半側空間無視と脳卒中後の麻痺手の機能予後および実生活における使用行動の予後について(2)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.01.30
リハデミー編集部
2023.01.30

<抄録>

 脳卒中を罹患した対象者は,多彩かつ複数の後遺症を有することが多い.それらの中でも,半側空間無視や上肢の麻痺は対象者のQuality of lifeを阻害する大きな因子と考えられている.さらに,半側空間無視については,麻痺側上肢の機能的転機において不良因子である可能性が示されている.このコラムでは,1)脳卒中後の半側空間無視を有する対象者における感覚運動障害の回復および実生活における麻痺手の使用行動の回復との関連性について,と2)半側空間無視を有する脳卒中後の対象者における麻痺側上肢を改善するためのリハビリテーションプログラムの有用性について,3回に渡り解説を行なっていく予定である.第二回は,半側空間無視が,麻痺手の機能予後に影響を与えるかどうかに関して中心に解説を行なっていく.

1.脳卒中後の上肢麻痺の機能予後に半側空間無視は影響を与えるのか??

 脳卒中後の上肢麻痺の機能予後と半側OPLL)との関連性については,多くの検討がなされている.以下に代表的な論文について,端的に解説を行なっていく.まず,Tysonら1は脳卒中後の上肢麻痺の重症度に関して,対象者の属性や脳卒中の病態(出血・梗塞等一般的な病態)とは関連は認めなかったものの,半側空間無視と感覚障害との間に関連性を認めたと報告している(半側空間無視が上肢麻痺の重症度に関連している).

次に,Meyerら2は,半側空間無視は,対象者の麻痺側上肢における感覚障害の重症度と関連があった.さらに,半側空間無視を有する対象者は,半側空間無視を有さない対象者に比べて,右半球病変が有意に多く,麻痺手単独および両手動作のパフォーマンスが有意に重度であったと報告している(半側空間無視は脳卒中後の上肢麻痺のパフォーマンスに関連する).

Kongら3は,対象者の麻痺側手指の巧緻性の低下は,リハビリテーション施設入所時における,前方循環脳卒中,より重度の脳卒中,上肢および下肢の機能低下,感覚障害および反側空間無視の程度によって予測されることを報告した(半側空間無視の存在は,麻痺側手指の巧緻性の低下を予測する).Katzら4は,半側空間無視の存在は脳卒中後に上肢麻痺を有する対象者の日常生活活動および応用的日常生活活動(麻痺手の使用行動には関連しない全身的な日常生活活動における介助度)において,より低いパフォーマンスと関連すると報告していた.こう言ったように,多くの研究において,麻痺側上肢のパフォーマンスの予後予測要因として,半側空間無視の存在が述べられている.

 一方,いくつかの研究において,半側空間無視が麻痺側上肢の予後予測因子ではないと結論づけている論文もいくつか存在する.例えば,Au-Yeungら5は,脳卒中発症後6ヶ月時点における手指の巧緻性の状況を予測する因子として,損傷部位,脳卒中後の重症度,2点識別覚,麻痺側上肢の筋力が挙げられると報告した(測定項目に半側空間無視の有無も存在したが,因子としては認められなかった).また,Duretら6は,脳卒中後の対象者のリハビリテーションプログラム1セッションあたりの動作の反復回数は,脳卒中発症時の上肢機能の程度との間に正の相関があるが,年齢,失語症,半側空間無視の有無との間に有意な相関は認めなかったと報告している(USNは介入後のUE運動回復を予測する要因には含まれなかった).

まとめ

 上記の先行研究から,脳卒中後の上肢麻痺の機能予後と半側空間無視の関係性については,関係の有無ともに種々の主張があることがわかった.しかしながら,多くの研究において,脳卒中後の麻痺の程度については,半側空間無視の存在がある程度影響を与える可能性が示唆されている.これらから,この両者には何らかの関係性が存在することが見て取れる.しかしながら,実生活における麻痺手の使用行動と半側空間無視の関係については,上記で解説した論文からは不明瞭な点が残存している.次回の『半側空間無視と脳卒中後の麻痺手の機能予後および実生活における使用行動の予後について(3)』においては,半側空間無視の程度と,実生活における麻痺手の使用行動についてまとめ,解説していこうと考えている.


参照文献

1. Tyson SF, Chillala J, Hanley M, Selley AB, Tallis RC. Distribution of weakness in the upper and lower limbs post-stroke. Disabil Rehabil. 2006;28:715-719.

2. Meyer S, De Bruyn N, Lafosse C, et al. Somatosensory impairments in the upper limb poststroke: distribution and association with motor function and visuospatial neglect. Neurorehabil Neural Repair. 2016;30:731-742.

3. Kong KH, Chua KS, Lee J. Recovery of upper limb dexterity in patients more than 1 year after stroke: frequency, clinical correlates and predictors. NeuroRehabilitation. 2011;28:105-111.

4. Katz N, Hartman-Maeir A, Ring H, Soroker N. Functional disability and rehabilitation outcome in right hemisphere damaged patients with and without unilateral spatial neglect. Arch Phys Med Rehabil. 1999;80:379-384.

5. Au-Yeung SS, Hui-Chan CW. Predicting recovery of dextrous hand function in acute stroke. Disabil Rehabil. 2009;31:394-401.

6. Duret C, Hutin E, Lehenaff L, Gracies JM. Do all sub acute stroke patients benefit from robot-assisted therapy? A retrospective study. Restor Neurol Neurosci. 2015;33:57-65.

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