中高齢の脳卒中患者における疾患罹患後に生じた肩痛のリスクファクターについて(2)

竹林崇先生のコラム
神経系疾患
リハデミー編集部
2023.04.21
リハデミー編集部
2023.04.21

<抄録>

 脳卒中後に生じる肩痛は,最も一般的な合併症であり,上肢麻痺に対するアプローチにおいても大きな阻害因子となる.ただし,それらの原因となりうる危険因子や発症率,そして予後については詳しいことはわかっていない.特に,中高年においては,脳卒中の有無に関わらず肩痛が生じる対象者も多くおり,彼らが脳卒中後にどのような肩痛に悩まされているのかについては,調査がほとんどなされていない.本コラムにおいては,中高年の脳卒中患者の疾患罹患後に生じた肩痛の危険因子等について,解説を行う.第二回は,肩痛を有する対象者における超音波検査の所見を通した危険因子に関する情報と,一般的な肩痛に関するアプローチについて,紹介を行う.

1.超音波検査を用いた脳卒中罹患後に生じる肩痛の危険因子について

 Liら1の研究において,脳卒中罹患後に肩痛を生じた対象者の罹患率等について,発症後2ヶ月から4ヶ月の追跡調査が実施されている.これらの結果,脳卒中後に肩痛を発症した対象者の確率は,入院時が55.6%,2ヶ月後が59.4%,4ヶ月後55.1%であった.ただし,この数値自体は,本邦における対処者が肩痛を有する確率からすると若干多いような印象があるので,脳卒中発症後の医学的な管理,リハビリテーション分野における管理の問題が影響しているのかもしれない.さて,同じ論文の中で,肩痛を有する対象者における危険因子としては,女性であること,脳卒中による損傷領域が大きいこと,上腕二頭筋および上腕三頭筋の緊張が高いこと,亜脱臼が存在すること,肩の受動的可動域制限が生じていること,が報告されている.また,超音波検査を用いた検討においては,肩痛を有する対象者に最も認められた病変は上腕二頭筋および棘上筋の肥厚であり,障害側の棘上筋の厚さは,対側のそれに比べて有意に厚かったと報告している.これらの結果から,肩甲帯の固定に関わる棘上筋が肩痛を有する対象者に関しては,直接的(痛みの直接的な原因)もしくは間接的(痛みがある患者は,肩の固定性が低い場合が多く,それを代償的に固定するために肥大している等)に関連する可能性が示唆された.また,過去の論文においては,Linら2が,肩痛を有する対象者に,subacrominal-subdeltoidの滑液包炎,上腕二頭筋長頭の腱髄部分に滲出液があったとも報告されている.したがって,これらの研究結果から2つの筋肉に対する評価が非常に重要なことがわかる.

2.脳卒中後の肩痛に対するアプローチについて

 現在,肩の痛みを和らげるために,様々な治療法が存在する.例えば,伝統的なアプローチとしては,鎮痛剤,電気刺激療法3,キネシオテーピング4,肩関節を保護するための装具5,免疫反応を抑制するブロック注射6,上肢や肩の機能回復を促す肩関節トレーニング7,漢方や鍼級8等がそれにあたる.多くの患者については伝統的なアプローチが有効なことが多いが,一部の対象者においては伝統的なアプローチでは,痛みの変化が認められないことがある.これら伝統的なアプローチに対する反応性が乏しい対象者においては,近年,ボツリヌス毒素A型施注,肩甲上神経ブロック,緩衝波療法,多血小板血漿注射,ロボット療法などの比較的新しいアプローチも肩痛には良好であると考えられている.

まとめ

 今回,脳卒中後に生じる肩痛について,その発生頻度,危険因子,伝統的・新規的なアプローチについて紹介した.脳卒中後に生じる肩痛については,一次性,二次性の様々な要因が絡み合い生じている可能性がある.また,超音波検査レベルでは,炎症や滲出液の影響も従分に考えられる.対象者の病態に応じて,積極的なアプローチを実施するのか,薬剤を用いて,安静を保つのか,多くの可能性を考えつつ,アプローチの選択を行う必要性がある.


参照文献

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