リハビリテーションプログラムにおける『報酬:Reward』の重要性について

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.04.03
リハデミー編集部
2023.04.03

<抄録>

 脳卒中後の回復過程において,脳の可塑性は重要なメカニズムの一つとして考えられている.これらのメカニズムは,中脳におけるドーパミンに関連する報酬関連の情報と非常に深い関係があると考えられている.これらの背景から,リハビリテーションプログラムに関わる療法士は,フィードバックやその内に含まれる『報酬:Reward』のあり方を深く理解し,それらを含むリハビリテーションプログラムにおける成果の見せ方,およびインタラクションを意識する必要がある.本コラムにおいては,リハビリテーションプログラムにおける報酬の意味や臨床的な意義について解説する.

1.リハビリテーションプログラムにおける報酬のあり方

 脳卒中に罹患後,50%以上の対象者にQuality of life(QOL)に影響を与えうる四肢の運動障害が後遺症として残ると言われている.療法士は,リハビリテーションプログラムの中で,これらの後遺症に対して,自然回復に併せて少しでも良好な回復を導けるよう,様々な介入を実施する.さて,良好な回復を導くためには,いくつかの要素があると考えられている.その一つとなり得るのが,練習中の報酬の存在である.

 報酬に関わる研究は,人というよりも基礎研究等の方が先行して進んでおり,それらの治験は臨床における報酬のあり方に示唆を与えてくれる.例えば,Hospら1は,ラットを用いた研究において,一次運動野への中脳からのドーパミン放出には,運動学習課題における良好な成功体験が必要なことを述べている.また,Molina-Lunaら2は,一次運動野における長期的な学習の定着(皮質における一次運動野を含むコネクションを強固にすること)には,中脳からのドーパミン放出が必要な要素となるとも報告している.

 さて,これらのラットを用いた基礎研究において,中脳からのドーパミン放出を促す『報酬』については,実験の中で課題を遂行した後に対象に対して提供される餌(生理的欲求を満たす原始的な外的動機付け)を用いた報酬を指すことが多い.一方,一般の臨床の中で,このような外的動機付けを対象者に提供できることはほぼないと言える.さらに,こういった外的動機付けはアンダーマイニング効果を誘発する可能性から,報酬の質としてはあまり推奨しないと言っている研究者も存在しないわけではない3.しかしながら,Leemburgらは,トレーニングとその中での良質な成功体験による報酬は,餌等によって得られる報酬と同様の反応を示すことを示唆している.こう言った研究から,練習における成功体験が,対象者の学習に依存する行動および脳の可塑性の促進を促す可能性について,近年スタンダードな考え方として,許容されている.

 さて,それでは人における臨床研究では,報酬はどういった効果を示すのであろうか.例えば,Wacherら5は,報酬の有無が対象者の行動を変化させることを比較試験によって示している.また,複数の研究者6, 7は報酬によって,特定のスキルにおける学習が進むことをこちらも比較試験によって報告している.さらに,Galeaらは,特定の課題における運動適応に報酬の有無が関連し,報酬がポジティブな効果を産むことを示唆した.これらの結果は報酬が行動やパフォーマンスにとって有効であることを示している.

 また,画像を用いた研究では,Widmerら7は,functional MRIを用いた研究において,パフォーマンスに対する結果を示すといったフィードバックのみを実施した群よりも,それらのフィードバックに加えて金銭的な報酬を提供した郡の方が,より大きな大脳基底核の反応を示したと報告している.また,彼らの研究以外にも,特定の活動におけるスキル・運動学習に関連する報酬は,大脳基底核が重要な領域であることを示している.

まとめ

 上記のように,リハビリテーションプログラムにおける報酬は大脳基底核に依存する可能性があり,臨床においては非常に有用な追加の手続きとして考えられている.報酬の種類は,餌や金銭的なものに代表される外的動機付けが実験セッティングにて用いられることが多いが,一部の研究者は練習における結果やパフォーマンスの知識を提供することで,同様な効果が期待できるとも述べている.これらを理解した上で,対象者の行動変容を念頭において,リハビリテーション時の振る舞いを療法士が意識できると対象者にとってより利益のある時間を提供できる可能性がある.


参照文献

1.Hosp J. A., Pekanovic A., Rioult-Pedotti M. S., Luft A. R.. Dopaminergic projections from midbrain to primary motor cortex mediate motor skill learning. J Neurosci. 2011;31(7): 2481-2487

2.Molina-Luna K., Pekanovic A., R¨ohrich S., et al. Dopamine in motor cortex is necessary for skill learning and synaptic plasticity. PLoS One. 2009;4(9):e7082.

3.多摩川大の論文

4.Leemburg S., Canonica T., Luft A.. Motor skill learning and reward consumption differentially affect VTA activation. Sci Rep. 2018;8(1):68

5.Wachter T., Lungu O. V., Liu T., Willingham D. T., Ashe J.. Differential effect of reward and punishment on procedural learning. J Neurosci. Jan 14 2009;29(2):436-443

6.Abe M., Schambra H., Wassermann E. M., Luckenbaugh D., Schweighofer N., Cohen L. G.. Reward improves long-term retention of a motor memory through induction of offline memory gains. Curr Biol. 2011;21(7):557-562. 

7.Widmer M, Ziegler N, Held J, Luft A, Lutz K. Rewarding feedback promotes motor skill consolidation via striatal activity. Prog Brain Res. 2016;229:303-323.

8.Galea J. M., Mallia E., Rothwell J., Diedrichsen J.. The dissociable effects of punishment and reward on motor learning. Nat Neurosci. 2015;18(4):597-602

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