体機能が良い方向に変化しているにも関わらず、評価の点数がほとんど変わらない、といった経験があるのではないでしょうか?そういった評価は、基本的に感度・反応性が悪い、と表現します。感度・反応性が良い評価は、身体機能の改善に伴い、点数が一方向性に上がっていき易くなります。
では、ARATの感度・反応性はどうなのでしょうか。ARATは経時的な変化の検出能力(responsiveness)にも優れており、リハ介入や自然回復による上肢機能の改善を敏感に捉えることができます。急性期~亜急性期の脳卒中患者50例を対象としたLangら (2006) の研究では、ARATは発症後3か月までの間に大きな効果量(effect size >1.0)を示し、短期間での変化にも反応することが明らかになりました[1]。同研究でARATの改善率(responsiveness ratio)は7.0に達し、上肢機能の改善を鋭敏に検出する尺度であると結論づけています。
また、慢性期(発症半年以降)の患者に対しても、ARATは適切なリハ介入に伴う機能向上を捉えることができます。Van der Leeら (2001) は慢性期脳卒中患者に集中練習を行った試験で、ARATとFugl-Meyer Assessment(FMA)の上肢項目の両評価の応答性を比較しました。その結果、いずれの評価法も有意な改善を示しましたが、ARATの方が変化を捉える感度が高い傾向が報告されています[2]。
実際、入院リハでの上肢機能改善をARATとFMAで比較し、ARATの標準化平均変化量 (SRM) が0.89と良好であったことを報告しています。以上のように、ARATは上肢機能の経時変化に対して高い応答性を示すため、臨床研究や日常臨床において介入効果判定指標として適しています[3]。
一方で、ARATにも天井効果・床効果の問題が指摘されています。重度麻痺の患者では最初のいくつかの課題が遂行不能となり0点が並ぶため床効果が発生しやすく、逆に軽度麻痺の患者では全課題がほぼ正常遂行できて最高点近くになる天井効果が生じ得ます。特に、天井効果については、その傾向が著しく、軽度障害の検出感度は十分ではないことが示されています。特に、指先巧緻性の微妙な障害などはARATでは捉えにくい場合があると言われています。つまり、FMAの上肢項目等の他の評価に比べると、重度・軽度の上肢運動麻痺を有する対象者においては、反応性は著しく悪く、対象者さんの重症度によって、選択するかどうかを検討する必要がある評価といえます。これらに対する対処法として、軽度の対象者さんを評価する際には、このため、軽度麻痺者には握力計測や巧緻動作テスト(九穴試験や指タッピングなど)を補完的に用いることも推奨されています。
これらをまとめると、ARATを実際に健常成人にて評価した場合、ほぼ満点が得られることから、正常レベル近くまで回復した場合の微小な変化は測定困難な一方、中等度以上の障害の変化検出には強みを持つ評価と位置づけられています。以上より、ARATは上肢機能評価として総合的に信頼性が高く妥当性が確立され、さらに臨床的に有用な感度を有する尺度であると言えます。
まとめ
今回は、ARATの感度・反応性について、解説をしました。評価を選ぶ際に、上肢運動麻痺の評価、といった妥当性だけを考えるだけでなく、その評価が正確に機能する対象者の重症度等にも想いを馳せれると、より詳細な解釈が可能になると思います。特に、療法士の実感では改善しているのに、点数に変化が見られない場合に、感度・反応性の問題が生じていることが多いので、そういった部分にも配慮できると良いと思います。
参照文献
1. Lang, Catherine E., et al. "Measurement of upper-extremity function early after stroke: properties of the action research arm test." Archives of physical medicine and rehabilitation 87.12 (2006): 1605-1610.
2. Van Der Lee, Johanna H., et al. "The responsiveness of the Action Research Arm test and the Fugl-Meyer Assessment scale in chronic stroke patients." Journal of rehabilitation medicine33.3 (2001): 110-113.
3. Pike, Shannon, et al. "A systematic review of the psychometric properties of the Action Research Arm Test in neurorehabilitation." Australian occupational therapy journal 65.5 (2018): 449-471.