ARAT_4

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2026.02.02
リハデミー編集部
2026.02.02

ARATの臨床上における利点と限界

1. ARATの臨床上の利用における利点と限界

1)短時間で実施が可能

ARATは約10分前後で完了するため忙しい臨床場面でも組み込みやすい評価です。訓練や資格も特に必要なく、基本的な実施手順さえ習得すれば誰でも評価者になれる点も利点です。これは例えば回復期病棟で定期的に評価を繰り返す場合や、外来リハでフォローアップする場合にも負担が少なく有用です。


2)対象者にとって直感的で自然な課題

評価課題は実際の日常動作に近いため、患者にとっても何ができないか/できるようになったかを実感しやすいという利点があります。「ブロックをつかんで台に載せる」「コップに水を注ぐ」「小さな物をつまんで移す」といった課題は日常生活動作の一部であり、評価結果をフィードバックする際にも患者自身が納得しやすい傾向があります。これはリハビリ動機づけにもつながり得ます。


3)客観的な経時的評価

 臨床では上肢麻痺の回復度合いを客観的に示すことが難しい場合がありますが、ARAT得点は回復の度合いを数値で追跡する手段となります。特に回復期リハビリテーションでは、週単位でのARAT評価により機能回復曲線を描くことで、治療方針の調整や目標設定に役立ちます。アメリカのリハビリ専門職ガイドラインでも、標準化評価としてARAT等を用いて上肢機能障害を定量化し介入計画に反映させることが推奨されています。


4)エビデンスに裏付けられた信頼性

ARATは前述の通り信頼性が高く、誰が評価してもほぼ同じ結果が得られるようデザインされています。臨床においても、評価者間で結果の解釈が分かれにくくチーム共有しやすい指標といえます。実際、米国作業療法協会や理学療法協会の推奨アウトカムにもARATは挙げられており[1]、専門家タスクフォースでも急性期・回復期・慢性期いずれの脳卒中患者に対しても使用を推奨する評価法と位置づけられています。


5)リハ目標設定への活用

 ARATの評価結果(できた課題・できなかった課題の一覧)は、そのまま患者個々の目標設定や治療プログラム立案に利用できます。例えば「小さい物のつまみ動作で苦労している」ことが判明すれば、つまみ動作練習や巧緻性訓練を組み込む、といった具体策につなげられます。また近年提案されたARATキーフォームを用いれば、患者が成功50%程度で取り組める最適課題領域(Raschモデルの遷移帯)を可視化できるため[1]、適切な課題難易度の設定にも役立つ可能性があります。


2. 限界点

1)用具・環境の制約

 標準化のために決められた用具セット(ブロック、ボール、水差し等)と机・椅子が必要です。特にテーブルの高さや椅子の座面など、患者の体格に対して適切にセッティングしないと本来の能力を発揮できない可能性があります(幸い研究ではテーブル高さの違いはARAT得点に大きな影響を与えないとも示唆されています※)。いずれにせよ、病棟や在宅で実施する場合は事前準備や持ち運びの手間があり、これが臨床現場での実施頻度を下げる一因ともなっています。


2)重度麻痺患者への適用限界

 麻痺が重度で基本的な手指把持すら困難なケースでは評価不能または全項目0点となります。このような場合、ARATでは改善の一端(例えば肩の僅かな動きの向上等)を記録することができません。重度麻痺患者には、より低機能者向けの評価(例えば簡易上肢機能テストや徒手筋力テスト、またはFMAの一部項目など)を併用する必要があります。


3)微細な変化の捉えにくさ

 ARATは各課題の成否・程度を4段階に大まかに分類するため、動作の質やスピードのわずかな向上は得点に反映されないことがあります[2]。特に上肢機能がほぼ正常水準に近づいた患者では、さらにリハを継続してもARAT得点は最大の57点で頭打ちとなりがちです。この場合、患者本人は「動きが速くなった」「疲労感が減った」等の主観的改善を感じていても、ARATスコアには現れません。そこで日本の研究グループはARAT各課題の遂行時間に着目した評価法(ARAT-時間スケール)を追加し、上級者の微妙な改善も捉えようという試みを報告しています[2]。臨床でも、必要に応じて動作時間や運動の滑らかさなどを補足評価すると良いでしょう。


4)スコアの解釈と訓練計画

 ARAT合計点は便利な指標ですが、先述の通りその内訳に注意が必要です。例えばGrip(握り)能力は改善したが Pinch(つまみ)は依然困難なケースでは、合計点だけでは見逃されます。臨床では各サブスケールごとの評点や、0点だった具体的課題を把握し、それらをターゲットにリハビリプログラムを設計することが重要です。また、ARATスコアを患者・家族にフィードバックする際も、点数の意味を噛み砕いて説明する(「19点中10点上がりました。握力がついてきてコップを扱えるようになりましたが、小さい豆をつまむ動作はまだ難しいようです」等)ことで理解と協力を得やすくなるでしょう。


参照文献

1. Grattan, Emily S., et al. "Interpreting action research arm test assessment scores to plan treatment." OTJR: occupation, participation and health 39.1 (2019): 64-73.

2. Amano, Satoru, et al. "Clinimetric properties of the action research arm test for the assessment of arm activity in hemiparetic patients after stroke." Topics in stroke rehabilitation27.2 (2020): 127-136.

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