半側空間無視と脳卒中後の麻痺手の機能予後および実生活における使用行動の予後について(3)
<抄録>
脳卒中を罹患した対象者は,多彩かつ複数の後遺症を有することが多い.それらの中でも,半側空間無視や上肢の麻痺は対象者のQuality of lifeを阻害する大きな因子と考えられている.さらに,半側空間無視については,麻痺側上肢の機能的転機において不良因子である可能性が示されている.このコラムでは,1)脳卒中後の半側空間無視を有する対象者における感覚運動障害の回復および実生活における麻痺手の使用行動の回復との関連性について,と2)半側空間無視を有する脳卒中後の対象者における麻痺側上肢を改善するためのリハビリテーションプログラムの有用性について,3回に渡り解説を行なっていく予定である.
1.半側空間無視が日常生活活動における麻痺手の使用行動に与える影響について
脳卒中後に生じる上肢麻痺を含めた運動障害の回復において,麻痺側上肢が日常生活活動において,どのように使用されているかどうかを理解することは重要である.事実,日常生活活動における麻痺側上肢の使用は,運動障害の程度だけでなく,その他の認知機能・感覚や知覚といった機能にも関連すると考えられている.その中でも視覚性の注意障害の一つである半側空間無視,身体等の認識に関連する半側無視の存在は,日常生活活動における麻痺手の使用行動において,極めて重要であると言われている1.例えば,先行研究では,半側空間無視を有する脳卒中後の対象者では,方向性の注意障害や半側身体に対する認知の低下が,脳卒中後に生じた上肢麻痺の機能回復の程度に影響を与えることが示唆されている2, 3.しかしながら,半側空間無視や半側無視の存在が,日常生活活動における麻痺手の使用行動に対してどのような影響を与えるかについては,未だあまり多くの研究がなされていない状況にある.
そこで,Vanbellingenらは,脳卒中後に生じた麻痺手の実生活における使用行動と,半側空間無視および半側無視の存在の関係について,調査を行っている.その調査において,半側空間無視は,回復期リハビリテーション病棟入棟時には62%の対象者に半側空間無視が存在し,退棟時には46%にまで低下したと報告している.日常生活活動における麻痺手の使用行動,手指の筋力,手指の巧緻性,認知機能,立体視,麻痺上肢の機能予後に関連があると報告がなされた.また,ビアソンの相関分析の結果,Catharine Belgego Scaleによって測定された日常生活活動における半側空間無視の重症度は,リハビリテーション病棟退棟時の麻痺側上肢の機能予後および手指の巧緻性には,有意な負の相関を認めたと報告している(回復期リハビリテーション病棟において,無視が軽度であればあるほど,麻痺側上肢の機能および巧緻性に改善の兆候があることを示している).一方,手指の筋力,立体認識,認知機能に関しては,半側空間無視の重症度との間に有意な正の相関を認めたと報告している(ここで,手指の筋力についてのみ,半側空間無視の重症度が高いほど,筋力も高いと言う結果になっており,この点の解釈は難しいと感じる).そして,最後に回復期リハビリテーション病棟退院時(脳卒中発症から約45日後)において,日常生活活動における麻痺手の良好な使用行動を示すためのカットオフポイントとしては,回復期リハビリテーション病棟入棟時の握力が13kg以上,日常生活における半側空間無視を測るCatharine Bergego Scaleが5点以下,麻痺側手指の巧緻性を測る9 hole peg testが47秒以下で遂行できることが挙げられている.
まとめ
今回のコラムの内容からも,脳卒中後の麻痺側上肢の日常生活における使用行動に半側空間無視が与える影響は少なくないことが理解できた.また,麻痺手の使用行動を予測するために,麻痺手の握力,巧緻性とともに半側空間無視が要因として挙げられることが明らかになった.これらから,麻痺手の使用行動の拡大には,麻痺手の機能改善と同様に,半側空間無視の改善を目指したアプローチを実施する必要性も示唆された.これらを参考に,介入戦略を構築し,対象者に貢献できるリハビリテーションを展開する必要がある.