初心者向けConstraint-induced movement therapyとは?(6)
<抄録>
Constraint-induced movement therapy(CI療法)とは,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの一つであり,多くのランダム化比較試験を通して,効果のエビデンスが確立されている手法である.この手法は開発されてから約40年が経過し,世界においては標準リハビリテーションプログラムにおける選択肢の一つと考えられており,多くのガイドラインの中でも推奨されている.しかしながら,本邦においては,学生教育や新人教育の中でも標準的には取り上げられておらず,国家試験における出題も1題のみに止まっている.本コラムにおいては,6回に渡りCI療法の概要,歴史,エビデンス等について,簡単に紹介することを目的としている.第5回,6回は特にCI療法のコンセプトの一つである練習において獲得した機能を実生活に転移するための行動心理学的戦略『Transfer package』について概論・背景理論・メカニズム,そして実践に関する解説を行う.
1.CI療法におけるTransfer packageの実際
Transfer packageはCI療法の本質とも言われているアプローチである.近年,麻痺手に関する様々な介入が開発されているが,麻痺手の機能改善だけでなく,生活における麻痺手の使用行動の改善が重要視されている.Transfer packageは「自己効力感(Self-efficacy)」や「認知された障害(Perceived barrier)」と言った心理学的要因を基盤にもつ行動療法の一つである.このアプローチは,1)毎日MALのQOMを自己評価する,2)麻痺手に関わる日記をつける,3)実生活で麻痺手を使用するために存在する障害を克服するための問題解決技法の指導,4)対象者・介助者との麻痺手を練習や生活の中で使うことに関する契約を締結,5)自宅での麻痺手の使用場面の割り当て、6)自主練習の指導,7)毎日の練習内容の記録,から構成される.Transfer packageを課題指向き型練習と併用することで,実施していない群に比べ,有意な実生活における麻痺手の使用行動の改善を認めると報告されている.
2.Transfer packageの実際の手続きの流れ
実際のTransfer packageは非常にアナログな行動心理学的手続きを中心に成り立っている.それらの流れを図1に記載し,これらの流れに従ってTransfer packageの実際について解説する.まず,Transfer packageの1番の難所となるのが初期の議論である.これは,上記の4)に含まれる.まず,この議論の中では,①CI療法の中で対象者が獲得したいと思っている重要な作業を聞き出すこと,②CI療法実施中,対象者の目標となる活動及び療法士側が提案した活動の中で麻痺手を使用することについて同意を得ること,を実施する.
上記のように同意が得られたら,各種身体的な評価の後に課題指向型練習を中心とした集中練習が開始される.それらを実施する中で,毎日練習終了後に,その日自宅や病室に帰った後麻痺手を使用する場面を設定する.この手続きは上記の5)に含まれる.また,これらの使用場面について,実施可能か,それとも困難であったか(困難な場合はその理由まで),記録を対象者自身にしてもらう.これは上記の2)に含まれる.そして,翌日使用場面に関する記録を見つつ,困難であった場面について療法士に示した上で,使用上の問題となった部分を明文化し,それらを解決するための方策を議論する.この手続きが上記の3)に含まれる.これらTransfer packageの主要コンセプトを毎日繰り返すことで,対象者自身がCI療法終了後も,麻痺手の問題点を評価した上で,対応できるための基盤を創造していく.
ここまで示したように,対象者自身が麻痺手の現状と問題点,その解決方法を導き出せるようにすることで,CI療法終了後も対象者自身が単独で麻痺手を使用できる環境を作り出せるように促すアプローチこそがTransfer packageの本質的な役割である.よって,Transfer packageがなく,集中練習のみ実施した場合,長期的な維持効果及び改善効果が認められないと考えられている.
まとめ
本コラムではCI療法におけるTransfer packageの実際の手続きについて言及した.6回にわたって簡単に初学者向けに解説を行った.かなり簡便に解説したので,抜けのある部分もあると思われる.もし,ご興味をいただけたなら,引用している論文等からさらなる情報収集に励んでもらえたらと考えている.