最近流行りのサウナの効能に見るネット情報の危うさについて

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.04.07
リハデミー編集部
2023.04.07

<抄録>

 近年, Information and Communication Technology(ICT)の発達により,誰でも簡単に様々な情報を手に入れることができるようになっている.その手軽さの反面,社会に情報は溢れ,その情報の正確性も多岐に渡る.情報の中には,エビデンスに乏しく,事実や真実とはかけ離れたものまである.従って,近年では情報を受け取る側のリテラシーが求められるようにもなっている.さて,本コラムにおいては,最近流行りのサウナにおける『ととのう』と呼ばれる現象に対するネット上の様々な情報の真偽について,簡単に検討したいと思う.

1.ヘルスケア界隈における情報の立ち位置

 近年,多くの方々の興味関心が健康に向いており,医療・健康関連の記事がネット上にも多く溢れ,非常に伸びている.そういった背景に後押しされ,インターネット上にある様々な情報に誰でも手軽にリーチできるようになった.しかしながら,そういったトレンドの中,様々な記事が乱立し,その正確性について疑問符を抱くようなものも少なくなくなった.そういった流れの中で,2016年にDeNAが運営していた医療健康情報サイトWELQにおいて,掲載されているすべての情報を一旦非公開にするといった事態が生じた.これは,人の健康や生死にさえ関わるヘルスケアに関する情報に関して,誤った情報が多数,このプラットフォームを通して発信されていると多数の有識者から指摘・批判されたことがきっかけである.この事件をきっかけに,DeNAも薬機法等法令違反に対する専門家による慣習を依頼するなど対応に追われた.このように,インターネット上の情報は玉石混合であり,それらの情報の正確性については,情報を受け取る側が取捨選択をしなければならない時代がやってきたと現在では考えられている.

2.空前のサウナブームにおける『整う』とは?

 さて,そういった健康ブームに乗り,現在巷では空前のサウナブームが押し寄せている.その中でも最近『整う』といったキーワードが濫用され,整うことで身体・精神ともに健康になると多くのサイトが記事を発信している.整うの定義は様々で,それらを取り上げているブログやサイトによって各々異なっている.しかしながら,多くのブログやサイトでしきりに取り上げられている物質が「β-エンドルフィン」「オキシトシン」「セロトニン」である.これらのキーワードを取り上げ,サウナにおける抗体浴はストレス緩和,うつ状態の改善,精神安定といった効果効能を取り上げている.一見,もっともらしく見えるこの論理だが,本当に検証されているのだろうか,そもそも臨床研究におけるエビデンスはあるのだろうか.これらを医学系論文検索サイトであるPubmedを利用して,調査してみることとした.

3.Pubmedによる情報検索の結果…

 さて,Pubmedを用いた検索ではキーワード検索を行う.まず最近話題の抗体浴だが,英語では”Contrast baths”といったワードで表現されている.検索ワードとして”Cotrast baths”,”review”というキーワードで検索したところ,難病や慢性疼痛,疲労回復において,いくつかのレビューが散見された.慢性疼痛,疲労回復に関しては,Systematic reviwe等の数件が検索されたが,それらの論文を精査しても「β-エンドルフィン」「オキシトシン」「セロトニン」の分泌に関する確固たるエビデンスは見当たらず,効能も不明瞭との結果が示されていた1.次に,サウナを意味する”Sauna”,”heating therapy”, ”review”といったキーワードで検索をかけたが,心大血管系の障害の緩和等に関してはSystematic reviewが見つかったものの,ここでも「β-エンドルフィン」「オキシトシン」「セロトニン」に関しては,ほぼ言及がなされていなかった.最後に,”Sauna”,”heating therapy”,”Serotonin”で検索したところ,2件の論文が示されたが,このうち一件では同一個体間のサウナ後,コントロール環境後にて,セロトニン,ドーパミン等の物質に関するマーカーを調査しているが,両環境間に有意な差は見当たらなかったと報告している.

まとめ

 本コラムにおいては,現在空前のブームを迎えているサウナ後の効果効能について,インターネット上のブログやサイトで多く見られる「β-エンドルフィン」「オキシトシン」「セロトニン」といった脳内物質の観点から情報検索を行った.結果,利用者の主観やその状況的にリラックス効果や快楽を産む可能性があることから,これらの物質を生理学的・理論的に結びつけている可能性が高く,これらの物質分泌がサウナおおび交代浴によって,他の状況下よりも秀でているかどうかは疑問点が多くのこった.つまり,この観点に関しては,ブログやサイトにおける効果効能の論述は少し言い過ぎの可能性もあると考えられた.情報選択におけるリテラシーを常に養う必要性についてしっかり考えていく必要があると思われた.


参照文献

1.Stanton DEB, et al. A systematic review of the effectiveness of contrast bayhs. J Hand Ther 22: 57-69, 2009

2.Kallstrom M, et al. Effects of sauna bath on heart failure: systematic reviews and meta-analysis. Clin Cardiol 41: 1492-1501, 2018

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