SIS_4

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2025.11.24
リハデミー編集部
2025.11.24

 脳卒中後の患者さんを対象としたQOL評価、Stroke Impact Scale(SIS)に関する解説も4回目、最終回を迎えました。

 今回は、SISと他の評価の関連および解釈の仕方について大阪公立大学の竹林先生にコラム解説をお願いしています

それでは今回も一緒に勉強していきましょう!

Stroke Impact Scaleと他の評価の関連および解釈の仕方

1. Stroke Impact Scale(SIS)のQOL評価としての特徴

 Stroke Impact Scale(SIS)は健康関連QOLを中心に、様々なアウトカム指標との関連性が研究されています。総合的なQOL指標との関連: SISは脳卒中特異的ではありますが、そのドメインにはQOLの重要要素が含まれるため、汎用QOL尺度との相関が高いことが示されています。例えば、SF-36やSF-12といった汎用QOL質問票では身体機能や社会機能のサブスコアがSISの対応領域(身体複合得点、社会参加領域)と強く相関すると言われています[1]。日本語版でもSF-8の身体健康度との相関が高かったように[2]、SIS得点の向上はそのまま患者の主観的QOL改善を反映すると考えられます。またEQ-5Dなどの疾患に特化しない単一指数QOL尺度とも全体的な関連が認められ、特にSF-SIS短縮版ではEQ-5Dとρ=0.79と非常に強い相関が報告されています[3]。一方で、SISは一般的なQOL尺度に比べて脳卒中に由来する詳細な領域別情報を提供できるため、総合QOLスコアが同程度の患者間でも「何が問題か」の内訳を明らかにできる利点があります。


2. 従来の機能的評価との関連

 SISの身体関連領域のスコアとADL評価指標(Barthel IndexやFIM)との相関は極めて高くなると言われています[4]。特にSISのADL/IADL領域やモビリティ領域の得点はBarthel Indexとほぼ線形関係にあるとされ、両者はいわば同じ能力を異なる視点(他者観察 vs 本人申告)から評価したものともいえます。ただしBarthel Indexは高機能者に対する天井効果が著しいのに対し、SIS(特にSIS-16)は高負荷な課題を含むため軽度障害者にも敏感です[5]。実際、軽度の患者ではBarthelが満点でもSIS-16では課題項目に「少し難しい」と感じるものが残る場合が多く、両者の併用によって真に自立しているか、努力や困難を感じているかを評価できます。このことは他の機能評価スコア全般にも言え、SISはFugl-Meyer Assessment(運動機能検査)や歩行速度などの客観指標と中程度の相関を示しますが、完全には重ならない独自情報を提供します。例えば、歩行速度0.8m/sの二人の患者でも、一人は痛みや不安なく歩けており、もう一人は恐怖心や疲労を感じながら歩いている場合があります。通常の機能検査では両者を区別できませんが、SISの「感情」や「参加」領域のスコアは後者で低下し、この違いを表現できます。従ってSISは他の機能検査結果を補完し、患者の「感じている障害」の度合いを測定する意義があるのです。この点は、臨床で多く使用されている評価に加えSISを実施する大きな強みと考えることができると思います。


3. 脳卒中に特化した他の指標との関連性

脳卒中後の特定症状に対する指標ともSISの関係が調べられています。例えば、抑うつや不安とSISの関連については、HADSやPHQ-9といったスクリーニング尺度との相関解析で、SIS感情領域がPHQ-9(うつ症状)とr=0.6の相関を示したとの報告があります[5]。また認知機能(MMSEなど)との関連では、重度認知障害があるとSIS全般の得点が低下する傾向にありますが、MMSEスコア自体との直線的相関はそれほど高くありません(例:SIS-16とMMSEの相関r=0.24)。これは、SIS質問への回答にある程度の認知能力が必要なため、MMSEが一定水準以上でないとSIS自体実施できず、重度認知症例は研究から除外されがちなことが背景にあります。そのためSISとMMSEの相関は母集団が限定され低めになります。一方、神経学的重症度指標のNIHSSや障害度指標のmRSとは、SIS複合得点が中~強度の逆相関を示します(重症ほどSIS低下)。特にmRSとの関係では、mRSが1段階悪化するごとにSIS総合スコアが漸減する傾向があり、SISはmRSと同様に全人的な機能状態を表す指標の一つと捉えることができます[4]。ただしmRSが捉えない微妙な主観差(例えばmRS2の中でも充実した生活を送れている人と制限を感じている人の違い)はSISで明らかになるため、両者の併用により評価が深化します。


4. まとめ

 以上のように、SISはQOL指標とも機能評価とも関連を持ちながら、それぞれを補完する独自の情報源となります。臨床家にとって、SISの得点動向を他の主要アウトカムと照らし合わせることで、患者の状態像を立体的に把握することが可能になります。これを機に、是非臨床においてもSISの取り扱いを検討されてはいかがでしょうか?


参照文献

1. Duncan, Pamela W., et al. "The stroke impact scale version 2.0: evaluation of reliability, validity, and sensitivity to change." Stroke30.10 (1999): 2131-2140.

2. 越智光宏ら. "Stroke Impact Scale version 3.0 の日本語版の作成および信頼性と妥当性の検討." Journal of UOEH 39.3 (2017): 215-221.

3. Coppers, Anna, Jens Carsten Möller, and Detlef Marks. "Psychometric properties of the short form of the Stroke Impact Scale in German-speaking stroke survivors." Health and Quality of life Outcomes 19 (2021): 1-13.

4. Carod-Artal, Francisco Javier, et al. "The stroke impact scale 3.0: evaluation of acceptability, reliability, and validity of the Brazilian version." Stroke 39.9 (2008): 2477-2484.

5. Duncan, P. W., et al. "Stroke Impact Scale-16: A brief assessment of physical function." Neurology 60.2 (2003): 291-296.

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