初心者向けConstraint-induced movement therapyとは?(5)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.03.27
リハデミー編集部
2023.03.27

<抄録>

 Constraint-induced movement therapy(CI療法)とは,脳卒中後の上肢麻痺に対するアプローチの一つであり,多くのランダム化比較試験を通して,効果のエビデンスが確立されている手法である.この手法は開発されてから約40年が経過し,世界においては標準リハビリテーションプログラムにおける選択肢の一つと考えられており,多くのガイドラインの中でも推奨されている.しかしながら,本邦においては,学生教育や新人教育の中でも標準的には取り上げられておらず,国家試験における出題も1題のみに止まっている.本コラムにおいては,6回に渡りCI療法の概要,歴史,エビデンス等について,簡単に紹介することを目的としている.第5回,6回は特にCI療法のコンセプトの一つである練習において獲得した機能を実生活に転移するための行動心理学的戦略『Transfer package』について概論・背景理論・メカニズム,そして実践に関する解説を行う.

1.CI療法におけるTransfer packageとは

 脳卒中後の上肢麻痺に対する訓練において,麻痺手の機能回復はもちろん重要だが,その先にある行動変容こそが本質である可能性については,先に述べた通りである.脳卒中後の上肢麻痺に対する課題志向型訓練の代表格であるConstraint-induced movement therapy(CI療法)の最終的な目的の1つも,訓練室において獲得した機能を実際の生活に転移(transfer)させることとされている1.そのために,彼らはTransfer packageと呼ばれる行動学的手法を用いる.この手法は,療法士の監督下になくとも,対象者が主体的に麻痺手を日常生活で使用できることを目標としており,訓練後の生活において,療法士がなくとも対象者自身が主体的に麻痺手に関わる主体的行動を形成することが重要となる.

 心理学者であり,CI療法の創設者であるTaubも2,Transfer packageは訓練効果を日常生活に反映させるために,CI療法の要素の中で最も重要な一部分であり,言うなれば,集中訓練と比べてもより重要な要素であると述べている.筆者らがUniversity of Alabama, Birmingham(UAB)で行われたConstraint-induced movement therapy trainingに参加した際にも,本邦でCI療法を伝播する場合の注意点として,” We would emphasize the critical importance of the Transfer package techniques in CI therapy procedure.”とメッセージを発しており,脳卒中後の上肢麻痺に対する訓練において絶大なエビデンスを築いたUABの研究者らもこのコンセプトを大切にしていることがよく分かる.特に先行研究の中で,Morrisら1は,Transfer packageを通して,対象者の行動を変容するため,Self-efficacyとPerceived barriersという2つの心理学的な要素をあげている.Self-efficacyは,日常の活動における訓練とその結果とパフォーマンスに対するフィードバックから培われると報告している(前項の「行動変容に必要な行動心理学的背景」を参照されたい).

 さらに,Kawakkelら3は,近年では脳卒中後に生じた上肢麻痺に対する治療として,ただ単に反復的な課題を実施する集中訓練はForce used,集中訓練に行動学的戦略の一部としてTransfer packageを導入したものをCI療法と定義しており,後者は前者に比べ,麻痺手の機能および行動を確実に向上させると報告している.

2.Transfer packageの効果

 短期効果に関して,Guaitherら4が,Transfer packageを実施したCI療法群とTransfer packageを実施しなかったCI療法群を介入前後で比較検討し,Transfer packageを実施したCI療法群は対照群に比べ,日常生活における麻痺手の使用頻度を示すMotor Activity Log(MAL)が改善したと報告されている.筆者ら5も短期効果では,麻痺手の機能を示すFugl-Meyer Assessment(FMA)およびMALにおいて,Transfer packageを実施した群が行わなかった群に比べて優れていたことを報告した.さらに,長期効果については,2013年に筆者ら6が,Transfer packageを実施したCI療法群とTransfer packageを実施しなかったCI療法群を比較検討した研究では,CI療法終了から6ヶ月後において,Transfer packageを実施したCI療法群は対照群に比べ,FMAとMALが改善したと報告した.また,2014年には,UABにおいてもTaubら7が 同年に同様の比較研究を実施し,1年後にTransfer packageを実施したCI療法群が対照群に比べて有意に改善したと述べている. 

3.Transfer packageの神経基盤

 Transfer packageを実施することにより,麻痺手の機能および実生活における麻痺手の使用頻度が改善することは上で説明した.この行動変容の際に,脳実質でどのような変化が起こったかについて,ここでは紹介する.Transfer packageの神経基盤に関わる研究は,現在のところUABが行っているのみである.Guaitherら4は,1日3時間の麻痺手に対する課題志向型訓練にTransfer packageを実施した群と,同じ時間の課題志向型訓練のみを実施した群の前後の大脳皮質の体積の変化量をVoxel Based Morphometry(VBM)を用いて確認した.結果は,臨床所見においては,Transfer packageを実施した群は,実施しなかった群に比べて,麻痺手の機能に差はなかったが,麻痺手の実生活における使用頻度においては有意な工場を認めた.さらに,Transfer packageを実施した群は,実施しなかった群に比べて有意に両側の補足運動野,前運動野,一次感覚野,海馬といった部位における皮質体積の増大を認めたと報告した.VBMによってもたらされた各領域の皮質体積の増大は,訓練室だけでなく,生活において麻痺手を主体的に使用した際に生じた可能性がある.つまり,この研究における皮質体積の増大は,実生活における行動変容に特異的な皮質の変化と解釈できる可能性もあり,訓練室の訓練と生活動作は脳活動においても全く別の側面をもつ可能性を示唆している.実際に,Guaitherら4の同じ研究のなかで,介入前後の両群の実生活における使用頻度の変化量と両側の補足運動野と海馬における皮質体積の変化量の関係について,中等度の正の相関(r = 0.45〜0.49)を認めている.

まとめ

 本コラムにおいては,行動心理学的戦略であるTransfer packageについて概要と神経基盤に関して解説を行った.次回最終回は,Transfer packageの実践について記載を行う.


参照文献

1.Morris DM, Taub E, Mark VW: Constraint-induced movement therapy: characterizing the intervention protocol. EURO MEDICOPHY 42: 257-268, 2006

2.Taub E. The Behabior-analysis origins of constraint-induced movement therapy: An example of behavioral neurorehabilitation. The Behabior analyst 35: 155-178, 2012 

3.Kawakkel G, Veerbeek JM, Erwin EH van Wegen, Wolf SL. Constraint-induced movement therapy after stroke. Lancet Neurol 14: 224-234, 2015

4.Gauthier LV, et al: Remodeling the brain: Plastic structural changes produced by different motor therapies after stroke supplemental material. Stroke 39: 1520-1525, 2008


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